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第8話 君のことを知りたい

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

本当に毎日寒いです。本当に。

目が乾燥するのと、頭が痛くなるので

普段暖房をつけていないんですが

そろそろ検討する時期ですね……


では、本編スタートです。

ソウキとカナタが定期的に開くというお菓子会に参加する人数を増やすため、私とソウキ、カナタはリエの部屋の前に来ていた。リエなら参加してくれるはずという期待と、リエルもいたら一緒にという願いを込めて、私は扉をノックする。しばらくすると扉が開き、顔を見せたのはリエだった。リエは私たちを見ると目を輝かせた。


「みんないらっしゃい、なの!」


リエのそんな様子に、ソウキと私は思わず笑顔になる。カナタは相変わらずの無表情だったが、ほんの少しだけ驚いているようだった。


「リエ。誰が来たんだ?」


そんな時、部屋の奥からリエルの声が聞こえてきた。どうやらリエルはやはり、リエと一緒にいたようだな。あとはこの2人をお菓子会に招待するだけだ。


「ソウキと、カナタと、レイン!」


リエが振り返ってリエルに伝える。すると気になったのか、リエルが部屋の奥からこちらに歩いてきた。


「3人とも、揃って一体なんの用だ?」


そう言ってリエルは少し首を傾げる。


「2人とも、一緒にお菓子会やろうよ!」


ソウキは元気よく2人を誘う。ソウキの言葉にリエはさっきよりも目を輝かせたが、対してリエルは少し不思議がっていた。


「お菓子会! 行く! 絶対行くなの!」


ソウキからの誘いを受けて、リエはとても嬉しそうにはしゃいでいる。ソウキも一緒になってはしゃぎ、それを隣からカナタが眺めていた。


「リエル。無理にとは言わないが、よければどうだろうか」


少し複雑そうな表情をしていたリエルだったが、私の言葉を聞いて笑みをつくった。


「いいよ。リエが行くって言うなら着いて行くさ」


リエルの返答を聞いたリエとソウキはますます元気になった。そんな様子を見て、私とリエルは思わず綻ぶ。こうして、私、ソウキ、カナタ、リエ、リエルの5人でお菓子会が開かれることになった。



お菓子会の会場は毎回ソウキとカナタの部屋なようで、そこに5人で向かう。本当はそれぞれに部屋を作るはずだったのだが、2人の希望で1つの部屋に住むことになったらしい。2人は本当に仲が良いのだなと思う。それならば、リエルもリエと一緒の部屋に住むと言い出しそうだが、なぜ2人の部屋は別々なのだろうか?


「ついたよ!」


そんなことを考えていると、あっという間にソウキとカナタの部屋に着く。場所はなんと私の部屋の隣、西館1階左側の1番奥の部屋だった。まさかソウキとカナタの部屋が、私の部屋の隣だったなんて思いもしなかった。マミさんの部屋の前にカナタがいたからてっきり東館だと思っていた。


「どうぞ入って!」


ソウキが扉を開けて部屋に入っていき、それに続いてカナタも入っていく。その後をリエ、リエルがいき、最後に私が部屋の中へと入る。



ソウキとカナタの部屋は床にはカラフルでふわふわとした絨毯がひかれ、中心から少し右のところに背の低い丸机がある。右側の壁沿いにある背の低い横が長いタンスの上には、クレヨンやおもちゃが沢山置かれている。反対側の壁沿いには、ソウキとカナタ2人用だと思われる少し大きいベッドがあり、その隣にはこれも背の低い横が長いタンスがある。


「待ってて! 今お菓子を持ってくるから!」


ソウキはそう言ってカナタと2人で、右側にあるタンスの中を探り始める。待ちきれない様子のリエはそわそわしながら丸机の隣に座った。リエルはその隣に座るだろうと思っていたのだが、私の予想とは違ってリエルはベッドに座った。どうやら、リエの付き添いとして来ただけで参加するつもりはないようだ。それならばと思い、私はリエルの隣に座る。


