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第3話 傷に触れる

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

「雨司」以外にも書きたい小説が沢山あって

どれだけ時間があっても足りないほどです。

いつか全部書いてやろうと思います。


それでは、本編スタートです。

リエルの部屋を出た私とアカデは、隣であるというミラの部屋に行く。距離が短すぎるため特に何もなく、ミラの部屋の前まで来る。その間何故かアカデは上機嫌だ。そしてその上機嫌のまま、扉をノックする。


「ミラ、いる?」


アカデがミラを呼ぶ。その返事はすぐに返ってきた。


「はいはーい、今行きまーす」


部屋の中からアカデよりも少し高い声が聞こえる。フィーチェに似ているような感じだ。どんな人が出てくるのだろうと想像していたとき、部屋の扉が開いた。出迎えてくれたのは少し背が低く、上は白いシャツに白衣を着て、下は焦げ茶色のズボンに白と青のスニーカーを履いている男性だった。髪は少しボサついた薄紫色、瞳は黄色でとても整った顔立ちをしている。この人がミラなのか。


「やぁアカデ。君の定期検診はまだのはずだけど、一体僕に何の用……」


アカデの後ろにいた私を見るなりミラの言葉が止まる。アカデと重なるようにして立っていたため、私の存在に気付くのに時間がかかったのだろう。ミラはこちらを見ながら、目をパチパチさせている。でもすぐに笑みを浮かべた。


「あーなるほど。なんとなく察した」


その言葉を聞いて、アカデが笑顔になる。


「さすがミラ。察しが早くて助かるよ」


「ま、それも僕の仕事ってね。2人とも、どうぞ入って」


ミラが部屋へと招き入れてくれる。私はアカデと一緒にミラの部屋に入る。



部屋に入った瞬間に驚きの光景を目にした。今までの人の部屋と違い、まずキッチンとベッドが無い。部屋の真ん中にテーブル、それを挟み向かい合って置かれたソファ、そして壁際にあるいくつものタンス。そして1番衝撃的なのは、部屋の奥に2つ扉があることだ。つまり、ミラは今いるこの部屋を含めて部屋を3つ所持していることになる。他の人には無い特権だろう。


「ミラは職業柄、部屋が沢山必要でね。この部屋は応接室みたいなものだよ」


驚いている私に気付いたアカデがこっそり説明してくれる。ミラの職業は医者。確かに、部屋1つでは成り立たない気がする。となれば、残りの2つの部屋が何か気になるが。


「ごめんねー、お茶とか用意してないけど」


こちらに振り返って、困ったような笑顔を浮かべるミラ。


「別に構わないよ。突然来たこっちにも非があるから」


そして笑顔を返すアカデ。なんだかさっきから、やりとりがとても和やかだ。見ているこっちもほんわかした気分になる。


「よっこいしょ」


玄関から見て右側のソファにミラは座る。それにならい、私とアカデは並んで左側のソファに座る。


「で、その子がここに来た時のこと、聞きに来たんだよね? あと怪我のこと」


その通りだった。ミラはどれだけ察しが良いのだろうか。アカデが言うくらいだから、余程のことだろう。


「うん。その通りだよ」


笑顔で応対するアカデ。そしてアカデは私が記憶喪失であること、そのため名前が分からず今はレインという名前でいることをミラに話した。本来ならば私が説明すべきなんだろうが、何故か全てアカデが説明した。


「なるほどね。なんとなくそんなことだろうと思った」


ミラが予想外の返答をする。


「レインが記憶喪失だって知ってたのかい?」


アカデも予想外の返答だと思ったようだ。驚きを隠せずミラに対して疑問を投げかけている。それには少しだけ、怒りが含まれているような気がした。


「いや? 知らなかったけど。でも、そんな気はしてた」


ミラはうすら笑みを浮かべる。


「だって、レインが記憶喪失じゃなかったら今頃大パニックになってるはずだし、来る前や来た時の記憶があったらここに連れてきたリースや、治療した僕のところに殴り込みに来てるはずだよね。でもそれも無いし」


