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それは、魔物を従える王。

「どうした、早く言わぬか?」


(言えたら苦労しねぇよ!)


 俺は今、皆からの視線で針のむしろになっていた。おい、謎の声よ。世界を救えとか言っていたが、これはどういうことだ? 壊す側の間違いじゃないのか?


 俺はステータスプレートをもう一度見てみる。何回見てもそこに書いてある表示が変わることはない。どうやら俺は本当に魔王であるらしい。


(まぁ、魔王で召喚させるのは百歩譲るとしよう。なんで敵側なんだよ!?)


 あまりの理不尽に匙を投げたくなる。こんなものバレた瞬間にゲームオーバーだ。やり直しも効かない一度きりの生でこんな博打を強いられるなんて思ってもいなかった。


 しかも勇者は勇那だ。彼女に殺されるなんて死んでもゴメンである。というか、彼女に俺殺しの業を背負わせたくない。


(さて、どうすればこの場を切り抜けられる? 考えろ、今はそれしかない)


 異世界チートなら魔王の職業についた時点でかなりの力を得ているはずだ。それに賭けてみるか? いや、それは自分の力を把握出来てない以上賭けにすらならない。ただのやけっぱちだ。


 力押しが出来ない以上現実的なのは口を使う事、特に一番楽なのは嘘だと思われる。しかし、それが嘘だとバレた場合どうなるのかは想像に難くない。


 ならば一番重要なのは整合性。魔王と普通の職がどちらでも出来そうな事をでっちあげるしかない。


(問題は俺がこの国の職業を知らないところ、か。……詰んでるな)


 もし神様がいるのなら説教をしてやりたい、どうして魔王が勇者召喚に巻き込まれてるんだ! テンプレはどうしたテンプレは!!!


「どうした、言えぬのか?」


「え、えっと、あはは」


 王様がどんどんと詰問口調へと変わってきた。とりあえず笑っておく。それがなんの意味もなさないことは百も承知。それでも少しでも時間を稼げば何かが変わってくれるかもしれない。


 そんな藁にも縋る思いでいるしかなかった。魔王としてこの世界に来たのに、やれることが時間稼ぎだなんて……


「早く言わぬか!」


 王様の語気が怒りへと変わっていく。流石にここら辺がもう限界だろう。


「王様、怜央に向かってそんな口を聞かないでください!」


「⋯⋯む」


 俺の前に勇那が立つ。彼女は俺を守るかのように、王様との間へと割り込んでくれていた。勇者の言葉に王様は少し怯む。しかし、俺はそれを見て嬉しさよりも情けなさの方が勝ってしまう。少し前、自分が言った事を思い出してしまう。


(勇那は俺が守るって言っただろ! また守ってもらう立場になるつもりか!)


 俺は自分の頬を叩き深呼吸をする。覚悟を決めろ桜間怜央。魔王なら目の前に立っているおっさんと同じ王なはずだ。ならそれ相応の態度を取れ!


「大丈夫だ、勇那」


 俺は吸い込んだ息を大きく吐き出し心を整えた。これが俺の答えだ!


「俺の職業は⋯⋯魔物使いです」


 魔王は全部の魔物を従える者、ならば魔物使いとして扱われても間違いではないはず。これならおかしくはないだろ! 頼む、俺はまだ勇那の傍にいたいんだ!!!


「そうか、魔物使いか。なるほどな、確かに敵を扱う職業だと言いづらかったかもしれんな」


 王様はしきりに頷いていた。その穏やかな声に少し心が安堵する。どうやら正解を引いたらしい。


「しかし、敵を従える能力は唯一無二のもの! 勇者の助けとなるだろう! 励めよ、レオ!」


「ありがとう……ございます……」


 俺は安堵からその場にへたり込んでしまう。さっきまでの威勢はもうすでに消え去ってしまっていた。


 とりあえず命の危機は脱した。しかし、これからも危険は隣合わせになるに違いない。早く安全を確保しなければ……


「大丈夫?」


 勇那が俺の顔を覗き込んでいた。俺はそれで自分が座り込んだままでいたことに気付く。


「あ、あぁ大丈夫」


 俺は勇那に笑いかけながら立ち上がり、王様を見据えた。


「では、四人にはそれぞれ専用の客室を与える! そこで休むがいい!」


 全員が頷くと、どこからともなく執事の服を着た男達が俺達の背後に現れる。


「では、お客様の部屋へと案内させてもらいます」


 その中で一番歳の老いた初老の男が俺の元へとやってきて頭を下げた。どうやらこの人が俺の専属になってくれる執事のようだった。


「今日の夜は祝宴を開く! また追って伝える!」


 俺達が王の間から退出する時に王様はそう言った。相変わらずの声の大きさに耳が痛くなる。


「勇那様はこちらへ」


「え、そっち? 怜央、私こっちみたい」


 勇那は廊下の別れ道で離れることとなった。きっと勇者だから特別な部屋とか用意されてるんだろう。


「勇那、頑張ろうな」


 去り際に掛けた俺の言葉に、彼女は笑顔で頷いた。その笑顔を見ていると胸が痛くなっていく。


(すまん、勇那……俺が魔王なんだ……)


 勇那の旅の最後に、俺が敵として立ちふさがったらどんな顔をするだろうか? 想像しただけで背筋が凍る。俺達が戦わない方法を探すしかない。でも、それはどうやったら実現出来るのかが今の俺にはわからない。


(……まずはこの世界の仕組みを知らないといけないな)


 ひとまず情報が先決だ。この世界で何が起きているのか、それの把握が何よりの優先事項だと頭の中にメモをする。


 とりあえず、魔王軍と人類軍は争っている。なら、俺以外にも魔王がいるのかどうか……まずはそこから知りたいところだな。


 それなら俺達がその魔王を倒せばいいということになるはずである。一番現実的な案だと思う。


(後はじっくりと考えるとしよう。何せ今から時間はたっぷりあるんだから)


 俺は初老の男の後を付いていきながら、自分の部屋へと向かうのであった。

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