なんでここに⋯⋯?
窓からは差し込む光を感じ、俺はゆっくりと目を開ける。そして、自分の部屋じゃない天井を見てここが異世界である事を思い出した。
「はぁ⋯⋯夢じゃなかったか⋯⋯」
俺は再度自分の状況を確認する。今日は職業についての特訓の日だったな。
俺の職業をバレないように気を付けないといけないな。そもそも、魔物使いの訓練とか何をするんだろうか? 今日で魔物を仲間に出来たらいいんだけど。
「さて⋯⋯起きるか⋯⋯」
俺は立ち上がる前にベッドに手を着いた。
⋯⋯もにゅっ。
(⋯⋯ん、何でこんなに柔らかいんだ?)
俺の手はこのベッドではあり得ない感触を覚える。これは今まで触ったことの無い柔らかさだ。しかも妙に温かい。
俺は恐る恐る置いた自分の手を見てみる。そこにあったものを見て思考と時が止まった気がした。
そこには女の人が薄着で寝ていた。そして、俺の手は女の人の豊満な胸の上に置かれている。
(え⋯⋯誰? ていうか、胸柔らかッ!)
「ん⋯⋯んん⋯⋯っ」
その女の人は軽く身動ぎをした。それと共に胸が動き、手に柔らかさを伝えてくる、なんて柔らかさだ。
(これが、女の人の⋯⋯いや違う、おっぱいの事はひとまず置いておけ。昨日の夜に何があったのか思い出すのが先だ)
俺は昨日の夜、勇那と別れた後の事を思い返す。うん記憶には特に不自然なところはない。とりあえず、俺が連れ込んだ線は無しだ。
というより、俺はこの人見た気がする。昨日、夜に。
「あ、レオ君起きた? おはよう⋯⋯」
気の抜けた声だけど声に覚えがあった。やっぱり昨日テラスで話をしたお姉さんだった。
昨日はドレス姿で着飾っていたせいか違う人に見える。目を擦りながらあくびをするその人は、何故か昨日に比べて親近感が湧く気がした。
確かに明日会おうとは言っていたがこんな再会になるとは思わなかったな⋯⋯
気がつけばお姉さんは俺の顔を見ずに、自分の胸へと目をやっている⋯⋯ん、胸?
そこには俺の手がしっかりと乗せられていた。しかも、無意識のうちにわしづかみで。
「レオ君のエッチ」
昨日のような、妖艶な笑みを浮かべ、からかい半分の声でお姉さんはそう言った。
「ほんっとうに! もうしわけありませんでしたぁぁぁああ!!!」
本能のままに謝罪をする。不可抗力だと頭ではわかっていてもせざるを得ない。
「勇者ちゃんに言いつけてやろうかなー⋯⋯嘘だよ、そんな悲しそうな顔しないの」
今の自分の顔はわからないけど、お姉さんは困った顔をした。
「そもそも私から入りこんだんだし、レオ君が咎められるのはおかしいよね」
「それは⋯⋯」
「だからなんの問題も無し!」
「いや、あるだろ! まずどうやって入ったかの説明を!」
お姉さんは「んー」と言い、人差し指を顎に当てる。
「ジャミルさん。これだけ言えば君ならわかるでしょ?」
ジャミルさんが合鍵で部屋を開けた⋯⋯それはわかった。でもジャミルさんが扉を開ける理由がない。
「合鍵ね⋯⋯理由は?」
「君の身体を知りたかった⋯⋯じゃダメ?」
これは嘘に見せかけた本当の言葉だと思う。このダメ? と聞いているのが嘘に聞こえるけど本当のことなんだよと主張しているように聞こえるからだ。
ただ、俺の身体とは文面的な意味じゃないだろう。じゃあ、この人の目的は⋯⋯ってなんで推理形式なんだよ、まどろっこしい!
「はい、もう全部話をして! 俺で楽しまない!」
「はーい、なんだぁつまんないのー」
お姉さんはぶーっとふくれっ面をし抗議をする。それを俺は聞き流しした。
「まぁ、冗談はさておき君の身体目的だったのは本当よ。身体や魔力のチェックが大事だったのよ」
「そういう意味か」
「がっかりした?」
俺はその問いには無言で返す。この人の手口はわかった、もう狼狽えたりしない。
「さすがにからかいすぎたか。でもレオ君頭の回転早いね、これはいい魔物使いになるぞ、うん」
お姉さんは何かに納得したのか頻りに頷く。まぁ、俺は魔物使いじゃなくて魔王だからいい魔物使いもクソもないんだけど。
で、それはそうと俺が魔物使いを知ってるってことは⋯⋯
「ということは、お姉さんが⋯⋯」
「貴方の担当官であるシリア・ベルラッドです。よろしくね、レオ君!」
この痴女みたいなお姉さんが担当なことに俺は頭を抱えそうになった。