第12話 大切な人
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
湿気がほんととても最高に嫌いです。
雨は傘で防ぐことができますが
どうして湿気は防げないんですか…?
では、本編スタートです。
レインがアカデやレンたちとまだ食堂にいた頃、リエルは1人、西館1階にあるフランの部屋の前に来ていた。自身の部屋を訪れたレインに、誤ってフランの"欠点"を喋ってしまったことを謝罪しに来たのだ。レインがいなくなった後、リエルは少しの間このことをフランに言うべきか考えた。そして、いつも自分やリエに好意的に接してくれているフランに隠し事をしたくない、リエルはそう結論を出して今ここにいるのだった。
(……フランにとって、悪い結果にならなきゃいいが)
自分の部屋を出てから、ずっとそれだけを考えているリエル。だがもちろん、フランに隠し事をしたくないというのも紛れも無い本心だ。
(……よし)
フランの部屋の前に来てようやく決心がついたリエルはその扉をノックする。ノックをしてもフランが返事をしないことを知っているリエルは、そのまま彼女が出てくるのを待つ。数秒後、ゆっくりと扉が開いてフランが顔を覗かせた。リエルの訪問に驚き、目を少しだけ見開くフラン。
「リエルさん……」
そのフランの反応を見てリエルは今朝のこと、そしてレインがフランに頼まれて自分のところに来たことを思い出した。もしかすると今のフランは自分には会いたくないと思っているのかと考え、ほんの少しだけフランに会いに来たことを後悔するリエル。だがもう戻れはしない。
「大事な話がある」
リエルは真剣な面持ちでそう言う。
「どうぞ」
そんなリエルにフランは少し不安を感じつつも、部屋の中へと招き入れた。2人がこんなにも重い雰囲気になったのは、初めてのことであった。
「あの、リエルさん」
リエルが部屋に入り扉を閉めてから、わずか数歩で止まるフラン。それに合わせてリエルの足も止まる。
「大事なお話って、一体なんでしょうか」
リエルに背を向けたまま、フランはまるで呟くようにそう言った。
「……レインに、お前の"欠点"を言ってしまったんだ」
リエルのその言葉を聞いたフランは、驚いて振り返りリエルを見る。リエルは申し訳なさそうに顔を下に向けていた。そんなリエルを見ながら、フランの頭の中はどんどんぐちゃぐちゃになってゆく。
「……レインさんは、何かおっしゃっていましたか?」
か細く、震える声でフランは振り絞るように言う。いつもとは明らかに違うその声色に、今度はリエルが驚いてフランを見る。そこには、恐怖を感じ今にも泣きそうな顔でこちらを見る小さな少女がいた。思わずリエルは息を呑む。こんなにも感情を露わにするフランを、初めて見たのだ。だがリエルは彼女がなぜそうなっているのか分かっていた。そして彼女を安心させるために笑みをみせる。
「……凄いって。そう言ってたよ」
リエルの答えに、フランはハッとする。
「人形と会話ができるなんて、夢の世界みたいだって。これほど凄いことはないと」
リエルはレインに言われたことをそのままフランに伝える。あの時レインが言ったことは、レインの性格上紛れもなく彼女の本心だ。しかも、その内容は決してフランを傷付けるようなものではない。ならばそのまま伝えることがフランにとって1番良いだろうと、リエルはそう考えた。
「……っ」
フランはリエルの言葉を受けて、知らぬ間に涙を流していた。それは徐々にとめどなく溢れ、フランは口に両手を当てると声を上げて泣き始めた。そんなフランを、リエルは優しく抱きしめた。
「……側にいるよ。好きなだけ泣くといい」
フランはずっと、自分のことを化け物と呼んでいた。ある日突然人形の声が聞こえるようになってしまった自分を。他の誰にも聞こえない声と会話できるようになった自分を。そしてそんな自分が大嫌いだった。消えてしまいたいと思っていた。そんな時にレインからの言葉はなによりも嬉しく、なによりも救うものだった。
「お前は、化け物なんかじゃねぇよ」
フランの心境を彼女から告げられて知っていたリエルは、館の中で唯一知る者としてフランのことを支えないといけない、そうずっと思っていた。レインとの会話はその矢先の出来事だったが、リエルは今になってレインに言って良かったと考えるようになった。それと同時に、レインに感謝を伝えないといけないとも思う。