「……向こうに行かなくていいのか」


リエルは子供たちのほうを見ながら、私にそう問いかける。


「あぁ。リエルがここにいるのならば、私もここにいよう」


私もリエルと同じように、子供たちのほうを見ながら言う。ソウキとカナタはお目当てのお菓子を見つけられたようで、2人とも両手いっぱいのお菓子を持って丸机の上に置いた。そんな時、リエがこちらに振り返る。


「リエル、レイン、一緒に食べない?」


少し残念がっているようなリエに、リエルは笑みを見せた。


「もうちょっと後でな」


リエはその答えに満足したのか笑顔を見せると、ソウキとカナタと一緒にお菓子を食べ始めた。その楽しそうな様子を、私とリエルは少し遠くから眺めていた。


「……リエル、1つ聞きたいことがあるんだが、聞いてもいいか?」


私は視点を変えずに言う。


「なんだ?」


リエルも視点を変えずにそう言った。


「リエルは、なぜリエの保護者をしているんだ?」


リエがリエルのことを保護者だと言い、そしてリエルに会ってからずっと気になっていたことだった。館の住民は大勢いるのに、なぜわざわざ保護者という役割を引き受けたのか。


「……」


返事が返ってこなかったためリエルのほうを見ると、どこか悲しそうな表情を浮かべていた。聞いてはいけないことを、聞いてしまっただろうか。


「……俺とリエは、境遇が似ていた。だから、最初はなんとなくだった」


私の想像とは反対に、リエルはゆっくりと語り出した。


「リエも俺も、親に捨てられてこの館に来た。そんな嫌な共通点をを持ってる、っていう理由で気になって。子供は好きじゃなかったが、リエと一緒にいるうちに、楽しいって思えるようになって」


そこでリエルは顔を綻ばせる。


「いつしか、本当の娘みたいに思うようになった」


リエルがリエのことをとても大切に思っていることは、私もよく知っている。食堂で話している姿は本当に親子そのものだった。とても和やかで周りまで笑顔になるような、そんな感じだった。


「今じゃ、それ以上かもな」


そう言ってリエルは笑い、私を見る。


「こんなこと、アカデにも話したことないぞ」


その表情はさっきとは変わって、どこか楽しそうだった。つられて私も笑みをつくる。


「きっとリエも、リエルのことを父親以上に思っていると思うぞ。誰がなんと言おうと、2人はもう家族だろう」


私の言葉を聞いて、リエルはハッとした顔になる。そして、笑みを見せた。


「そうだな。リエはもう、俺の家族だ」


そう言って、リエルはまた子供たちを眺め始める。親に捨てられたという悲痛な状況下で出会ったリエルとリエ。そこから同じ時を過ごす中で、本物の家族以上の絆が2人にうまれた。きっとそれは、この館にいたからこそできたことだろう。


「よし。そろそろ参加するか」


不意にリエルがそう呟く。


「そうだな。あんまり遅いと、3人に怒られてしまいそうだ」


私が冗談めいてそう言うと、リエルは笑う。


「ハハっ、違いねぇ」


そうして、私とリエルは立ち上がってお菓子会を楽しむ3人のところへ行く。ソウキとカナタが館内を探検した時の話や、リエが話すリエルの自慢話。1番好きなお菓子の話や、私とリエルがやった人狼ゲームの話など、とても沢山の事を話した。私を含めたみんなが笑顔で、これ以上ない幸せな空間だった。ソウキとカナタ、リエとリエル。これからも沢山の時を一緒に過ごしてほしいと、心から願う。

結構な時間が経ったとき、ソウキとカナタが用意したお菓子が尽き、会はお開きになった。ソウキとカナタはそのまま部屋に残り、リエとリエルはリエの部屋に戻るようで、みんなに部屋の外で別れを言って、当初行く予定だったレンの部屋に向かう。



みんなの"欠点"を無くすためには、みんなの"欠点"を知ることが必要。だが、そのためには協力者がいる。そうして思いついたのがレンであった。私がこの館に来て、初めて会った住民。彼になら協力を仰げる。そう思った。そして私は東館1階、右側の1番奥にあるレンの部屋に着く。少し緊張するが、これが1番最善の選択だと信じて扉をノックする。


