二話
私たち衛星少女にとって、妹という定義は曖昧だ。一般的な概念と違って、血のつながりがあるわけじゃない。一般の常識は知っている。うん。知ってはいるが、何故知っているのか、どこで知ったのか覚えていない。
46億年という時間がそうさせたのか、そもそも自分が生まれたことすら無意識だったのだから、考えることに意味は無い。
エウロパを妹扱いするのは、単に彼女が自分を姉と呼ぶからだ。他の理由は介在しない。
ただ、私にとって彼女はガニメデや、イオと違い特別な存在だ。火照った体を鎮めながら、重力に逆らいながら移動する。遠くでは木星が地表で渦を巻いていた。
「うう……」
意識すると余計に身体が疼いてくる。数兆年ぶりに会うのだ。何から話そうか。
「あっ」
軌道共鳴。100,000,000km程度自分の軌道を外れるとそうなるのか。万有引力で始めに比べ進むのがとても楽になった。動き始めることに比べれば、進み続けるのは容易だ。
「お姉、ちゃん────?」
「エウロパ!」
想定より早くコンタクトできた。私と同じ、白い髪。ポニーテールを宙でなびかせながら、ふよふよと廻りを浮いてきた。
「えへへー。お姉ちゃんから会いに来るなんて、珍しいこともあるんですね」
「うん。たまにはね」
控えめな空気感が漂う。私たち二人とも会話が苦手なのは似ているな。何を話そう。結局決まってないや。
「あ、どうして来たか、聞いてもいいですか?」
「ええ。そうね。ガニメデの影響っていうか、吹聴? かな?」
「ふふ、何それ」
本当に逢えて良かった。自分がどんどん積極的になっているのを感じる。ずっと話していなかったのだから。もっと。妹のことを知りたい。
しばらく歓談をしている最中であった。遥か遠方700,000km先、私たちの母、木星が激しく光り、苦しみの波が見えた。
「お姉ちゃん、木星が……!」
「エウロパ……!」
木星はまだ荒れている。普段とは明らかに違う様子だ。何があったのだろうか。衛星である自分としては、この状態は看過できない。
「どうやらママに何かあったようね」
衛星にとって惑星は母。
「うん、でも……」
「一緒に行こう、ね?」
「わかった」