第18話 紡ぐ詞
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
夏の時は「冬の寒さは耐えられる」と思い
冬の時は「夏の暑さは耐えられる」と思う
この現象は、一体何なのでしょうか。
では、本編スタートです。
カナタがレイン探しに奮闘する少し前、朝食を食べるためにレインは食堂へと向かっていた。
館で生活を始めてから、今日で3日目となる。2日目、つまり昨日も1日目と同じくらいに濃い1日であったと思う。おそらく、今日もそうなるのだろうと思っている。私がまだ会っていない住民はあと5人。その人たちに今日は会いに行きたいし、夜にはレヴォルと共に兵隊討伐がある。もしかすると、今日が1番濃くなるかもしれないな。
(……着いた)
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に食堂へとたどり着く。そういえば、1人でここへ来るのは始めてだなと思いながら食堂の扉を開けた。
食堂へ入ると、右側の1番端の席に見たことのない少女が座っていた。おそらく、私がまだ会っていない住民だろう。そう思うと気になってしまったため、声をかけてみることにする。白いカップを片手に穏やかな様子の少女は、私が近付いてもその存在に気付いていないようだった。
「なぁ」
私が声をかけると、少女は少し驚いて顔を上げ私を見た。
「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
「い、いえ……。気が付かなかった、私が悪いので……」
未だに少し驚いている様子の少女は、なんだかもじもじとしている。なんだか悪いことをしてしまったな。
「私は、1週間ほど前にここに来たレインという。まだ会っていない人だったから、挨拶がしたくてな。邪魔をしてしまったのなら謝る」
私がそう言うと、少女は申し訳ないというような表情を浮かべて両手を交差させるように振った。
「そ、そんな! わざわざ、ありがとうございます」
両手を下ろした少女は再びもじもじとし始める。私はてっきり名前を教えてくれると思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。まあそれは人それぞれかと思いつつ、一応聞いてみることに。
「名前は、なんというんだ?」
少女がもじもじを止めて私を見る。
「サミュと言います。えっと、レインさん、で、大丈夫、ですか……?」
「あぁ。よろしく頼む」
私の言葉に、サミュが笑みを見せる。濃い茶色の目に薄いピンク色の長い髪を下の方で2つの三つ編みにまとめており、服装は白いシャツに髪色と同じくらいの薄いピンク色をしたカーディガンで首元には茶色のリボンがある。下は茶色のチェック柄のズボンを履いており、大人しい可愛らしい子という印象だ。
「おや、レインさん」
その時、不意に後ろから聞き馴染みのある声をかけられる。振り返ると予想通り、そこにはターシャがいた。
「ターシャ。おはよう」
私が挨拶をすると、ターシャはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべてくれた。
「おはようございます。朝食、すぐに作りますね」
「ありがとう」
そしてターシャは朝食の用意をするために、再び奥の扉の中へ戻っていく。
「サミュは朝食はもう食べたか?」
そう聞くと、サミュが小さく首を振る。
「いいえ、まだです」
「よければ、一緒に食べても構わないか?」
今度は小さく頷くサミュ。
「はい。あ、どうぞ」
サミュはそう言って、自分の向かいの席を両手で指し示した。
「ありがとう」
私はそれに誘われるように、サミュの向かいの席に座る。それからサミュと少し話をしていた時、ターシャが朝食を運んできてくれた。食堂に誰かが来る気配が無かったため、朝食がまだというターシャと3人で食べることになった。
その後朝食を食べ終わった私は、まだここにいるというサミュとターシャに別れを言い、昨日の夜、ルナに頼まれた歌詞を書くためにカイのところへ向かうことにした。絵本作家であるカイならば、良いお手本になってくれると思ったからだ。もっとも、絵本と歌詞は全然違うと言われれば、それまでだが。