「今行く」


部屋の中からレンの声が聞こえる。突然だったが、居てくれて良かった。数秒後に扉が開く。


「レイン?」


私が尋ねて来たことに驚くレン。無理もない。


「突然来てしまってすまない。実はレンに、どうしても聞いてほしいことがあって」


そう言うと何かを察したのか、レンは真剣な面持ちになって「構わないぞ、入ってくれ」と言ってくれた。私はレンに礼を言い、何時間かぶりにレンの部屋に入る。



私が尋ねてくるまで何かの資料を読んでいたようで、机の上に書類が置いてある。レンはそれをさっと集めてカウンターの上に置いた。私は最初に来た時と同じように壁側のソファに座る。レンも同じように、向かいのソファに座った。


「それで、聞いてほしいことって? 記憶のことか?」


座ってすぐにレンはそう問うてきた。


「いや、違う。関係あるといえば、あるが」


「勿体ぶらずに言ってくれ」


実は私は少しだけ話すのを躊躇っていた。レンを私の事に巻き込んでよいのだろうかと、そう思い始めて来たからだ。だが、ここまで来たのだから成さねばならないと思い、決心して全てを話すことにした。


「……少し前、マミさんが"欠点"の事を教えてくれた」


私の言葉に、レンは目を見開く。


「その時に、マミさんは自身の"欠点"も教えてくれた。そして私は、自分がこの館に来てから記憶喪失になった事も知った」


そこで私は一呼吸おく。


「つまり、記憶喪失こそが、私が背負った"欠点"だったんだ」


「……」


レンは静かに私の話を聞いていた。


「私は、みんなの"欠点"を無くしたい。そして、自分の記憶を取り戻してみせる。だがそのためには、まずみんなの"欠点"を知らなくてはならない。だから、力を貸して欲しいんだ」


私とレンの間に沈黙が流れる。私の要望は急なもので、無理難題に近い。もし断られたとしても文句は無い。だけれど、私には絶対に協力者が必要だった。だからなんとしてでも、レンを口説くつもりだった。


「……分かった。力を貸そう」


だがレンはあっさりと承諾してくれた。


「……本当にいいのか?」


「あぁ。俺も前に、"欠点"を無くそうとしていたことがあった。結局できずに、諦めたんだがな」


そこで笑みを見せるレン。


「だが、レインならできる、そんな気がするよ」


私はとても嬉しかった。レンが協力してくれることが、そして期待されているということが。


「ならば、レインに俺の"欠点"を伝えなければならないな」


レンの不意な発言に私は驚く。


「そんな、無理に言わなくても大丈夫だぞ」


「いいや。これからレインに協力するのに、俺がレインの"欠点"を知っていて、レインが俺の"欠点"を知らないというのは、いささか不公平だろう」


そう言って、レンは自分の両腕の袖をめくる。両腕には、包帯が巻かれていた。そして、レンがその包帯を解き始める。その下にあったのは、大量の切り傷だった。もう傷が塞がっているものや、最近つけられたと思われるものまである。


「これが、俺が背負った"欠点"。俺は、自傷癖になった」


私は絶句した。これが、レンが背負った"欠点"? マミさんは人によって度合いが違うと確かに言っていたが、これはさすがに酷すぎる。自傷、ということはこの傷は全てレンが自分自身で付けたもの、だということ。そうか、だからレンは前に"欠点"を無くそうとしたんだ。自分で自分を傷付けてしまう生活から、逃れるために。


「何度も抑えようとした。だが全て無駄だった。この部屋から、鋭利な物を無くした。それでも気付けば、傷を作ってしまっている」


自身の傷だらけの腕を見ながらレンがそう言う。その痛みや苦しみは、私ではとても測りきれなかった。何度も何度も、自分に憑依したものを取り除こうとして、逃れようとして。今もなお、レンは抗い続けているのだろう。