そう淡々と言う間、ミラはずっと笑みを浮かべていた。その笑みに私は少し恐怖を感じた。まるで、自分の全てを見透かされているような気分になる。部屋の空間が重くなり始めた瞬間、それを壊すようにミラがパッと明るい笑顔になる。


「まー、そんなこと今さら気にしても仕方ないし、ちゃちゃっと怪我の報告でもするよ。僕もあんまり暇じゃないし」


そう言うとミラは立ち上がり、自分が座っていたソファの後ろにあるタンスを上から順番に開け始めた。


「何か用事でもあるのかい?」


さっきのことが無かったかのように、アカデは平然といる。


「定期検診だよ。今日はレヴィナの」


アカデに答えた後、ミラは何かブツブツ言いながらタンスを開けたり閉めたりしている。探し物だろうか。そういえば、ここに来た時も定期検診という言葉を言っていた。読んで字のごとくだとは思うが、一応聞いてみることにする。ミラは忙しそうにしているため、隣にいるアカデに聞くことにしよう。


「アカデ、定期検診って?」


「ここの住人は1ヶ月に1回、ミラによる健康診断を受ける日があるんだ。大体はみんながここへ来るんだけど、たまにミラが行くときがあってね。今回がそれっぽい」


全員が1ヶ月に1回ということは、ミラを除き21人。日数にすると21日。一月(ひとつき)の3分の2以上も検診していることになる。検診自体はすぐに終わるだろうが、それをほぼ毎日となるとその苦労は計り知れないな。


「あっ、あった!」


私とアカデが話している間に、ミラは目的の物を見つけたようだ。右手にそれを持ち、自分が座っていた場所に戻る。ミラが持っていた物は何かの資料だった。


「えーっと、あーこれだ。なになに……」


じっと資料を見るミラ。一体何の資料なのだろう。


「ふむふむ」


一通り資料を見終わったらしい。ミラは私を見る。


「これは、レインがここに来た時に僕が書いた診断書。いやー、めちゃくちゃ大変だったよ」


ミラは苦笑し、そしてため息をつく。


「まぁともあれ、今から詳しく説明していくね」


資料に目を落とした途端ミラの顔付きが変わった。ここからは真面目な話ということだろう。


「まず、怪我の数と種類及びその場所について、正確な数は傷が重なり過ぎてて把握出来なかったけれど、全体で約20~30箇所に及ぶと推測される。大量出血の原因はそれだと思う。傷は主に両腕と腹部に集中していて、その多くが鋭利な刃物による切り傷だった。そして両脚、背中、さらには頭部にも傷があったけど、頭部の傷だけは何かにぶつかった、もしくは何かをぶつけられたことによる打撲傷だった。あとは……」


「ミラ」


人が変わったように喋り続けていたミラをアカデは言葉で静止する。その言葉で我を取り戻したミラは、しばらくぼーっとしていたあと


「ごめんごめん、つい」


と困ったような笑みを浮かべた。そしてすぐにまた資料に目を落とす。でも、今度は何も喋らず黙々と読んでいた。


ミラの話を私はずっと真剣に聞いていたが、身の毛がよだつような恐怖をおぼえた。怪我は治っているとはいえ、自分がそれほどまでの怪我を負っていたことに驚きを隠せない。しかし、記憶を取り戻すためにも逃げるわけにはいかなかった。


私はミラの言葉を思い出す。1番多かったのは鋭利な刃物による切り傷だと言っていた。鋭利な刃物。それには覚えがある。リースに頼まれて、館の外で木を切った時に見たあの光景。私はあの時、誰かを剣で切り付けていた。ならばその逆も有り得るだろう。


(ここ)に来る前私は誰かと戦っていて、そしてそこでミラが言ったような怪我を負い、瀕死状態になってしまったところをリースが救ってくれた、とすればどうだろうか。ミラは頭部にも傷があり、それは何かにぶつかったもしくはぶつけられたことによる打撲傷だと言っていた。偶然の可能性もなくはないが、誰かと戦ってできた傷だとすれば説明がつく。でも、そうだと仮定して考えても謎は残る。私は誰と、何処で、何故戦っていたのか。


