第17話 すれ違う彼ら
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
単刀直入に言いますが、夏が嫌いです。
暑さや日焼けといった理由もありますが
1番は"む"から始まり"し"で終わる彼らの襲来です。
では、本編スタートです。
朝の静かな部屋の中で、カナタはゆっくりと目を覚ます。ほんの数秒天井を見つめた後に体を起こし、隣を見ると、小さな寝息を立ててソウキが眠っていた。いつも一緒にいて、眠る時間も数秒単位で同じな彼らだが、起きる時間はなぜかいつもカナタの方が早い。そして、カナタはこの時間に行う日課があった。
(……)
ベッドから下りると、カナタはベッドから反対側の壁沿いに置いてあるタンスに向かう。このタンスは引き出しの数が多く、ソウキ専用、カナタ専用の引き出しがそれぞれ存在する。カナタはその自分専用の引き出しから、1枚の写真を手に取った。
(……今日も、大事)
それはまだレインがこの館に来る前に、館の庭園で撮られた写真であった。噴水を背景にソウキ、カナタ、リエの3人が仲良く笑顔で写っている写真だ。これを撮ったのはエルグレットで、カナタは当時のことを今でもよく覚えている。
(まだ、みんなが"欠点"を持ってなかった時……)
カナタにとって、それは戻りたいと願う場所。そして、それを取り戻すためにレインに協力することを決めたのだ。
(……そういえば)
そんな時、カナタはふと疑問を持つ。
(僕たち、いつ"欠点"を持ったんだっけ……?)
カナタは自身が持つ写真を見つめる。
(僕たちって、いつからこうなったんだっけ……?)
カナタはこの時に初めて、その違和感に気が付く。まるで映画のフィルムが切られてしまっているような、そんな感覚を覚えたのだ。もしかすると、"欠点"にはもっとおぞましい何かがあるのではないか、カナタはそう思った。
(レインに)
そして同時に。
(レインに、伝えないと……)
自分が発見したものは、何の役にも立たないかもしれない。見当違いのことかもしれない。それでも、ほんのわずかでも彼女の手助けになり、あの日常を取り戻すことができるのなら。珍しく、カナタの体は考えるよりも先に動いていた。
「ソウキ、ソウキ起きて」
カナタはベッドに駆け寄ると、まだ眠っているソウキの体を小さくゆする。
「レインのところに行かなくちゃ。大事なことなんだ、多分……」
カナタを視線を落とし片手で自分の手を握る。そんなカナタの手の上に、不意にソウキが自身の手を重ねてくる。カナタが少し驚いて視線を上げると、ソウキが笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「行ってこいよ、1人で」
そう言うと、ソウキはゆっくりと体を起こす。
「……え?」
「大事なことなんだろ? でも、どうせ俺には分かんないからさ! カナタみたいに頭よくないし」
呆気に取られているカナタを見ながら、ソウキは笑顔でそう告げた。
「俺なら大丈夫! 別に寂しくないぞ! もう1回寝ればな!」
そんないつもと変わらないソウキの様子を見て、カナタは小さく微笑んだ。
「……分かった。じゃあ僕、行ってくるね」
「あぁ!」
満面の笑みを浮かべるソウキに見送られながら、カナタは自室を後にする。自分のすぐ傍にある、自分が1番守りたいものを想いながら。
自室を出たカナタは、早速隣であるレインの部屋の扉をノックする。だが少し待っても応答はなく、念の為もう1回ノックしてみるもののやはり応答はなかった。
(寝てるのかな……?)
疲れて眠り込んでいるのかも、それかもうすでにどこかに行ってしまったのかも、とカナタは思考を巡らす。だが最終的には実際に確認した方が早いという結論を出し、レインの部屋の扉をゆっくりと開けてみることに。カナタが扉を開けて中を確認すると、そこには誰もいなかった。
(どこに行ったんだろう)
部屋の扉を開けた時と同じくらいゆっくりと閉めたカナタは、次はレインの行先について思考を巡らしていく。そんな時、ふとレインの部屋の隣の扉が目に入った。
(アカデなら、知ってるかな)
そう思い、次はレインの部屋の隣であるアカデの部屋の扉をノックするカナタ。少しして、その扉が開かれた。
「やぁカナタ。一体何の用だい?」
姿を見せたのはもちろん部屋の主であるアカデで、彼は端的に要件をカナタに問うた。
「レインを探してるんだ。どこに行ったか知らない?」
カナタからの問いを受けて、アカデは考え込むような仕草をとる。
「うーん、そうだね。可能性があるとすれば、彼女と1番関わりのあるレンの部屋か、朝食を食べに食堂か、朝の気分転換をしに庭園か、かな」
そこで一呼吸おくアカデ。
「でも、レンには昨日の夜に会っていたし、レンの部屋の可能性は低いかな。だから、食堂に行ってみたら? あそこなら庭園と繋がっているから、レインが食堂にいなかったとしても、すぐに探しに行けるしね」
そう言って、アカデはカナタに柔らかな笑みを向ける。一方のカナタは相変わらず表情の変化はなく、アカデの提案にただ頷いた。
「分かった、そうする。ありがとう」
アカデに礼を言うと、早速食堂へと向かうカナタ。彼の部屋の中から誰かの気配を、感じながら。
カナタが食堂に向かうために廊下を抜ける扉を通ったのを見届けた後、アカデは自室の中へと戻る。カナタがうっすらと感じ取ったように、今この部屋にはアカデ1人ではなかった。
「珍しいな。カナタが1人で動いてるなんて」
そこには、コーヒーを片手に持つリエルの姿があった。
「そうかな? 僕はそうは思わないけど」
アカデはそう言いながら、部屋の奥側のソファに座るリエルの向かいに座る。
「……」
リエルはアカデの返答を少し不思議に思った。ソウキとカナタはとても仲の良い双子で、常に一緒に行動しているのは館の住民であれば誰でも知っている。だが今回のように彼らが一緒ではなく1人で行動しているのは、とても珍しいことであった。そのため、大抵の住民はリエルと同じことを思っただろう。
(カナタはよくここに来るのか……?)