(前回カイの部屋に行った時は、カナタが一緒だったな)
昨日ミラからソウキの"欠点"を聞いた後、それをカイに伝えるためにカナタと共にカイの部屋を訪れた。絵本が沢山置かれているカイの部屋を見て、そこで初めてカイが絵本作家であるということを知った。カイの性格からは想像できないような職種だったが、私には到底真似できない素晴らしいことだと思う。
(もっとも、それをカイに伝えたとしても、また顔を逸らされてしまうだろうがな)
そんなことを考えながらカイの部屋がある東館2階に辿り着く。カイがいるといいなと思いつつ、右側1番手前の扉をノックする。少しして部屋の扉が開けられ、部屋の主であるカイが姿を見せた。
「? レインか。どうかしたのか?」
「突然訪ねてしまってすまない。少し用があるんだが、今構わないか?」
「あぁ問題ない。入ってくれ」
カイはそう言うと、部屋の扉を少し大きく開けてくれた。私はそれに礼を言いつつ、カイに続いて部屋の中へと入った。
カイの部屋に入るのはこれで2回目だが、やはり綺麗な部屋だと思う。そこに絵本という少し可愛らしい要素が加わっているのもとても良いな。
「自由に座ってくれ」
そんなことを考えていると、カイがそう声をかけてくれた。
「あぁ、ありがとう」
カイの言葉に甘える形で、私は部屋の右側にある白いソファに座る。一方でカイは作業机の上を何やら整頓しているようで、もしかすると作業の途中だったのかもしれない。
「すまないな。何かの作業中だったのか?」
「あぁ。だが別に構わない」
言い終わるとほぼ同時に整頓を終わらせたカイはそのままこちらに歩いてきて、そして私の向かいのソファに座った。
「君の話を聞く方がよほど面白いからな」
私は驚く。まさかカイにそんなことを言われるとは思ってもみなかった。私は絵本作家であるカイが興味を引くほど興味深い話をしていただろうか?
「それで、用件は?」
「あ、あぁ。昨日の夜、庭園でルナに会って、彼女が歌う歌の作詞をすることになったんだ。ルナに、自分の歌を好きになってもらえるように」
自分のことが嫌いなルナはそのせいで自分で作った歌に思い入れが無い、だから歌が自分に響かないと言っていた。それならばと思い、私が作詞を引き受けたのだった。だが当然私に作詞の経験なんてなく、始めようにもどうすればよいのか分からない。そのため、私はカイにアドバイスをもらうために訪れたのだ。
「……君は、他人のために行動するのがよほど好きらしいね」
そう笑みを浮かべながら言うカイ。前に、似たようなことをリエルにも言われたな。
「あぁ。それが誰かの役に立つのなら、それ以上嬉しいことはないだろう?」
私の言葉にカイが少し目を見開く。だがすぐに、再び笑みを浮かべながら鼻を鳴らした。
「なるほど」
そして笑みを消す。
「それで、僕に作詞を手伝ってほしいと?」
「絵本作家であるカイなら、そういったことには長けてそうだと思ってな。私では、右も左も分からないから」
そこでカイは首を傾げる。
「それならば、ルナに直接聞く方が良いと思うが?」
「私も最初はそのつもりだったんだ。だが、せっかくならサプライズで届けてあげたいんだ。と言っても、私がそんな大層なものを書ける自信はないがな」
ルナに聞けば1番良いものになるというのは重々承知している。だがそれでは、私がルナに本当にしてあげたいことは成し遂げられないと思った。ルナが歌を好きになってくれるためには、彼女が何もしないのが1番だからだ。
「……分かった。手を貸そう」
そんなことを考えていた時、不意にカイが承諾の返答をくれた。
「ありがとう」
「ただし、僕がやるのはあくまでもアドバイスのみだ。実際に言葉を考えて書くのは君でないといけない」
私の礼に被せるようにカイがそう言い放つ。そうだ、ここで安心してはいけない。私にとって本番はここからだ。
「あぁ」
そこでカイは立ち上がり壁際のキャビネットに近付くと、ある引き出しを開けてそこから紙数枚と万年筆を取り出した。そしてそれらをテーブルの上に置く。
「これを使うといい」
「ありがとう」
私は行動あるのみと、万年筆を手に取り早速作詞に取り掛かってみることにした。だが、どれだけ考えても作詞とはなんだ、何を書くのが正解だ、といった疑問が脳内を渦巻いて一向に進まない。そんな時、カイが不意に咳払いをする。私が顔を上げると、腕組みをしたカイが真っ直ぐこちらを見ていた。
