第1章 この世界の双子について
神様はさらに話を続けた。
「元々大人しい子達であったし、いい子だった。だから家の外に出てはいけないという大人の言うことを素直に受け止め暮らしていた。双子であるのもお互いが話し相手となり、決して一人になることがなかったことも救いだった。でもそんな状況であったからこそ、次第に双子はお互いに依存しあった。二人が最初にステータスを確認した時にも見ただろうけど、スキルに【一心同体】があったね?
…それはその名前の通り二人で一つ、気持ちも身体状況も同じにしてしまうんだ。勿論使い方次第で危ないものではないんだけど、双子は成長するに従って片割れが出来ることが出来ないことに恐怖を覚えた。別々の人間だから出来ることもあれば、出来ないこともある。二人もそうだろう?
……双子は隔離された世界で双子だけの世界で生きてしまった。その結果、お互いが違う存在ということを考えたくなかった。だからこのスキルを無意識化で習得していた二人はお互いに作用させ合い、お互いを全く同じ存在にしようとした。
一方で双子の親はこのまま月の光を浴びないように生活をさせないという状況、アオーリオの一族とバレてはいけない、バレれば殺されるかもしれないという思いから精神的に疲弊し始めた。双子がいなければ、そんな思いも芽生えてきてしまった。
そんな中、双子はスキルによってお互いの存在を密に感じ、更に依存しきっていた。例えば片割れが紙で手を切る、そうすると何もしていないのにもう一人にも全く同じ傷が出来る。お互いの記憶には紙で手を切ったと記憶される。……そう、このスキルが怖いのはこうして完全にお互いを同じにしてしまうところなんだ。普通は習得するのも滅多にないんだけど、この状況下とアオーリオの血によってスキルを得て、その結果、お互いがどちらかになろうとしてしまった。
そしてその状況を滅多に会わない親はすぐにそれに気づけなかった。偶々訪ねてきたアオーリオの一族というのを隠して旅をしていた女性が双子に会い、双子はお互いに依存している状況、親は先祖返りから自分たちが殺されるかもしれないという恐怖で疲弊している状況を知り、一緒にいるのは家族のためにならないと女性は自分と一緒に旅に来るよう双子に勧めた。双子はどちらでも良かったけれど、外に出れることはワクワクしていた。親は女性のことを信頼していたし、双子が自分達の元にいなければすぐにばれることはないだろうと旅に送り出した。
初めて見る外の世界は二人だけではなく、女性も一緒にいる生活で数年かけて徐々にスキルの効果は薄れていった。気持ちの共有はお互いの感じた事を共有する程度、傷も同じ場所に出来るけど、傷を作った片割れとスキルで傷を作った片割れはちゃんと記憶が混同しなくなった。一挙手一投足同じになることがなくなってきた。そしてそれを恐怖に感じなくなっていった。
そんな時に世界で瘴気が増え始めた。双子と一緒にいた女性は守護精霊とともに瘴気を纏う精霊を救うため原因を調べることとし、双子と話し合い、このサニマの森で別れた。双子は数年の間にある程度は旅で鍛えられて生活を始めようとした矢先に二人の魂が入り、今の状況となった。
……双子についてはこんな感じだけど、どうだい?」
「あー、想像よりちょっと色々アレだけど、大丈夫。その一緒にいた女性のことは知っておきたいんだけど」
「そうだね。…うん、それはまた分かるようにしておくね。他はどう?」
「…僕達が入ったことで、…二人はいなくなったんですか?」
「うーん、いなくなったというよりも今は眠っていて、ゆっくり二人に同調している状態かな。だから段々二人が経験していないのに知っているとか、出来るとか、……それこそ怖いとかが出てくるよ。本当はまだ魂の入っていない赤子に入れる予定だったんだけど、二人の魂があまりに傷ついていて、そのままだと壊れてしまうかもしれなかった。だから急遽君たちと似ている魂の子を探したんだけど、あまりに馴染みすぎて、元がいなくなったように見えちゃったんだ。
…大丈夫、いなくなってはいないよ。ここまで似ている魂は滅多にないから、二人に世界でいうドッペルゲンガーとかそういう世界が違っただけの同じような存在と思ってくれればいいよ」
正直話を聞いて不安だった。
僕達が生きるために、この身体の人を消滅させてしまったのかもって。
でも神様が大丈夫っていうなら大丈夫だと信じよう。
僕の中にこの世界のルナリアがいるんだ。