リエルはそんなことを考える。もちろん想像の域を出ないが、それが1番納得できる違和感への答えであった。
「リエル」
その時、不意にアカデに名前を呼ばれる。
「どうしたんだい? ボケっとして」
今ここで考えても意味はない、そう結論づけてリエルはこの場では流すことにした。
「別に。それより、カナタは何を聞きに来たんだ?」
「レインのことを探してるんだって」
アカデの返答に少し驚くリエル。
「なんで?」
「さぁ。理由は聞かなかったから」
やれやれといったふうにリエルは鼻を鳴らす。
「そこが1番大事だろ」
アカデが笑う。
「っふふ、確かにそうだね。でも、なんとなく予想はつくよ」
その言葉を不思議がったリエルに、アカデは笑みを見せた。
「今レインは、"欠点"を無くす方法を見つけるために奮闘している。そんな状態のレインに、カナタが1人で会いに行こうとしている。あくまでも僕の予想だけど、カナタは"欠点"関係のことで、レインに話があるんだと思うよ。わざわざ僕のところに聞きに来たってことは、結構重要なことなのかも」
アカデは笑みを浮かべたまま、何か考えるような姿勢をとる。
「ソウキは"欠点"のことを知らないから、一緒に行くわけにはいかない。ソウキのことをとても大切に思っているカナタなら、尚更そう思うだろうね」
少し楽しそうにそう話すアカデの向かいで、リエルはただ黙ってアカデの話を聞いていた。
「……」
そんなリエルを見て何を思ったか、アカデは笑みを消した。
「……ねぇ、リエル」
リエルがアカデを見る。
「君は、僕のことを信じてくれているのかい?」
その問いはリエルにとって意外なものではあったが、驚くものではなかった。リエルは表情を変えることなく答える。
「あぁ。それが?」
自分が予想していなかったそのシンプルな答えに、アカデはハッとする。その言葉は今の彼にとって、どのような意味を成すのだろうか。
「……いや、なんでもないよ。ありがとう、リエル」
リエルは怪訝な表情を浮かべる。
「なんだよ、気味悪いな」
「ふふっ。なんでもないんだ、本当にね」
未だ怪訝な表情のリエルにアカデはまた笑みを浮かべる。彼はこの時、レインのことを少し理解した。多くの悲しみや痛みに触れて、それでもなお前に進もうとする彼女の気持ちが。
(……それでも)
だがレインと同じように、アカデもまたその歩みを止めるわけにはいかなかった。これ以上、傷付けないために。
アカデからの助言を受けて、食堂へと歩みを進めるカナタ。アカデの部屋には一体誰がいたんだろう、とそんなことを考えながら歩いていた時、奥から歩いてくるフィーチェの姿が見えた。そしてそのまま、食堂へ入る扉の前で居合わせる。
「おや、カナタさんではありませんか! 食堂前でお会いしたということは、これから朝食ですか?」
そう言うと、大袈裟に首を傾げてみせるフィーチェ。
「いや。レインを探しに来たんだ」
隠す理由はないと判断したカナタは、フィーチェに偽りなく話す。だがその返答を聞いたフィーチェは、好機と言わんばかりに目を輝かせ、なにやら怪しげな笑みを浮かべ始めた。
「……?」
そんなフィーチェの様子をカナタが不思議がっていると、突然フィーチェはカナタの体を持ち上げて肩に担いだ。
「わっ!?」
普段表情の変化があまりないカナタもこれには流石に驚いたようで、少し慌てたような表情を浮かべている。
「フィ、フィーチェ?」
「暇つぶしのために、ちょうど話し相手を探していたところだったんですよ! レインさんのことなら、後でも探せますしね!」
そう言って、そのままカナタをどこかに連れて行こうとするフィーチェ。目的地である食堂まで目前だったカナタは、なんとかおろしてもらうと抗う。
「ま、待って! レインには用事があるんだ。だから、すぐに会いたくて」
フィーチェは歩みを止めて、自身が担いでいるカナタを見る。
「おや、どんな用事ですか?」
「伝えたいことがあるんだ」
カナタの言葉を聞いたフィーチェはまた怪しげな笑みを浮かべた、と思うとすぐに笑顔になった。
「それなら、話し相手としては申し分ないですね!」
どうやらカナタの返答は逆効果だったようで、フィーチェは元気よくカナタをどこかに連行していく。食堂へ続く扉がどんどん離れていくのをただ呆然と眺めるカナタ。最初からどこか会話が噛み合わないフィーチェに、カナタは今は大人しくしていようと思っていたのだった。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今話よりレインの館生活3日目ですね。
そうです皆さん、まだ3日目です。
ですが今回は、カナタが奮闘していた回でした。
果たしてカナタはレインに伝えることができるのか。
そしてそれは、重要なことなのか。乞うご期待です。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




