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第6話 束の間の安寧

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

人狼ゲームが終わり、またいつもの日常です。

順調に住民たちに会っていくレインですが

全員に会うのはいつになるのか。

まだまだ彼女の物語は始まったばかりです。


では、本編スタートです。

食堂の場所は一体どこなのかと思っていると、私の前を歩く3人はすぐ右にある扉を開け入っていった。こんなに近いところにあったとはと驚く時間も無く、私も3人の後に続いて部屋に入る。


白を基調とした清潔感を感じる部屋で、少し縦長の構造をしている。奥の壁は全面ガラスで、鮮やかに咲いている薔薇が一面に見えている。図書室ほどではないがなかなか広く、部屋にあるのは6組の茶色の丸いテーブルとチェア。1つのテーブルに対し、チェアは4つ置かれている。部屋の1番奥には綺麗に整頓された少し大きめのキッチンがあり、その右側には銀色の扉が1つある。おそらく、食料庫か厨房に続いている扉だと思う。


「レインは、食堂に来るのは初めて?」


私が部屋の内装を眺めていると、アカデが声をかけてきた。


「あぁ、初めてだ。とても良いところだな」


そう言った私にアカデは笑顔を見せる。


「でしょ? ここには、ターシャのこだわりが詰まっているから」


「ターシャ?」


まだ会ったことのない住民の名前だ。


「料理人で、俺たちの飯を作ってくれている人だ。ここは彼女の管理下だから、壁紙や家具、調理器具に至るまで、全てターシャさんが決めている」


私の問いを聞いたレンが丁寧に説明してくれる。たった1人で他の住民全員の食事を作っているというのは、とても凄いことだな。


「頼めばなんでも好きなものを作ってくれるんだよ」


アカデが微笑んでそう言う。なんでも作るというのも凄いな。ということは、毎日メニューが決まっているというわけではなく、ターシャが食堂に来た住民のリクエストを聞いてその都度作っている、ということか。考えれば考えるほど、ターシャという女性が凄い人物であると思う。ならば、今みたいに複数人で来た場合はどうするのだろうか。そんなことを考えていると、キッチンの右側にあった扉から1人の女性が出てきた。


「皆さん、こんにちは。お食事ですか?」


女性は私たちに気付くと、微笑んで挨拶をする。とてもおおらかな女性だった。


「やぁターシャ。そうだよ、僕ら4人ともね」


アカデがターシャと呼んだ女性は、爽やかな笑顔を見せていた。茶色の長い髪に緑色の目、白い薄めの生地のワンピースを着て、黄緑と白のチェック柄のエプロンを着けている。この人が料理人であるターシャか。


「おや、そちらの方は?」


ターシャは私を見て少し首を傾げる。


「初めまして、私はレイン。1週間前にここに越してきた者だ」


私がそう答えると、ハッとしたような顔になるターシャ。


「1週間前というと、あの騒動の……?」


「あぁ、そうだ」


「まぁ、それは大変でしたね」


ターシャは気の毒そうな表情を浮かべるものの、すぐに切り替えてまた元の笑顔に戻った。


「皆さん、どうぞお座りになってください。何かお作りいたします」


ターシャの言葉を聞いて、私たちはキッチンに1番近いところにあるテーブルを選び、そこに4人で座る。ちょうどチェアが4つあって良かったなと思う。


「何かリクエストはありますか?」


私たちのすぐ隣に立っているターシャがリクエストを聞いてくる。そういえば、何を食べようか全く決めていなかったな。特に食べたいものはないし、ターシャの負担を増やすのもよくないから、3人の誰かに合わせることにしよう。


「僕、オムライスで」


そんなことを考えていると、アカデが小さく手を上げてリクエストを出した。なら私もそうしよう。


「私も同じものを」


私とアカデのリクエストを聞いたターシャは頷くと、リエルとレンを見る。


「俺はカレーで」


「俺も同じです」


どうやら2人はカレーにしたようだ。


「分かりました。そうだ! アカデさん、レインさん、お食事の後にベリーパイはいかがですか?」


そのターシャの言葉にアカデが反応する。目が少し輝いたような気がする。アカデはスイーツが好きなんだろうか。


「ぜひいただくよ」


心なしか声も普段より少し高くなっているアカデ。だが私もベリーパイという響きにとてもつられるため、その気持ちはよく分かる。よし、私も食べてみることにしよう。


「私もいただきたい」


ターシャは笑顔を見せる。


「分かりました! それでは、少々お待ちください」


そう言ってターシャは一礼し、振り返ってキッチンへと向かっていった。そういえば、ターシャはなぜレンとリエルには聞かなかったのだろうか。


「レンとリエルは甘いものが嫌いだから、普段から2人には聞かないんだよ」


私の疑問を察したのか、アカデがそう答えてくれる。なるほど、だから2人には聞かなかったのか、納得がいった。そんなやりとりをしていると、キッチンに向かっていたはずのターシャがなぜか立ち止まっていた。一体どうしたのだろう。