私はあの時見た光景をまだ誰にも言っていない。私のために記憶を取り戻す手伝いをしてくれているみんなのことを思えば話すべきなんだろうが、それが怖い。言ってしまったときの、それに対する返答が怖いのだ。だから言わないでおこう思っているが、誰か1人にでも話しておいたほうが良いのか。今、ここで言うべきか。


「お待たせー、いい感じにまとめれたよ」


ミラの言葉で我にかえる。今まで違う場所にいたような、そんな感覚がある。私は一体何を焦っていたのだろう。


「レイン、大丈夫かい? なんだか少し、疲れたような顔をしているけれど」


私の身を案じてか、アカデが問いかけてくる。さすがにこのタイミングで言うわけにはいかなかった。


「あぁ、大丈夫だ」


私は笑みを浮かべる。アカデはまだ心配していたようだが、ミラの話を聞くことにしたようだ。私は自分の頭を休めるために、少しの間だけ目を閉じることにする。


それは、その瞬間おこった。


頭痛と共に、私の脳裏にあの時のように光景が見えた。太陽の光に照らされて輝く庭園。様々な種類の植物が生い茂り、真ん中にある噴水で蝶たちが舞っている。その中に、誰かが立っている。前に見た人ではない、別の人。その人はこちらに振り返り、私に微笑んだ。


「……ン、イン、レイン!」


アカデに呼ばれ、私はハッと目を覚ます。どうやらほんの一瞬だけ眠っていたようだ。隣にいるアカデがとても心配しているような表情を浮かべ、私の顔を覗き込んでいる。


「大丈夫? さっきから、少し様子が変だけど……」


まだ頭が少しぼーっとしている私は、さっき見た光景は言わないことにする。


「大丈夫だ、問題ない」


「本当に? 何かあるんじゃないのかい?」


「本当に大丈夫だ、アカデ。心配してくれてありがとう。もし具合が悪くなったら、必ず言うから」


気のせいか、アカデとの距離がどんどん近くなっているような気がする。アカデは困った顔をしていたが、私の言葉を聞いて少し安心したのか身を引いてくれた。実際頭痛はしたが、今は収まっているし具合は元から悪くない。でも、アカデが心配してくれているのは嬉しかった。


「レイン、大丈夫?」


ずっと黙っていたミラも、私の身を案じてくれる。


「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」


さっきの光景。最初に見たものとは真逆で、どこか懐かしく暖かいものだった。あれは一体何処なのだろうか。それに、一緒にいたあの人も気になる。なんとなく男性だとは思うのだが、それ以外は何も分からない。これでは記憶を取り戻すというよりかは、何かの映像を見ただけでしかない。それでも、ほんの少しずつ近付いているということにしておこう。


「レインが大丈夫ならいいんだけどさー。ていうか僕、そろそろレヴィナのところに行きたいんだけど。約束の時間過ぎちゃう」


ミラはいつもの笑みを浮かべて言う。


「レヴィナ?」


「あぁ、レインは知らないか。レヴィナはこの館の地下に住んでるデザイナーでね。僕らが来ているこの服のほとんどは、レヴィナが作った物なんだよ」


この広い館に地下が存在したのか。それにも驚きだが、住人の服のほとんどをとなると頭が上がらない。


「今日はレヴィナが定期検診の日か」


「うん、そうなのー」


言ったあと、ミラが私を見る。


「レイン、一緒に来る?」


予想だにしない、突然の誘いだった。


「え? いいのか? ミラの仕事の邪魔に……」


パッとミラが笑顔をつくる。


「大丈夫大丈夫、診断自体はすぐに終わるし。それに、レヴィナに会ってみたいと思わない?」


確かにレヴィナには会ってみたい。私の今の目的は、館の住人全員に会うことと館を探検することだからな。それに、ミラの邪魔にならないというならば絶好の機会だと思う。


「……一緒に行ってもいいか?」


「もちろん!」


ミラが今日1番の笑顔を見せる。


「アカデはどうするんだ?」


「僕はリエルの部屋に戻るとするよ。リエルが可哀想だし」


アカデは寂しそうな笑みを浮かべる。一緒に行きたい気持ちは山々だが、ということだろうか。


「じゃあ行こうか。これ以上レヴィナを待たせても嫌だし」


「あぁ」


私とミラはほぼ同時に立ちあがる。少し遅れてアカデも立ち上がった。ミラが部屋の扉を開け、アカデは左へ、ミラと私は右へ行く。去り際、アカデは笑顔で私たちに手を振ってくれた。振り返す私とミラ。正面を向いたとき、ミラは私に耳打ちする。


