エピローグ「賽は投げられた」
『大変なことをしてくれたな、レクリム』
黒暗の空間、照らされた石製の白椅子に腰かけるレクリムは何者かと通信する。
「何のことかな、僕はただ使命を果たしただけだよ?」
『そうであれば、これほど早くに緋霄が生じるわけはなかろう』
「いずれ起こることであれば、別に早まってもいいじゃないか」
語気を強める相手とは反対にレクリムはからかうような口調で話を進める。
『良いかレクリム、次またこのようなことがあれば別の者を』
「あ、ごめん。他の転生使が来たから切るね」
『おい、貴様――』
レクリムは気だるげについた頬杖から顔を離すと、瞳を開けて強制的に通信を断った。
「緋霄がノルカーガを中心に発生したそうだな」
「らしいね」
レクリムの背後から活発な声とともに赤茶髪の男が光の範囲に足を踏みいれる。
レクリムは懐から取り出したサイコロを手の上で転がしながら軽く相槌をうつ。
「お前担当の転生者が問題起こした途端の出来事なんだってな、そのうえ緋霄下のノルカーガにも現れたとかなんとか」
「たまたまだよ。考えすぎさ、ギルベルトは」
ギルベルトと呼ばれる者はレクリムの右側に立ち、椅子の側面へ寄り掛かる。そして常ににこやかに目を細めるレクリムの顔を勘ぐるようにじっと見つめる。
「そっか、それならいいんだ。同神に異端者がいるなんて考えたくもねえからな」
ギルベルトは乱して着用する白衣の袖をまくってレクリムから顔を話すと、もう用がないのか身を翻して元の暗がりに足を進める。
「あとそのサイコロ、転生の時に使うのやめとけよ。俺が言うのもなんだが趣味悪いぞ」
「そう? 僕としてはちょっとした心配りのつもりなんだけどね」
「そういう妙な気回しも含めて、一生懐にでも仕舞っとけ」
ギルベルトはそう言い残し、闇へと姿を消した。
一人残されたレクリムは掌のサイコロをただ見つめる。
「神様だって賽を振る。違いは、その結果を知っているかどうかってだけの話さ」
レクリムはユキトの時と同様に、前方に向かって賽を投げる。
賽は甲高い音を繰り返すと、勢いを失いその場に止まる。
賽の上面には、紅く塗られた一つ目が光を仰ぐ。
「――賽は投げられた。せいぜいあがいてくれよ、少年」