「何も思いつかないのか」
「あ、あぁ……。一体何が正解なのか、分からなくて」
カイが少し首を傾げる。
「想像することに正解なんてものはない。作詞も、絵本も同じだ。無論節度はあるがな」
私はその言葉に驚く。私は形というものに囚われていたのかもしれない。
「もし何も思いつかないのであれば、自分の経験を元にするのはどうだ。君がこの館で過ごした2日間、それはおそらく、君の中でとても色濃く残っているだろう。その中で君が見たもの、聞いたもの、感じたものをそのまま言葉として書いてみるといい」
カイのところへ来て良かったと心の底から思う。私だけでは、間違いなくその考えには至らなかっただろう。
私は館で過ごした2日間のことを思い出す。館の住民たちと出会って様々なことを経験し、様々なことを学んだ。もちろん、嬉しかったり楽しかったことばかりではない。住民たちが背負う"欠点"のことを知り、それによる痛みや悲しみも知った。だから私は、"欠点"を無くす方法を見つけると決めた。この館の元あった日常を守るために。住民たちに少しでも恩返しができるように。
カイの言葉を受けて、とりあえず思いつくままに言葉を書いてみることにした。何事も、やはり行動あるのみだな。
「……」
私はしばらくぶりに体を起こす。カイの助言を受けてからどれほどの時間が流れたか分からないが、ようやく歌詞が出来上がった。と言っても、私がただ思いつくままに言葉を繋げたもので、歌詞と呼べるものかどうかは分からないが。
「できたか」
私が書いている間ずっと向かいに座っていたカイは、表情一つ変えずにそう聞いてくる。付き合わせてしまったみたいでなんだか申し訳なくなるが、ここに来なければ完成など夢のまた夢であったのもまた事実だった。
「あぁ。よければ、見てくれないか?」
私は歌詞を書いた紙を持ってカイに差し出す。カイは視線を私から紙に落とした後、紙を受け取り読み出した。なんだかこの瞬間はとても緊張するな。
「……」
読み始めも読み終わりも、カイは終始無言のまま紙を私に返した。私はカイから紙を受け取ると、カイの顔をじっと見る。カイは視線を落として何か考え事をしているようだった。もしや私のは、そこまで酷かったのだろうか。
「……いいと思う」
だが実際は、私の想像に反した答えが返ってきた。
「歌詞にするには多少手直しが必要だが、初めてにしては上出来だ。君には、このような才能もあるんだな」
とても嬉しい言葉だが私は少し疑問に思う。
「このような才能もということは、他にもあるのか?」
カイがムッとした表情を浮かべる。
「そこは気にならなくていい」
そう言って咳払いをするカイ。
「ともかく。これでひとまず、君の役目は果たせたな」
カイの言葉に私は頷く。まだ仕上がってはいないが、完成させることができただけでもほっとしている。私1人では成し遂げることのできなかったことだ。
「カイ。本当にありがとう」
「礼にはまだ早い。言っただろう、手直しが必要だと。流石にそれは手を貸してやる」
その発言に私は思わず少し笑ってしまう。初めて会った時からは想像もできないくらい、カイは表情豊かで心優しいと思う。
「……何を笑っている」
カイがまたムッとした表情を浮かべた。
「いや、なんでもない。修正よろしく頼む」
「……あぁ」
そうしてカイがテーブルに置かれた万年筆を手に取ろうとした、その時だった。突然、けたたましい音と共に部屋の扉が開いた。私とカイが驚いてほぼ同時にその音がした方を見ると、そこには切迫した表情を浮かべているソウキが立っていた。
「……ソウキ?」
私がそう呟くと、ソウキはその場から大声で私たちに告げた。
「カナタが……カナタがどこにもいないんだ!」
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今回は18人目の住民、サミュが登場しました。
とても可愛らしい少女とおさげを知らないレインです。
今話のメインとなる部分はカイとの歌詞作成。
まだお披露目には至りませんが
いつか多くの前で日の目を見そうですね。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