(……)
リエルは自分の腕の中で泣き続けるフランを見ながらフランの心境を変化させるためには、そして自分が彼女をずっと支え続けるためにはレインの力が必要だと、そう感じていた。
食堂を早めに後にした私は、早速フランの部屋がある東館へと向かう。私がもう一度フランの部屋に赴いているのは、今朝のことをリエルに謝ってきたぞ、ということをフランに報告するためだ。本来はそういうことはしなくてもいいのかもしれないが、伝えた方がフランも安心するだろう。私はそう思う。
(……)
だが、私には1つだけ懸念があった。フランの"欠点"を、本人の知らないところで聞いてしまったことだ。もちろん、リエルも決して故意的に言ったわけではない。それはリエルのあの表情を見ていれば分かる。
(フランに、このことを言うべきだろうか)
名前のある人形と話せるというフランの"欠点"は、私は本当に凄いものだと思う。だが、フラン自身はそう思っていないかもしれない。今までに"欠点"を教えてくれたマミさんやレン、そして私自身を見て考えたこと。"欠点"は基本的に当人に不利益をもたらすものであり、そのため他人から見た印象と、実際に本人が受けている現象の程度が全く異なる場合がある。
(私たちには、人形の声は聞こえない)
つまり、実際のフランは人形たちに罵詈雑言を浴びせられているかもしれない、ということだ。フランが人形に話しかけて彼らが返してくれれば、それがどれだけ酷い言葉だったとしても、人形と話せるという表現ができてしまう。
(……リエルに、相談すればよかったな)
今になってそう思う。そういえばリエルがフランの"欠点"を言ってしまった時、リエルが自分もフランに謝らないといけなくなったな、と言っていたな。もしかすると、リエルはフランに会いに行っているかもしれないな。それなら、食堂に行っていた私よりも早くフランのところに行っているだろう。
(もしリエルがまだフランの部屋にいるなら、リエルの判断に任せるか)
リエルとフランはなんだか仲が良さそうに見えるし、私よりもフランのことを知っているリエルに判断を仰ぐのが、きっと良いはずだ。
(……ん?)
そんなことを考えながら玄関前まで来た時、東館へと向かうカナタの姿を見かける。カナタが行った先は住民たちの部屋がある方ではなく図書室の方で、玄関前に来た私と入れ違いになるように図書室へ向かう扉に入って行った。
(……着いて行ってみるか)
フランの部屋に行く途中ではあるが、私はカナタが1人でいたことが少し気になった。ソウキとカナタはいくら幼い双子とはいえ、1日の全てを2人でいるわけではないとは思うが、一度気になってしまったものは仕方ない。あくまで念の為だ。
(よし)
私はカナタの後に続いて、図書室へと向かう扉を開ける。私が扉を開けて、図書室前の廊下に出ると同時にどうやらカナタは図書室に入ったようで、図書室の扉が閉まるのが見えた。
(一体、何をしに……?)
いや、それは今気にするべきではないな。カナタ本人に直接確かめるのが1番だ。私はカナタの後に続くように、図書室の扉を開けた。
図書室に来るのは館に来て2度目、ここはリエルと初めて会った場所だ。やはり昨日のことを思い出すたびに、なんだか懐かしい気持ちになる。そう思いながら図書室の中を見回っていると、奥の真ん中の方の本棚の前にカナタがいた。カナタは私の存在に気付いていないようで、本の背表紙をじっと眺めている。
「カナタ」
そんなカナタに声をかけると、カナタは特に驚く様子もなく私の方に顔だけを向けた。
「レイン」
私の名前を読んだ後カナタが体もこちらへと向け、私と顔を合わせるためか少し上を見る。こう思うと、私とカナタの身長差は結構あるなと思う。まぁカナタはまだ子供だから、仕方ないといえば仕方ないが。
「会うのは、昨日のお菓子会ぶりだな」
「うん」
あの時から変わらず、カナタはずっと無表情だ。これがとてもよく似ているソウキとカナタの唯一の相違点かもしれない。
「レインは、なんで図書室に?」
カナタが私にそう問うてきた。これは別に隠すことでもないだろう。
「図書室に入っていくカナタが見えたから、気になって着いて来たんだ」