「……これで2人目、だな」


レンは顔を上げて、微笑んでそう言った。


「……あぁ。ありがとう、レン」


私は心の底から礼を言う。他人が抱える痛みを知る事は、こんなにも辛く、悲しいことなんだ。だがそれでも、私は知らなければならない。みんなを苛んでいるものを。


「必ず、"欠点"を無くす方法を見つける」


自分に言い聞かせるように、レンにそう告げる。


「2人で、な」


そう言ったレンの表情は、とても穏やかだった。そうだ、これからは私1人ではない。同じ問題に直面し、悩み、共に突き進む仲間がいるのだ。レンの存在は、私の中でとても大きなものだ。


「もちろんだ」


私は頷いて返答する。


「よし。なら、一旦状況を整理するところから始めよう」


レンは両腕を包帯で巻きながら、同時進行で話し出す。


「今、この館の住民はみな、"欠点"というものに蝕まれている。俺たちの目標は、その"欠点"を取り除く方法を見つけること。だがその方法を見つけるには、まず住民全員の"欠点"を知る必要がある」


慣れた手つきで包帯を巻いていくレンの姿に、少し心が痛む。


「現段階で分かっているのは、レイン、俺、そしてマミさん。残りあと20人」


20人か。なんだかとても大きな数字に思えてくる。私はまだ、半分の人と会えてすらいない。とりあえずは、今までどうり住民たちに会うことを考えたほうが良さそうだ。


「どうにか、"欠点"を知る方法はないだろうか……」


まるで独り言のようにそう呟き、考え込むレン。私もレンと一緒になって考える。みんなに1人ずつ聞いていったところで、教えてくれる者は少ないだろう。かといって教えてくれるのを待っていては、いくら時間があっても足りない。それならば、みんなの"欠点"を知る者に聞きにいくのはどうだろうか。


「レン、ミラのところに行くのはどうだ?」


そう思った私は、みんなの"欠点"を1番知っていそうなミラの名前を出す。


「この館の医者ならば、"欠点"でダメージを負っている者の治療をしているかもしれないし、定期検診を行なっているから、みんなの事を色々とよく知っているはずだ」


「……なるほど。確かに一理あるな」


レンには思い当たる節があるのだろう。おそらく、レンの両腕の治療はミラがやっているのだ。しかもそれだけでなく、ミラはソウキとカナタの"欠点"も知っていそうだった。


「だが、患者のプライバシーを守るためだ、と言って教えてくれない可能性が高いだろうな」


それは私も考えた。ミラは普段は飄々としているが、自身の仕事は真面目にこなす人だ。十中八九そう言われるだろう。


「でもミラは、他の住民と接触する機会が断然多い。今、私たちが"欠点"を取り除く方法を探していると言っておけば、今後どこかに影響が出てくるかもしれない」


「それに、ミラ自身の"欠点"は知ることができるかもな」


私は頷いて共感を示す。ミラは私たち2人の"欠点"を知っている。半ば強引な形だが、それを引き合いに出すことが1番確実な方法だと思った。


「分かった。なら、今からミラのところへ行くとしよう」


そう言ってレンは立ち上がる。私もそれに続いて立ち上がり、レンと2人でミラの部屋へ向かうことになった。



玄関前を通り、階段を登ってミラの部屋に辿り着く。そしてレンがその扉をノックした。


「はーい、今行くー」


相変わらずのミラの声に、少し安心感を覚える。少しして扉が開き、ミラが顔を見せる。なんだか少し眠そうだった。


「おやレイン。今度はレンと一緒に来たの?」


「あぁ」


ミラの言葉を聞いて、レンは不思議そうな顔をする。


「少し前に、ソウキとカナタに付き添って来たんだ」


そういえばレンに言っていなかったことを思い出しながら、私はレンに説明する。それを聞いて、納得してくれたようだった。


「ミラ。少し話があるんだが、今いいだろうか」


私が聞くと、ミラはにっこりと笑みを浮かべる。


「いいよー。入って入って」


ミラにそう言われ、私とレンはミラの部屋に入った。



今日ミラの部屋に入るのはこれで3回目だったため、もう内装は見慣れてきた。


「まぁ、適当に座ってよ」


そう言いながら、ミラはむかって右側のソファに座る。レンは左側のソファに座り、私はその隣に座った。


「で? 話ってなーに?」


やはりソウキとカナタと来た時とミラの様子が違う。疲れのせいか、寝不足なのか、ミラは少し眠そうだった。ノックをしてから出てくるのが遅かった理由もそれだろう。そんな時に尋ねて来てしまって申し訳ないな。


