実録、長男の部屋(ほぼ、ノンフィクション)
コロナ禍で、T子一家の長男Hは無事に結婚式を終えた。
「素晴らしい挙式だったわね、ダーリン。」
「ああ、そうだな。列席者の方々もきっと満足していると思うよ。
食事も、おフランス料理が中心だったし、君は基本ビーガンだから(?)肉は食べれないけどね。」
T子の食事だけ魚料理だったのだ。
主人公T子はなんちゃってビーガンだ。(ビーガンは魚も食べない。がそんなことどうでもよかった。)
彼女はだたビーガンにあこがれているだけの、少しきつめな中年女性だ。
要は、流行りに弱い明らかにおつむがちょっとなのだ。
「そうよね、ビーガンは素晴らしいの。知ってる、食肉を作るのにどれだけ二酸化炭素を出しているかって。」
旦那M夫はまたかと思ったが、このめんどくさい少しおつむがそれの妻に合わせるしかなかった。
「君はえらいな。地球環境に興味を持つだけではなく実行しようとしている。」
「言葉間違えないで。ダーリン。実行しようとしているんじゃ無くて、既に実行しているのよ、私はね、い・し・き・が高い主婦であり、ブロガー(?)なの。」
M夫は知っていた。
T子のブログがろくに見られていない事を。
しかし、この夫妻にはT子のおつむ問題以上に深刻な悩みがある。
そう、長男の汚部屋問題から夫妻は常に目をそむけていたのだ。
いや、現実を見るのが怖かったのかも知れない。
「君、Hの部屋、戸を開けたことあるかい?」
「な・な・な・何を言ってるのダーリン。あの子はもういないのよ。結婚したの。だから彼の部屋も無い事と同じ」
訳が分らない独り言でT子はその場を取り繕った。
が、事の重大さは知っていた。
夫妻は長男の汚部屋の戸を開けずに人生の幕を引こうと...
それは大変罪だとは気が付いてはいたが、人間とは時に自身の都合で世の中を見てしまう生き物。
しかし、もう、問題の先送りは選択肢に出来ない。
60を超えてきた夫妻にとって時間は無い。
完全にやばい!
T子は思った、やれねばならないっと。
時遅しだが、相変わらずおつむがあれの彼女は空っぽの脳みそで考えた。
「時が来たわ!扉を開けるのよ!自分の力で?いや、待てよ何かあった場合、ダーリンに犠牲になってもらうのよ。」
T子は旦那の帰りをただひたすら待った。
ピンポーン
M夫のご帰還だ。
少し遅めの夕食を取っている旦那に彼女は思い切って話を切り出した。
「ねえ、ダーリン、相談があるのよ。今まで私達現実に向き合っていなかったわ。
何の話してるか分かっているわよね?あの子の汚部屋をクリーニングするのよ。力を合わせて。」
「君、ついに気が付いてくれたね。私から切り出そうとしていた汚部屋問題に。そうだよ。今週末やろう。」
T子は涙ぐんでいた。
「ダーリン、ありがとう。私頑張るわ。」
T子はおつむはあれだが、いたってすなおな正確だ。
いつもの何気ない週末、買い物に行き洗濯をし、掃除機を掛けそしてモップ掛け等、T子は幸せをかみしめていたはずだったが、今週末は違う!
人生を掛けた終末期じゃない、週末。
思い切って長男の残していったゴミの山が積まれてあろう汚部屋を開ける。
「ダーリン、開けてください。」
「いやだよ、君が開けるんだろ。Hは君が生んだんだから。」
「なに言ってるの。貴方の子供でもあるのよ。」
そんなやり取りが数分続いたが、結果、二人で同時に開ける事となった。
「せーの!」
何とか開いた途端、ゴミが詰まっている汚部屋が眼前に広がり、T子はご近所中に轟きそうな悲鳴を上げる。
想像した以上の悲惨な光景に夫妻は言葉を失う。
そして、どこかからか匂う悪臭。
しかし、夫妻の意思は思ったより強い。
絶対にやり切ろうとあらためて思った。
「それにしてもこの匂いは何?」
「きっと、たばこだろう。Hはたばこ吸っていたからな。」
よく見るとベットの下に吸い殻が落ちている。
そこから匂いが発せられていたのだ。
「き・き・きもちわるい。」
吐き気がT子を襲う。
でも、こんな事ではいけない。
気持ちを強く持って挑まなければ!
まず、最大級に大きなゴミ袋を購入し、長男Hの忘れ物、ゴミを片っ端から入れ始める。
涙ながらに…。
アメリカ代表、フィギュアスケート選手は平昌での忘れ物、金メダルを北京で取り返した。
実に立派だ。
うちの息子の忘れ物は大量のゴミ。
あまりに違いすぎる。
T子は胸が締め付けられる思いがした。
だが、T子夫妻の決心は思った以上に硬く、次々にゴミが袋に詰まっていく。
2時間程ゴミと戦う中でふとした疑問がT子を襲う。
「なんか、大切なこと忘れてるような…。そうだ、クローゼットの中にもゴミが詰まっているはず!」
「ダーリン、大変よ。クローゼットも何か入っているかも?」
思い切って、クローゼットを開こうとしたが、無理だ。
おそらくはゴミが詰まっていて開けられない。
力で押し切ってはクローゼットの扉がやばい、壊れるかも。
ぎぎぎぎぎ、少しづつ開き始めたクローゼット内が見えてきたが、あまりのゴミの量にT子は再び悲鳴を上げる。
「む、無理、また次回頑張りましょう。」
「ああ、そうだな。一回では無理だと思っていたが、これほど酷いとは。」
T子夫妻は日が傾くHの汚部屋で誓った。
必ず生きてこの汚部屋をかたずけるっと。
絶対に業者に任せてはいけない。
自分達の力を信じこれらからもこの汚部屋と戦うい続ける。
傾いた太陽が二人を守っている様に、頭がちょっとのT子は感じた。