「気になったって、ソウキがいないこと?」
カナタの言葉に私は驚く。私と同じように、カナタも隣にソウキがいないことに対して違和感を覚えているのかもしれない。それほど、2人の仲が良いということなんだろうが。
「……あぁ。今日は、ソウキは一緒じゃないのか?」
私が聞くと、カナタは頷く。
「うん。僕1人」
そう言ってから、カナタは表情を変えないまま少し下を向いた。
「……ソウキは、足を怪我しちゃったから」
カナタの言葉に私は再度驚く。昨日カナタとミラが度々ソウキのことを気にしていたが、本当にそれほど怪我をしやすい子なんだろうか。それとも、ソウキの"欠点"と何か関係があるんだろうか。
「ソウキは大丈夫なのか?」
「うん。少しぶつけただけ」
そこでカナタは顔を上げ、また私と顔を合わせる。怪我をしたということは、ソウキは今はミラのところにいるかもしれないな。だがそれなら、なぜカナタは図書室にいるのか。カナタならソウキの側にいてやりたいと、そう思うだろうに。ここは直接聞いてみるか。
「カナタは、どうしてここに?」
カナタがまた下を向く。
「……」
私のその問いに、カナタは返事をしなかった。何か言いたくない理由でもあるんだろうか。もしそうなら、無理に聞き出すつもりはもちろんない。私は話題を変えるために、もう1つ気になっていることを聞くことにした。
「カナタ、ソウキは怪我をしやすい体質なのか?」
私はミラのような医者ではない。だから、そのような体質が実際にあるのかは知らないし、もしあったとしてもそれがどういう容体なのか分からない。それか、"欠点"のせいでそのような体質になってしまったという可能性もある。だが、カナタは"欠点"の存在を知らない。仮に後者だったとしたら、私は一体どういう対応を取るべきだろうか。
「……ううん、違う」
そう言ったカナタの声は、どこか悲しそうに聞こえた。その時、不意にカナタが少し寄ってきて私の両手を握り、顔を上げる。カナタは苦しそうな表情を浮かべていた。珍しい表情の変化に、そしてその表情に、私は思わず目を見開く。
「ソウキを、助けて」
その短い言葉だけで、私には十分だった。
「……?」
カナタはソウキは足をぶつけて怪我をした、と言っていた。でも本当は、私が今想像しているよりもソウキの状態は酷いのではないか。カナタは、それを咄嗟に隠してしまったのではないか。
「……」
カナタは私の手を握ったまま、また顔を下に向ける。カナタの対応を見る限りでは、少なくともソウキは急を要するような状態ではないということは分かる。
「カナタ。どういうことか、教えてくれるか?」
ならば私がやるべきことは、カナタの話を落ち着いて聞くことだろう。
「……多分、ソウキの"欠点"のせいなんだ」
私は驚く。マミさんの部屋の前で聞いた、カナタの言葉。あれは聞き間違いではなかった。カナタは"欠点"という存在を知っている。しかも、それがどういうものなのかも理解していそうだった。
「……"欠点"のことを、知っているんだな?」
私が改めて確認を取ると、カナタは頷いた。
「少し前から、ソウキがよく怪我をするようになって。少し机にぶつかっただけで赤く腫れたり、ころんだ時は歩けないくらい痛がってた。でもその分治りも早いから、ソウキは何も気にしてなかったけど」
下を向いたまま話し続けるカナタ。
「今日もまたソウキが怪我をして、それを見て思ったんだ。いつか、ソウキが本当に酷い怪我を負ったらどうしようって。それで"欠点"のことを調べるために、ここに来たんだ」
大切な家族のために、私やレンと同じようにカナタもまた"欠点"のことについて知ろうとしていたのだ。まだ幼い子供にこんな思いを抱かせるものに、私は腹を立てそうだった。
「怪我をしやすい、というのがソウキの"欠点"なのか?」
私がそう聞くと、カナタは首を小さく横に振る。
「……分からない。ソウキは"欠点"のことを知らないから、確かめようがないんだ」
そこでカナタが顔を上げる。いつのまにか、カナタはいつもの無表情に戻っていた。確かに、本人が"欠点"というものを知らなければ、人にもよるだろうが中身を割り出すことは難しいだろう。だがこの場合、ソウキに"欠点"のことを教えるのは憚られるな。一体、どうすればいいのか。
「……ここで何をしている」