「ターシャ、どうかしたのか」


ターシャの様子が気になっていると、リエルが声をかけた。


「今思い出したんですけど、ベリーパイ用のべリーを切らしてたんでした。どうしましょう……」


結構重要なことを忘れていると思うのだが、大丈夫なのだろうか。


「確か、庭園にベリーがあったと思うんだけど」


そうアカデが言う。この館には庭園もあるのか。前に外に出た時は見当たらなかったが、館の裏側にあるのだろうか。


「あぁ! そういえばそうでした! しかし、採りに行こうにも、みなさんのお食事を作らなければいけませんし……」


ターシャは顔に手を当てて考え込んでいる。


「それなら、私が行ってこようか?」


ターシャの手を煩わせるわけにはいかないと思い、私はターシャの代わりに行くことを提案する。庭園がどんなところか気になるため見てみたいという思惑もあったが。


「本当ですか? ありがとうございます! とても助かります」


私からの提案にターシャは目を輝かせて喜んでくれた。なんだかとても誇らしくなる。


「レイン。ここから庭園には、あそこの扉から行ける」


そう言ったレンが指差したのは、私たちが入ってきた扉と向かい合っている部屋の隅にある扉だった。


「分かった、ありがとう」


私はレンに礼を言って、席を立ってレンが教えてくれた扉から外に出た。



庭園に続いていると思われる道は、まるで薔薇の街道だった。背の高いアーチ状の骨組みに沿うようにして、赤い薔薇たちが美しく咲き誇っている。食堂から見える景色も良かったが、こうして外で間近で見るとまた違った感じに見えて良いな。そんなことを思いながら道を通っていくと、だんだんと庭園が見えてくる。


そこは、とても綺麗な場所だった。空がはっきりと見え、周りに少し背の高い木々が生い茂っている。庭園の真ん中には大きめの噴水があり、それを中心に様々な植物が太陽の光を浴びて輝いていた。そんな景色に、私は思わず見惚れる。この館のことを知れば知るほど、どんどん好きになる。そんな気がした。だが、とりあえず今はやるべきことをやろう。この庭園には、またいつでも来れる。そう自分を納得させ、私は目的であるベリーを探すことにした。


庭園の中心にある噴水に行けば探しやすいかと思い、そこまで歩く。すると、館に近い所で何かをしている人の姿が見えた。その人に聞けばベリーの場所が分かるのではと思い、そこへ向かってみることにする。近付いて見ると、なんとそこはベリーが生っている場所。そしてそこにいたのは、しゃがんで作業をしている年老いた女性とリエだった。