「単刀直入に聞くが、ミラは住民たちの"欠点"が何か、知っているか」


人狼ゲームの時にも思ったが、レンは回りくどいことが嫌いなようだ。


「……」


レンの言葉でミラの顔つきが急に変わり、一気に緊張感が増す。


「なんでいきなりそんなことを?」


「俺たちは今、"欠点"を取り除く方法を探している。そのために、住民全員の"欠点"を知る必要があるんだ」


レンを見つめるミラは口角こそ上がっているものの、目は一切笑っていなかった。


「だからこうして、住民たちの"欠点"を1番知っていそうなお前に聞きに来た」


その言葉を境に少しの間沈黙が流れる。それを破るように、ミラが残念そうに肩をすくめる。


「ごめんだけど、みんなのプライバシーに関することは言えないよ。これでもお医者さんだからね、僕」


やはり私とレンの予想通りだった。ミラは職務を全うしていることは賞賛に値するが、それは今この状況では不利益だった。


「なら、ミラの"欠点"を教えてはくれないか」


私はすぐに次の作戦に移行する。


「ミラは、私たち2人の"欠点"を知っているだろう。それと交換でどうだ?」


レンが私を見たのが横目で確認できたが、私はミラから視点を変えずに言う。


「……なるほど。いわゆる等価交換ってやつだね」


そう言って笑みを浮かべるミラ。だが、相変わらず目が笑っていない。


「俺からも頼む。この館に住む住民全員のために」


ミラはしばらく黙っていたが、何を思ったのか突然立ち上がった。


「ごめんだけど、僕自身の"欠点"もいうことはできない。ただ、ここまで来て収穫なしじゃさすがに可哀想だから、みんなの"欠点"のヒントはあげる」


私とレンは目を見開く。何も得られないと思っていた矢先の提案だったからだ。


「夜、いろんなところを見てごらん」


さっきまでの緊張した雰囲気はすでにそこに無く、目の前にはいつも通りのミラがいた。


「2人が探しているものが、見つかるように祈ってるよ」


そう言って笑顔を浮かべるミラ。


「じゃあ、今すぐこの部屋から出て」


だがその明るい容姿とは裏腹に、ミラは私とレンを半ば追い出すような形で部屋から出した。



突然住民の"欠点"を教えてほしい、それが無理ならばミラ自身のを、と言われたことに腹を立てたのだろうか。だけれど、そんなやつにヒントをくれたりするだろうか。


「……仕方ない。だがヒントは貰えた」


レンは目の前の状況を飲み込むのが得意なようだ。


「夜、いろんなところを見る……」


それはミラがさっき教えてくれた、住民みんなの"欠点"のヒントだった。夜に"欠点"が多く現れるということだろうか。いろんなところを見る、というのはみんなに会いに行けということではないような気がする。だが、部屋や場所に"欠点“が現れたりするのか?


