第1章 初異世界生物との遭遇
「いやいや、無理無理!!ヒヨコって小さいから可愛いけど、あそこまで大きいと可愛くない!!」
「ていうかなんでこっちにヒヨコが来てるの?!っ、もう割と限界なんだけど!!」
重い荷物に運動向きじゃない靴、慣れない足場に苦手な走りともう限界に近い僕は今にも足がもつれて転びそう。僕の手を引っ張ってくれているユリの足を引っ張らないように一生懸命走っているけど、ホントにやばい。
足にばかり集中していたら急にユリが止まったことに気づかずに思いっきりぶつかった。
「ユリ?!っ、ごめっ!!……ど、した、の」
「うえ?!……ぃててて、あ!!ルリ!!あれって、狼ぽくね?」
ユリの見る先には綺麗な銀に青が混じる毛並みを持つ狼らしき動物がこちらをじっと見ていた。
後ろからは巨大ヒヨコ、前には狼。これ詰んだ?
お互い動けないでいると正面にいた狼が目線を逸らし、後ろの巨大ヒヨコを見つめると攻撃態勢に入り、そのまま自分よりもはるかに大きなヒヨコに飛び掛かっていった。
そっとユリとともに近くの木の陰に隠れて狼を見る。
しなやかな体躯の狼が空中で前足を掻いたと思うとそこからキラキラとしたものがヒヨコに当たり、当たったところからヒヨコの体が徐々に凍っていく。巨大なヒヨコは見た目通り動きは遅いから素早い狼にキラキラをどんどん当てられ続け、とうとう倒れて僕らからは見えなくなった。
「……あれってもしかして魔法系?」
「魔法が使えるってことは、………ただの狼じゃなくて、魔物とかそういうのじゃ」
巨大ヒヨコが倒され一段落だけど、今度はさらに大きな命の危機にあると思う。
「これかなりピンチ…だよね?」
「………いや、うん。ほらきっとよくある味方みたいな感じじゃ、」
「あの眼光を見て本当にそう思う?」
「………だよなー。………完全に捕食者の目だよな。………この場合こそ鑑定とか、で…」
「………ユリ?………鑑定?」
鑑定と言ってから言葉に詰まったユリを見て僕も同じく鑑定と呟くとステータスを開いた時と同じ軽快なポンッという音とともに【鑑定スキル 習得しました】と案内が流れ、目の前の狼のステータスが表示された。
ーーー
種族:アイスウルフ
属性:氷
ランク:A
特性:サニマの森に住む気性の荒い四つ足歩行の魔物。
俊敏な動きと氷魔法を駆使して標的を嬲り殺す。
群れでいることが多いが、一人前になると一体で行動し始める。
ーーー
「………ルリ、見た、よな?………えっと、Aランクって、テンプレで言うとかなり強い感じだよな」
「……うん。大抵Fランク位から始めるとして、Aは相当な強さに値すると思うよ」
二人で抱き合いながら、ゆっくり後ろに下がり、決して狼から目を離さずに話をする。
テンプレだとこの狼を倒せるチートとかあるかもしれないけど、そこまで正直頭が回らない。
この本当に死ぬかもしれない状況に精神が追い詰められているのがよく分かる。
そしてゆっくり後ろに下がっていた僕らだったけど、それも終わりを告げた。
足が木に引っかかり、尻餅をつく形で座り込んでしまった。そして目線を外したこともあり、一気に狼がこちらに飛び掛かるのがスローモーションで見えた。
「「………っ」」
お互いを抱きしめながらギュっと目を瞑り、その時を待った。