「あ、レインだ!」


リエは私に気付くと、すぐに立ち上がって駆け寄ってきた。思わず顔が綻ぶ。


「やぁリエ。こんにちは」


私は2人に挨拶をする。茶色のズボン、薄茶色のシャツに白いベストを着ている女性は私にゆっくりと笑顔を見せる。


「こんにちは。初めてお目にかかる方ですね」


女性と目線を合わせようと思い、女性と同じようにしゃがむ。


「はい。1週間前にここに越してきました、レインといいます」


「そうですか。私はマミといいます。これからよろしくお願いしますね」


言い終わるとマミさんはゆっくり頭を下げた。私もそれに返すように頭を下げた。


「リエちゃんとは、もうお知り合いのようですね」


マミさんにそう言われ、リエと出会った時のことを瞬間的に思い出す。なんだかもう昔のことのようだ。


「はい」


そんなやりとりを隣でリエが不思議そうに見ていた。


「レインはなんでここに来たのー?」


そうだ、私はベリーを摘みに来たのだった。マミさんの醸し出すほんわかとした空気に流され、つい忘れそうになる。


「実は、ターシャに頼まれて、ベリーパイに使うベリーを採りに来たんです」


私の言葉を聞いて、マミさんは驚いた表情を見せる。


「まぁまぁそうでしたか。でしたら、こちらをお持ちになってください」


そう言って、後ろに置いてあったベリーが沢山入っているカゴを差し出すマミさん。


「いや、それはあなたとリエが採ったものでしょう。さすがにいただけませんよ」


「いいえ。私たちも、ターシャさんのところに持っていくつもりでしたから」


ならばと思い、まだ若干のためらいはあったものの、私はマミさんから差し出されたカゴを受け取る。


「ありがとうございます」


マミさんはまたゆっくりと笑顔を浮かべる。


「いいえ」


「リエもベリーパイ食べたい!」


ベリーパイを想像したのだろうか、目を輝かせているリエが可愛らしく、私はリエの頭を撫でる。


「一緒に食べに行こうか。マミさんはどうします?」


「なら、私もご一緒させていただきます」


マミさんの返事に私は頷く。これでターシャも含め全員で7人、大人数でのご飯となりそうだ。その光景を想像し、私はつい微笑んでしまう。みんなで一緒に食べるというのは、想像するだけでも楽しいものだな。つまり、実際はもっと楽しい、ということだろう。私はそれを楽しみにしつつ、リエとマミさんと共に食堂へと戻った。


庭園に行く時に通った薔薇の街道を進み、私はリエとマミさんと共に食堂へと戻る。食堂ではレン、リエル、アカデが何かを話していた。ここからではその内容を聞き取ることはできなかった。すると、リエが突然3人の方へ駆け寄って行った。


「リエル!」


どうやらリエはリエルを見つけて、嬉しくて行ったようだ。自分を呼ぶ声でリエの存在に気付いたリエルは、一瞬驚いたような表情をするも、リエを見て笑みを浮かべた。そして、自身に寄って来たリエをチェアに座った状態で抱きしめた。とても和やかな景色だった。


「リエ、奇遇だな」


不機嫌なリエルばかり見てきた私にとって、今のリエルはとても新鮮だった。それを本人に言えば、また不機嫌になるかもしれないが。


「マミさん。リエのこと、見てくださってありがとうございます」


リエのあとをゆっくり着いて来たマミさんに、リエルは丁寧にお礼を言った。


「いえいえ。リエちゃんと一緒にいると元気が出るから、こちらこそ助かっているわ」


マミさんはニコニコと変わらない笑顔を見せている。そんな2人の間で、リエはリエルに体を寄せて嬉しそうにしている。まるで家族のような、そんな雰囲気があった。


「レイン、おかえり」


3人の光景を少し後ろから眺めていた私に、アカデがそう声をかける。


「ただいま」


この掛け合いも、なんだか家族のようで少し嬉しくなる。


「そのベリーをターシャに渡してくるといいよ。きっと、とても素敵なベリーパイにしてくれるから」


アカデは微笑んでそう言う。私はそれを聞いて頷くと、ターシャのところへ向かおうとした。そのタイミングで、奥からターシャが顔を見せる。彼女は私を見ると、こちらに向かって来た。


「レインさん、ありがとうございます。こんなに沢山!」


私が持つカゴに入っている大量のベリーを見て、ターシャは目を輝かせた。


「これは私じゃなくて、マミさんとリエが採った物なんだ」


「まぁ! そうだったんですね。なら、お2人にもベリーパイを作ってあげなくてはなりませんね」


胸の前で両手を合わせて嬉しそうにしているターシャ。多くの人に自分の料理を振る舞えることが嬉しいのだろう。いつか、私もみんなに何か作ってみたいと思う。


「マミさん、リエちゃん、こんなにも沢山のベリー、ありがとうございます」


リエルと3人で談笑をしているマミさんとリエに、ターシャは少し身を乗り出してお礼を言った。


「いえいえ。これくらいでよければ、いつでもお手伝いしますよ」


「リエも! またマミおばちゃんと一緒にやりたい!」


そう言って、目を細めて笑うマミさんと無邪気に笑うリエ。


「次は、リエルも一緒にやろ!」


振り返って、リエルに期待の眼差しを向けるリエ。リエルは少し困ったような顔を見せたものの、リエの期待に応えるように笑ってみせた。


「いいよ。じゃあそん時、俺に色々教えてくれるか?」


「うん!」


元気良く笑顔で返事をするリエにつられて、ここにいるみんなが笑う。この光景を見て思ったが、誰かと誰かが、ではなく、この館に住む全員が大きな家族として生活しているのだろう。私はまだ新参者だが、その中に入れていることにとても幸せを感じる。私のことを助けてくれたのが、ここにいる人たちで良かったと、心からそう思う。