「気を付けて、レヴィナは結構変わり者だから」


その言葉に驚く私に、相変わらずの笑顔を向けるミラ。この時の私はまだ知らなかった。この後、あんな勝負が繰り広げられることになるとは。



レインとミラと別れたアカデはリエルの部屋の扉をノックする。少しして、扉が開く。


「……どうせお前だろうと思った」


ダボダボの白いシャツと薄茶色のズボンに着替えていたリエルは、けだるげそうに応対する。


「ただいま」


「帰ってくんなっつったろ」


「1人より2人のほうが楽しいよ?」


リエルはさらにけだるげそうに頭を搔く。


「それを決めるのは俺であって、お前じゃねぇ」


その返答を無視するかのように、アカデはリエルに笑顔を向ける。そんなアカデにいら立ちながらも、リエルは渋々部屋に通す。


「僕が支えてあげなきゃ」


瞬間。誰も聞き取ることの出来ないような、そんな声量でアカデが言った、その言葉。


「? なんか言ったか?」


「いや、何も」


アカデはうすら笑みを浮かべている。少し気味悪く思ったが、リエルは気にしないことにした。アカデはそれから、笑みを絶やすことはなかった。



ミラの言葉を聞いて一瞬足が止まりそうになる。私が困惑していることも知らず、ミラは廊下の扉を開ける。私に耳打ちをしてから何故か上機嫌で、まるでミラの部屋に行くときのアカデのようだ。私は未だ困惑しながらも、ミラと共にそのまま階段を降りていく。


相変わらず上機嫌を保っているミラは階段を降りきるとそこで止まり、振り返って少し後ろにいた私を待った。そういえば、レヴィナの部屋は地下にあると言っていた。何処かに地下に行く階段があるのだろうか。この館は部屋も多そうだし、何処かに地下へと繋がる何かがあっても決して不思議ではない。


「こっち」


ミラはうすら笑みを浮かべたまま私を手招きし、階段の下へと行く。


「地下へはここから行くんだ」


そう言ってミラが階段の下の壁を指差すが、私には普通の壁にしか見えない。一体ここからどうやって地下に行くのだろうか。


「ふふっ、まぁ見てて」


私の疑問を読み取ったように、ミラはそう言う。そして壁に近付いてしゃがむと、何かをやり出した。ちょうどミラの背中と被っていて何をやっているのかは分からない。私が覗こうとしたその時、突然ミラが立ち上がった。それと同時にその壁が上向きに開く。


「ほら、これで見えるようになったでしょ?」


そうミラは笑顔で言うが、一体何が見えるようになったのだろう。そう思って見ると、壁の後ろの部分に扉があった。どうやら、ここから地下に行くようだ。なかなかに不思議な構造だな。


「それじゃあ行こうか」


私が上向きに開けられた壁を見ていると、ミラが声をかけてくる。とても気になるものではあるが、まずはやるべきことを終わらせよう。そう思い、ミラに続いてその現れた扉に入ることに。



扉の先には地下へと続く階段があった。中は少し薄暗い。階段を降り、少し進んだ先に扉が1つあった。ここがレヴィナの部屋か。何故これほどまでに複雑な造りをしているのか分からないが、今はレヴィナに会う方が先だ。今回はミラの定期検診に同行しているという形なため、ミラの邪魔をしないようにするのが1番優先すべき行動だろう。そんなことを考えていると、ミラが扉をノックする。


「レヴィナー、来たよー」


ミラがレヴィナを呼ぶ。どんな人が出てくるんだろうと考えたときに、ミラに言われたことを思い出した。変わり者ということと、この複雑な造りは何か関係があるんだろうか。


「はーい」


中から聞こえてきた女性の声は、なんというか大人の色気がある、とてもまったりした声だった。そして、少しして扉が開いた。出てきたのは背が高く、色っぽい女性だった。濃い紫色の髪は腰ぐらいまであり、頭にはピンクの花の髪飾り。服は少し装飾があるノースリーブの白のロングワンピースに、袖にリボンがある薄い水色のカーディガン、茶色のパンプス。シンプルかつオシャレな服だった。レヴィナはデザイナーであるため、服に気を使っているのだろう。