そんな時、私の後方からまだ若い男性の声が聞こえた。振り返って見ると、少し淡い金髪に青い瞳、紺のジャケットに黒のベストで首には黒のリボン。紺のズボンと黒いヒールブーツを履いたまだ少年と言えるほどの人物が、腕組みをしてそこに立っていた。よく見ると、両手に白の手袋をしている。
「カイ」
カナタが名前を言う。どうやら、それがこの少年の名前のようだった。
「初めて見る顔だな」
カイは私を見て少しぶっきらぼうにそう言った。
「1週間ほど前にここに来た、レインという」
私が挨拶をすると、カイは「ふーん……」とあまり興味がなさそうに応答する。少し高飛車な性格なのかもしれない、と思ったがもちろん口には出さない。
「僕はカイ。さっき、偶然君たちの会話を聞いたんだが」
そこで一呼吸おくカイ。
「ここに来て1週間しか経っていないにも関わらず、"欠点"のことを知っているとは驚きだな」
確かに、よくよく考えてみればそうだ。ここに来たのは1週間前だが、実際に生活を始めたのは昨日。実質私は来たその日のうちに、"欠点"の存在をマミさんに教えてもらったことになるだろう。今思うと、これは何かの巡り合わせなのかもしれないな。
「……どれくらい聞いたの?」
カナタがカイにそう聞く。確かに気になるところだ。
「カナタがレインに助けを求めたところから、かな」
どうやら私とカナタの会話の半分以上を聞いていたらしい。
「それなら、"欠点"のことを調べるのを手伝って」
「……は?」
突然のカナタのその提案に、カイはとても驚いたようだった。かく言う私もだが。
「僕たちの会話を聞いた責任。それと、ソウキのために」
カイはカナタの提案に未だに驚いているようだったが、会話を盗み聞きした責任は少なからずあると思っているらしく、複雑な顔をしていた。
「……仕方ない」
そして渋々といった感じではあったものの、カナタの提案を受け入れることにしたようだ。
「先に言っておくが。ソウキの"欠点"を知りたいのなら、ここではなくミラのところに行くべきだ」
不意にカイがそう言う。
「……やっぱり、ミラに聞いた方がいいんだね」
カナタはなぜか悲しそうだった。
「当然だろう。この館の医者であるミラが、そういったことには1番適している」
「じゃあ、カイも着いて来てくれる?」
そう言って自分のことを見てくるカナタに、カイは為す術もないようだった。
「……別に構わないが」
少し肩を落とすカイ。割り切るのにはまだ時間がかかりそうだな。
「レインはどうする?」
カナタが今度は私を見てそう言った。
「私も一緒に行っていいだろうか?」
「うん、もちろん」
相変わらずカナタの表情に変化はない。だが外からは分からなくても、カナタは今もソウキのことに心を痛めているのだ。自分の"欠点"のことよりも、ソウキの"欠点"のことを気にしている。そして、ソウキを救おうとしている。私はそんなカナタに、いくらでも手を貸そうと心から思う。こうして、私、カナタ、カイの3人でミラの部屋へと向かうことになった。
ソウキの"欠点"を知るために、私たちは西館2階にあるミラの部屋を目指す。この館の住民のことを知るなら、定期検診を行なっていて住民たちと関わりが深いミラに聞くのが1番良い。もちろん、"欠点"のことも。
「……」
西館2階の廊下に来た時、私とカイの前にいたカナタが不意に小走りでミラの部屋の前に行った。だがノックはせずに、無言でその扉を見ている。
「ノックしないのか?」
私がそう聞くとカナタは私を見た後、目を落とした。
「……レインが、して」
そして小さくそう呟く。カナタが何を思っているのか私には分からないが、これを断る理由もない。私はカナタの代わりにミラの部屋の扉をノックする。そうして少し後に扉が開けられ、いつも通りのミラが顔を見せた。
「やぁレイン、今度は大所帯だね。それに......」
ミラは私の後ろにいるカイを見て、ニコッと笑う。
「カイがいるなんて、とっても珍しい」
「ふん、悪かったな」
不服そうにカイは目を背ける。
「いや、別にー?」
対してミラは笑顔を浮かべていた。
「あ、カナタ!」
そんな時、部屋の中にいたソウキが外にいるカナタの存在に気付いたようでカナタの名前を呼ぶ。それまで顔を伏せていたカナタだったが、ソウキの声を聞くと顔を上げて部屋の中へと入っていった。そんなカナタに続くようにミラが部屋の中へと戻っていく。私は一瞬どうしようか悩んだが、カイが何も言わずに入っていったため私も入ることにした。