「一旦、俺の部屋に戻って整理しつつ、次のことを考えるか」


「あぁ」


レンの提案に賛成し、レンの部屋に向かおうとしたその時だった。急に体の力が抜け、重心がグラッと傾く。意識も一瞬どこか遠くなった。それに早く気付いたレンが、体を支えてくれる。


「レイン! 大丈夫か?」


レンのおかげで体が大きく傾くことはなく、なんとか自分で支えることができた。


「……あぁ、もう平気だ。ありがとう」


見ると、レンはとても心配そうな表情を浮かべていた。


「本当に平気なのか? ミラに診てもらったほうが……」


「いや、本当に平気だ。心配してくれてありがとう、レン」


さっきの不調が嘘のように、今ではなんともなかった。しかし、一体なんだったのだろう。


「……なら、いいんだが」


そうは言ったものの、どこか納得していないようなレン。


「一度、部屋に戻って休んできたらどうだ?」


どうやらレンは、私のことをとことん心配してくれているようだ。そのことはとても嬉しかったし、確かにレンの提案は良かった。またこんなことがあっても困るからな。疲れていたり、体調が悪いわけではないのだが、新しい環境にまだ体が慣れていないのだろうか。


「……そうだな。そうするよ」


そう思った私は、素直にレンの提案を受け入れることにした。


「なら、夜にまた俺の部屋に来てくれ」


「分かった」


頷いてレンに返事をし、私は自分の部屋に戻って休息を取ることにした。



階段を降りて1階に行く。そういえばミラの部屋の真下だなと思いつつ、自分の部屋の扉を開ける。自分の部屋に戻ってくるのは着替えに来た時以来で、なんだか少し新鮮だった。今まで誰かと一緒に行動することが多かったためか、1人のこの部屋が妙に静かに感じる。


(……)


今思うと、私の部屋にもキッチンが無い。だがミラやリエルと違って部屋は1つだけだ。もしかして、ここは元々ソウキとカナタ、どちらかの部屋になるはずだった所ではないか。ここは2人の部屋の隣にあるし、説明してくれた内容とも辻褄が合う。そう思うと、なんだかとても不思議な気分になる。


(今度2人に会った時に、話してみようか)


そんな未来の事を想像しつつ、少し休もうと思って私はベッドに腰掛けブーツを脱ぎ、そして横になる。


(やることは多い。だが、煮詰めすぎるのは、あまり良くないな)


そう考えていた時、横になったせいか急に眠気が襲ってきた。私はそれに抗うことなく、身を委ねる。



意識が先に起きてレンとの約束が頭に浮かび、私は体を急いで起こす。どのくらいの時間が経ったのだろうか。もう夜中か、次の日になってしまったかもしれない。そう思った私は急いでブーツを履く。履き終わり、すぐさまレンの部屋に向かおうとした時、視界の端に何かが見える。見ると、机の上に1枚の紙が置いてあった。


(……私が帰って来た時には無かったが)


近寄って手に取ると、それはレンからの置き手紙だった。


『レイン、今夜は急遽予定が入ってしまった。明日の夜に来てくれ』


置き手紙には達筆な字でそう書いてあった。私は安堵する。今が何時かは分からないが、ひとまずレンとの約束に遅れることはなくなったな。わざわざ部屋に伝えに来てくれただけでなく、私が眠ってしまっていたからこうして手紙を残してくれた。やはりレンは心の優しい人物だ。


(さて、これからどうするか)


レンに予定が入ってしまったのは仕方ない。だが、全く眠くないこの状況ではどうするのが正解だろうか。とりあえず、館の外に行って散歩でもしてみようか。まだしっかり外を探索できていないしな。そう思い、私は玄関前へと向かうことにした。



「……?」


自分の部屋を出て玄関前に出る扉を開けると、私と行き違いで玄関から誰かが出て行くのが見えた。全身黒っぽい格好をしていたが、一体誰なのだろう。ちょうど私も外に行くところだったから、きっと誰か知ることができるだろう。今まで会ったことがない住民のようだが、だとしたら良い機会だ。


(よし、行くとしよう)


そう思って、私は玄関の扉を開き外に出た。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今回は新しい住民は増えませんでしたね。

ですが、新たにレンの"欠点"が判明しました。

普段のレンからは想像もできないようなものです。


これからレインは住民たちと出会って

沢山の痛みや苦しみ、悲しみを知っていくのでしょう。

その先に、答えがあると信じて。

彼女の成長に乞うご期待です。


それでは、本日もお世話をしてくれている家族と

インスピレーション提供の友達に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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