「それじゃあ、私は昼食を作ってきますね。マミさんとリエちゃんはどうですか?」


「私たちはパイだけで大丈夫よ。ベリーを摘んでいる時に、2人でサンドイッチを食べたから」


マミさんの言葉を聞いて把握したターシャは頷くと、奥にある扉に入っていった。


「すみませんマミさん。リエにそこまでしてもらって」


リエルはマミさんに対して申し訳なさそうな表情になる。リエと一緒にベリー摘みをしただけでなく、サンドイッチまであげたマミさんは、とても心の優しい人のなのだろう。 


「いいのいいの。私が好きでやっているんだから」


話し方や表情からも、改めて優しさが伝わってくる。


「……アカデ」


そんな時、今まで黙っていたレンが口を開いた。


「何?」


「さっきの人狼ゲーム、なぜお前が勝ったのか、その理由をハッキリさせておきたい」


そこまで言うと、レンはリエルの方を見た。


「……談笑中のところ、申し訳ないが」


レンの言葉を聞いたリエルはさっきまでの笑みを消し、小さなため息をついた。


「別にいいよ。俺も知りたいし」


急に雰囲気が変わったからだろうか。どこか心配するように、リエがリエルを見る。そんなリエの頭を、リエルは優しく微笑みながら撫でた。


「マミさん。リエのこと、もう少し頼めますか」


「任せておいて」


レンとの会話から何かを察していたマミさんは、その言葉を待っていたと言わんばかりに即答する。長年の経験、というやつだろうか。


「リエ、マミさんと一緒にいてくれるか」


「うん」


さっきまでの元気良さは無くなっていたが、リエはリエルの言ったことを守り、マミさんの方へ寄る。そして、2人は私たちから少し離れたテーブルに行った。


「とりあえず、レインは座ったら?」


アカデにそう言われて、そういえば今までずっと立っていたことに気付く。それが苦痛ではないほどに、さっきまでの空間が和やかだったのだ。私はアカデに促されて、アカデとレンの間に座る。


「さて。全員いないけど…… 人狼ゲームの反省会、だね」


そう言ってアカデは笑顔になるが、対してレンとリエルは厳しい表情を浮かべている。早めに脱落したことを、今でも根に持っているのだろうか。


「まず、レンがさっき言ったのは、なぜ僕が勝ったのかその理由をハッキリさせておきたい、だよね?」


アカデがレンを見る。


「あぁ、そうだ。4日目の段階で、村人陣営がレイン、フィーチェの2人。それに対して、人狼陣営はアカデ1人。勝敗は歴然だった。にも関わらず、人狼が勝った。これはなぜだ?」


私もレンと同じことを思っていた。4日目にいった時点で、村人陣営の勝利は確実だったはず。だが昼の話し合いで、アカデは自分が人狼であることを言った。そして、僕の勝利は目前だ、と続けた。そんなことはありえなかった。しかしその言葉通りに、人狼陣営が勝利した。


「……アカデが、私よりも長く、この館にいるから」


私は不意に、アカデに言われた言葉を思い出した。


「何?」


レンは私が返答したことに、驚きを隠せないようだった。


「アカデに聞いたんだ、ゲームの途中に。どうして自分が勝つと思うのか、と。そしたら、アカデにそう言われた」


私はレンにその時のことを説明した。それを聞いたレンは、腕組みをして考え込む。が、それはほんの少しの間で。レンは突然笑みをこぼした。


「なるほど。そういうことか」


未だに意味が分かっていない私を置いて、レンは先にその意味を理解したようだった。


「どういうことだ?」


私はそう問うと、レンが話し始めた。


「アカデが自分の勝利を確信した理由は、レインよりも長くこの館にいるから。つまり、レインよりも、この館の住人のことを分かっているから、ということだ」


そこでレンは一呼吸おく。


「4日目に残っていたもう1人の住人フィーチェは、基本的に予定調和を好まない。そのままゲームが進めば、村人陣営が勝つのは確実。それが気に入らなかったんだろう。たとえ自分の陣営が負けたとしても、予定調和を崩すことができるのなら、喜んで実行するのがフィーチェだ。そんな人間性を、アカデは利用した」