「あら、早かったのね。ミラ」


「うん。ちょっとねー」


ミラの返答を不思議がったレヴィナはミラの後ろにいる私に視線を向ける。そして、私と目が合った。


「あ、新しく来たレインという。これからよろ……」


その瞬間私の言葉に被さるようにして、レヴィナが私に飛び付いてくる。


「うわぁ!?」


いきなり抱きつかれ、少し叫んでしまう。


「可愛いー! あなたレインっていうのね。可愛らしい名前。ねぇ、レイン。よかったら中に入って? 二人で一緒にお茶しましょう?」


そう言い終わってすぐに私の手を引きほぼ強引に部屋に入らせた。ミラはレヴィナには見えていないようだった。私にはミラが肩を竦めているのが、横目で見えたが。



レヴィナに手を引かれ入った部屋は凄く綺麗で豪華な部屋だった。でも、私がちゃんと部屋の中を見る前にレヴィナは私に話しかける。


「ここで待ってて。今、1番良いお茶を入れてくるから」


そう言い、レヴィナは右奥の扉の中に入っていった。どうやらミラの部屋と同様3つ部屋があるようで、右奥と左奥の扉の間には暖炉があり、薪が燃えている。部屋の中心には、長机とそれを挟むようにして置かれたソファ。壁には絵画があったり、壁際には観葉植物が置かれていたり、全体的に金が使われているところが多かったりととても情報量が多い。おそらくここは応接室のようなところだろう。家具は長机とソファ以外には、少し背の高いミニテーブルがいくつかあるくらいだ。


そうやって私が部屋の中を見回している間に部屋に入ってきていたミラは、一足先にソファに座ってほのぼのとしていた。さっきレヴィナがお茶を入れてくると言っていたので私はミラと向き合うようにして座り、とりあえずそれを待つことにする。


「レヴィナの部屋、いいでしょー。すっごい金ピカで」


「え? あぁ、そうだな。レヴィナの部屋もミラの部屋と同じで、部屋が3つあるんだな」


「そう。なんというか、レヴィナも職業柄かな? さっきレヴィナが入っていったとこには、小さなキッチンがあるけど、主には作業部屋みたいな感じになってる。で、左の部屋は寝室。でも、レヴィナは寝室には絶対入れてくれないんだ。たとえ女子でも、ね」


そう言い終わった後、ミラは笑顔を見せる。寝室にはあまり人を入れさせたくないと思うが、同性ですら入れないというのは何か訳がありそうだ。といっても、本人に聞いても教えてはくれないだろう。私とレヴィナはまだ知り合ったばかりで余計に教えてくれそうにもないため、この話は一旦頭の隅にでも置いておくことにする。


そんなことを考えていると、レヴィナがトレイにティーポットとカップ3つを乗せて来た。私だけを部屋に連れ込んだにも関わらず、ちゃんとミラの分までカップがある。誤解されやすいが根は優しい人物、という解釈をしておく。本人に言ったら、さすがに怒られそうだ。


「はい、どうぞ。ミラの分まで入れてきてあげたから、感謝してね、ミラ?」


「ハイハイ。今日の定期検診の代金だと思っておくよー。ま、普段はお金なんか取らないけどさ」


レヴィナが入れたお茶を真っ先にミラが飲む。飲み終わった後のミラのほんわかとした表情を見る限り、このお茶が相当美味しいことが分かる。ミラに続いて私も一口飲む。味は香ばしく、でもどこか惹きつける甘さがあるものだった。ミラがほんわかとした表情になった理由も分かる。


