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勇者のスキル。幼馴染のドレス

「……暇だ」


 俺は今、天井を見上げシミを数えていた。一通り確認を済ませてしまったのでやることが無さすぎる。早くモンスターに会いに行きたいが、どこにいるかわからない上に装備もない状態で出歩くのは危険すぎると判断した。


 普段ならスマホを触ったりテレビを見たり本を読んだりして時間を潰すところだけど、この部屋には娯楽と呼べるものは何も存在しない。この世界に来る時にカバンを落として来たらしく、スマホもない。


 スキルに姿を隠せる能力があれば姿を隠してうろつけたんだけど、そんな物は影や形すらない。まぁ、魔王だから堂々としろということか……そんなところだけ魔王ぶられても困るのだが。


「⋯⋯腹減った」


 今の時間はわからないがお腹が空いてきた。今の時間はどれくらいだろう? 時計もないからわからない。


 早く食べたいけど、どうやら祝宴を行うらしいので準備に時間が掛かっているようだ。今日勇者召喚するのが決まっていたのなら先に準備をしておいてほしかった。


「母さんのカレー食べたかったなぁ……」


 今日のご飯はカレーだと昨日の夜に母さんが言っていたのを思い出す。母さんのカレーはおいしい、確かインスタントコーヒーが隠し味とか言っていたっけ。こんなことになるならもっと味わって食べておくんだった。


(そういえば、シュークリームも買ってきてあったんだ。あれ、腐る前に誰か食べておいてくれるといいけど)


 いつ戻れるかわからない以上、二人には俺のことは吹っ切ってもらいたい。そうでなければ、ずっとつらい思いをさせてしまう。


「あれ……」


 気が付けば頬には涙が伝っていた。張り詰めていた気持ちが緩んでしまったみたいだった。


 ──コンコン。


 不意に扉がノックされ、俺は飛びはねるように上体を起こした。驚きから俺の心臓は速い鼓動を打っている。


「レオ様、よろしいでしょうか?」扉の向こうからジャミルさんの声が聞こえてきた。その事に胸を撫でおろす。


「はい」


 まだ残っていた涙を手の甲で拭き、鼻をすすった。返事に涙声が混じっていたかもしれない。もし気付かれていたら少し恥ずかしい。


「レオ様、お夜食の準備がもう少ししたら出来あがるそうです。服のご準備をしてください」


「え、服?」


「はい、そちらのタンスの方にご用意してありますので」


 タンスを開く。そこにはタキシードのような服が入っていた。これを俺に着ろと?


「では、私はここで待っています。何かあればお申し付けください」


「あ、あの⋯⋯ジャミルさんちょっといいですか?」


 扉の外にいるジャミルさんに声を掛ける。今すぐに聞かなければいけない大事なことがあった。


「はい、何の御用でしょう?」


「す、すみません⋯⋯服の着方がわからないんで、教えてもらえませんか?」


 俺は苦笑いをしてそう言うと、ジャミルさんは少し笑った優しい顔を浮かべた。


「わかりました。それでは着方の方を手ほどきさせてもらいますね」


「⋯⋯よろしく、お願いします」


 俺は服の着方を教えてもらう為にジャミルさんを部屋に招きいれ、教えてもらうのだった。




「大丈夫でしょうか?」


「えっと、動きにくいです⋯⋯」


 こういうしっかりとしたスーツを始めて着た感想はそれだった。まるで型にでもハメられてしまったかのようにピッチリとしたその服は身体を大きく動かす事には不向きに出来ていた。


「それは我慢してください。後は革靴を用意させてもらいました。合うものがあるとよいのですが」


 ジャミルさんは俺の苦情をさらっと受け流すと、後ろにある靴へ手を示す。そこには二十足ほど靴が並んでいた。


「いや、これだけ並んでたらあるでしょ」


 俺はツッコミを入れながら、自分にピッタリの靴を見つけて履いてみた。革靴を履いたのは生まれて初めてだ。更に歩きづらさが一段階あがった。


「では、こちらへ」


 そのままジャミルさんに連れられて会食の場へと向かう。その途中で鎧を着た人達が集まっているのに気付いた。


「ジャミルさん、あれは?」


「勇者様にお目通りをしているのでしょう。千年ぶりの勇者……皆様が会いたがるのも必然だと思います」


 ジャミルさん聞いて納得した。それに勇那がかわいいのもあって、更に人気が出るのも当然のことだと思った。


「あ、怜央だ! よかったぁ、一緒に行こうよ!」


 そう言って人集りの中から勇那は出てきた。その姿はドレス姿で思わず見惚れてしまいそうになる。


(それにしても、よくそんな隙間を縫う動きが出来るな。もしかしてこれは勇者のスキルか?)


 俺はついそんな事を考えてしまう。勇那と戦う未来があったとしても引き分けには持ち込まないといけない。その為に情報は必要だ。情報が俺の生死をわけると言っても過言ではないだろう。


「こんな時に役立つなんて、本当にスキルって便利だね」どうやら勇者のスキルらしい。


(というかそんなポンポンと情報を言うんじゃない。もし敵に聞かれて魔王に伝わったらどうすんだ。って、俺が魔王なんですけどねぇぇえ!!!)


 そんな自虐を心の中で吐き出した。間違っても口には出してはいけない。


「では、勇者様、レオ様、行きましょうか」


 ジャミルさんは歩きだした。俺はそれの後を付いていこうとした。


(ん、やけに視線を感じるな)


 俺は後ろをちらりと見た。そこには不貞腐れた男達がこちら、いや⋯⋯主に俺を見ていた。


 その目に浮かぶ感情は、元の世界で学校に通ってた時と同じ。嫉妬が混じった感情を殺気と共にぶつけられて俺はトラウマを思い出してしまった。


「勇那、もう少し離れて⋯⋯」


「え、なんで? そんな悲しいこと言わないでよ」


 そう言って勇那が手を繋いでくる。その瞬間、更に殺気が濃くなっていくのを感じた。


(ひいいいいい! こ、殺される!)


 こうして俺は新たなトラウマが出来るのであった。

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