「利用だなんて、人聞きの悪いこと言うね」


黙ってレンの話を聞いていたアカデだったが、最後の言葉は気に入らなかったらしい。少し困ったような顔をしている。


「たとえお前にその意識が無かったとしても、やったことは同じだ」


レンは指で眼鏡を上げる。


「あとは、自分で説明するといい」


そう言ってアカデを見るレン。アカデはやれやれといった感じで話し始めた。


「さっきレンが話してくれたように、フィーチェは僕の予想通りに動いたよ。予定調和を壊すためにね」


私はやっと、アカデの言葉の意味を理解する。


「フィーチェは夕方の投票で、自分に票を入れたんだな?」


「その通り」


アカデが笑う。私はなぜか、緊張感から解き放たれたような感覚に陥った。やはり私よりも、アカデの方が一枚上手だったということだ。


「これはあくまでも憶測だけど、フィーチェは人狼ゲームの中で、1度もレインのことを守っていないと思うよ」


ここにきてアカデから衝撃の発言を聞く。


「なぜそう思うんだ?」


驚く私に、アカデは笑顔を見せる。


「僕がレインのことを1度も襲っていないからだよ」


これも衝撃の発言だった。


「多分、フィーチェはそのことに気付いたんだろうね。そしてその流れで、夕方の投票で僕がレインに票を入れないと思った。だから自分に入れた。まったく、恐ろしい子だよ。実際その通りなんだから」


アカデは肩をすくめてみせるが、正直に言ってアカデもフィーチェと同じくらい恐ろしかった。なぜなら、それらを分かったうえで行動していたからだ。


「なんでレインを攻撃しない?」


ずっと話を聞いていたリエルがアカデにそう聞いた。確かに気になるところではある。


「だって、初めてやるのに可哀想でしょ? いきなり攻撃なんてしたら」


初心者への配慮、という私にとってはとてもありがたい理由だったが、どうやら聞いたリエルだけでなく、レンも納得していないようだった。


「……ともかく、理由がハッキリして良かった。だがそうなると、残っていたのがフィーチェではなかった場合が気になるな」


レンのぼやきともとれる発言を聞いたアカデは、声を出して笑う。


「たとえ残っていたのがフィーチェじゃなかったとしても、僕は必ず勝っていたよ。僕が人狼になった段階で、ね」


そう言って怪しく笑うアカデが、なんだか別人のように見えた。心理学者としての意地、だろうか。もし私への配慮が無ければ、あのゲームはもっと早く終わっていただろう。アカデが自らの意思で4日目までもっていったようなものだ。


「アカデ」


私が名前を呼ぶと、いつもと同じ微笑みを浮かべたアカデがいた。


「どうしたの?」


「次にやる時は、遠慮は不要だぞ」


そう覚悟を持って告げると、アカデは少し驚いたような表情をしたものの、すぐに笑顔になって私に言う。


「もちろん、そのつもりだよ」


次は負けない。私の中には、そんな思いが宿っていた。


「みなさーん! 昼食ができましたよー!」


そんな時、奥の部屋からターシャが顔をのぞかせてそう叫んだ。そして少し深めの鍋を持って現れ、それをキッチンにあるコンロの上に置いた。


「やった、ご飯だ」


アカデが嬉しそうに言う。私にとっても待ち侘びた瞬間だった。そう思っているとリエルが無言で立ち上がり、また奥の部屋に入っていったターシャと入れ替わるように、キッチンに行った。


「リエもー!」


マミさんと一緒にいたリエはそう叫ぶと、リエルがいるキッチンに行った。おそらくリエルは料理をよそっているのだと思う。それを手伝おうと思い、私もリエに続いてキッチンに行く。その後にレン、アカデ、マミさん、さらにはオムライスを2皿持ったターシャまで集まり、キッチンはとても賑やかになった。


「リエ、怪我しないように気を付けろよ」


「はーい!」


私たちは全員で分担して配膳をした。幼いながらにリエも手伝ってくれたが、リエルは心配で仕方ないようだった。


そうして、私たちは昼食を楽しんだ。昼食中も人狼ゲームの反省会は続き、レンはいくつもアカデに質問していた。しっかり振り返りを行なっているあたりは、真面目なレンらしかった。一方リエルはずっと無言だったが、2人の会話を真剣に聞いているようだった。次こそは、と心の奥で思っているのかもしれない。


私たちが昼食を食べ終わったのを見計らって、ターシャがリエとマミさんも含めた人数分のベリーパイを持って来てくれた。タルト生地の上のベリーは光り輝いていて、とても綺麗だった。リエルが膝の上にリエを乗せて、パイを食べさせている光景はなんとも愛くるしく、リエもリエルもとても幸せそうだった。私たちもつられて笑顔になり、本当に大家族のような雰囲気に包まれた。


「レインさん、少しいいですか」


そんな中、私がマミさんに呼ばれたのはみんながパイも食べ終え、片付けを終わった時だった。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今回は8人目の住人ターシャ、9人目の住人マミが登場しました。


ターシャは料理人で、何でも作ってくれます。

切実に私にもそんな人が欲しいです。

マミは住人の中で最高齢で、のんびりした人です。

レインでさえそんな彼女に流されていましたね。


それでは、今日もインスピレーション提供の友達と

お世話してくださる家族に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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