「このお茶、とても美味しい。ありがとうレヴィナ」


私がそう言うと、レヴィナは目を輝かせて、笑顔になった。


「こちらこそ」


気分が良くなったところで、早速本題に入るとしよう。ミラはまだお茶を味わっているようだし、私の用事から先に済ませてしまおう。


「レヴィナ、ここの館の住人の服は、ほとんどレヴィナが作っていると聞いたんだが……」


レヴィナは私の隣に座る。心なしか、距離が近い。


「えぇ、そうよ。私から提案したの。少しでもここの人の役に立てるなら、ってね」


まさかレヴィナがそんな心意気で服を作ってくれているなんて、思いもしなかった。レヴィナのところへ来て正解だった。


「ありがとう。レヴィナには、本当に頭が上がらないよ」


レヴィナは微笑む。


「いいえ、私だけじゃないわ。この館にいる人全員が誰かの役に立っているのよ。例えば、ミラはみんなの健康を守っているし、レインは私とリースに薪をくれた」


薪とはもしかして、私がリースに頼まれて切った木のことか。あの時リースは薪が足りなくなってきた、と言っていた。薪はあの暖炉の部屋以外でも必要だったのか。


「『人は誰かの苦労の上に成り立っている。この世に生まれたその瞬間、否、生まれる前から私達は常に、誰かの苦労を背負っている。しかし、その苦労の恩恵を放棄した、もしくは放棄しなければならないときに訪れるのが、生命の死』」


「『私達の、人生の終着点』」


レヴィナの言葉をミラが締めくくる。いつの間にか、ミラはお茶を飲み干していた。


「それ、あれでしょー? レヴィナが大好きだ、っていう本にある言葉」


「えぇ。『暗い夜に』という本にある言葉よ。私この言葉が大好きで、もう何十回も本を読んだわ。こうやって、暗唱出来るくらいにね」


さっきの言葉。難しそうな単語が多々あったが、私もとても良い言葉だと思う。ただ、その言葉を言ってからのレヴィナが妙に悲しそうに見えるのは何故だろうか。


「定期検診のたびにレヴィナが言うから、僕も覚えちゃったよー。でも、普通にいい言葉だからね。なんか、色々考えさせられちゃう感じが良いなーって思う」


私と向き合うようにして座るミラは、すごく器用に表情を変えながら喋る。私も自分の気持ちを出せるようになりたいと、心から思う。さて私の用事は終わったことだし、次はミラの番だな。


「まぁいいや。レヴィナ、定期検診やるよ」


「はーい」


レヴィナはさっきまでの雰囲気を見せることはなく、いつも通りに戻っている。私の勘違いだったのか。ただ言葉に感情移入をしていただけ、という可能性もある。レヴィナがいつも通りならそれに越したことはないため、今は流すことにしよう。そうして私が色々と考えている間に、定期検診は始まっていた。レヴィナの前にしゃがんでいるミラは、レヴィナに最近の食生活や何か異常はなかったかを聞き、その後立ち上がって、目を見て、口の中を見て、首と手首を触って


「よーし、異常無し!」


と言って、満面の笑顔で親指を立てた。


「ありがとう、ミラ」


初めて定期検診をする様子を見たが、予想よりもすぐに終わってしまった。というより、あれだけで異常が分かってしまうんだからミラは本当にすごいんだなと改めて思う。


「さあて、検診も終わったし、僕は帰ろうかなー」


立ち上がって伸びをしながらミラが言う。ミラが帰るというのであれば、私もそれにならうことにする。


「なら、私もそうしよう」


ミラに続いて立ち上がった私をレヴィナがじっと見つめる。まるでふてくされた子供みたいだ、と思ったことは口には出さない。だが、その数秒後。レヴィナが企み顔をする。


「ねぇ2人とも。今からお昼まで、暇じゃない?」


レヴィナの言葉にほとんど帰りかけていたミラも止まる。そして、次にレヴィナが言ったことは


「私と一緒に、人狼、しない?」


その言葉により、戦いの幕が切って落とされた。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今回は6人目の住人ミラ、7人目の住民レヴィナが登場しました。


ミラは凄腕お医者様ですが、普段は飄々としています。

面倒事が嫌いにも関わらず、巻き込まれるタイプです。

レヴィナはデザイナーで、住民の服を作っています。

性格にやや難がありますが、仕事は真面目にするタイプです。


それでは、私をお世話してくれる家族と

インスピレーション提供の友達に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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