私がミラの部屋に入った時、すでにカナタはソファに座るソウキの隣に座っていた。その向かいにはミラが座っており、カイは興味深そうに部屋の中を眺めている。私はとりあえず、ソウキとカナタの後ろに立っていることにしよう。ソファに座るソウキをよく見ると、右足に包帯が巻かれていた。
「ソウキ。足は大丈夫?」
「あぁ! もうぜーんぜん痛くないぜ!」
そう笑顔で言うソウキだが、その見た目は痛々しいものだ。痛みは本人にしか分からないとはいえど、あまり無茶をしてほしくはないと私は思う。
「ソウキくん、嘘は良くないよ。さっきまですっごく痛がってたくせに」
そんな時、ソウキとカナタの向かいのソファに座るミラが首を傾げてそう言った。
「なっ……! 別に、そんなことないし!」
ソウキは驚いた表情を浮かべ、分かりやすく反応する。やはり痛いんだな。
「カナタくんが来たから強がってるんでしょー」
慌てているソウキを見ながら、ミラは企むような顔をしている。
「違うし!!」
さらに慌てるソウキ。
「ソウキ」
その時、ソウキの隣に座るカナタがソウキのことを見る。どうやらその痛みの本当の程度を確認したいらしい。
「ちょ、ちょっとだけ痛いけど、もうホントに大丈夫だから!」
そう言いながらソウキはカナタに向けて平気そうに手をひらひらとさせるが、カナタは信じていないようで少し目を細めて無言でソウキを見つめている。
「……」
そして右手で握り拳を作ると、それを頭の上の高さまで上げた。
「あぁごめんウソウソ! めちゃくちゃ痛いから! やめろってカナタ!」
ソウキの言葉を聞いて、カナタは右手を下ろす。カナタがこういった強硬手段にでるのはとても意外だな。ソウキのことを思ってなんだろうが、なんというか、本当に強引だ。
「それで、僕たちは一体、どうやってソウキを助ければいいんだ?」
その時、今まで無言だったカイが不意に口を開く。いつの間にか、カイはカナタの隣に見下ろすように立っていた。
「ソウキくんを助ける? どゆこと?」
カイの突然の言葉にミラは首を傾げる。当然だろう。医者ではない私たちがソウキの怪我をどうこうなんてできないし、そもそも助けるという表現は今回の場合はしないだろうからな。
「……ミラ。ソウキの"欠点"を、教えて」
カナタのあまりにも直球な言葉に私は驚くが、それ以上にミラが驚いていた。そして、悲しそうな笑みを浮かべる。
「……やっぱり、知ってたんだね。"欠点"のこと」
「うん」
カナタは真っ直ぐにミラを見ている。一方その隣で、ソウキは不思議そうにカナタとミラを交互に見ていた。たとえ今ここで"欠点"の話をしようとも、ソウキが理解することはない。ソウキは"欠点"のことを知らないから。だがそれでも、あまりソウキに聞かせるべきことではないとは思う。どうするべきかと考えていた時、カイが私の後ろを通って回り込むようにソウキの隣に行った。そして、目線を合わすようにかがむ。
「......ソウキ。今から僕の部屋で、また君たちの話を聞かせてくれるか?」
カイのその言葉を聞いてソウキは目を輝かせて頷いた。
「うん! いいよ!」
カイはソウキに微笑みかけると、一瞬で表情を消してミラを見る。
「......子どもたちの前で、そんな話をするべきではないな」
そう言ったカイに、ミラはなぜか怪しげな笑みを見せた。だがカイはそれを気にすることなく顔を背けると、ソウキに背中を向ける。
「ほら、ソウキ。おぶってやろう」
「おぉ! カイ、ありがとう!」
ソウキは喜んでカイの背中に掴まる。ソウキがしっかり掴んだことを確認すると、カイは立ち上がって部屋を後にしようとする。
「じゃあカナタ! カイの部屋で待ってる!」
去り際、カイの背中からソウキが元気よくカナタに向けてそう言った。
「......うん」
そんなソウキにカナタは小さく、そして静かに頷いて応えた。
「まぁとりあえず、レインは座りなよ」
カイがソウキを連れて部屋を出ていった後、ミラは未だにカナタの後ろで立っている私にそう言った。
「あぁ」
私はカナタの左隣に座る。カナタは一瞬私を見たもののすぐに視線をミラに戻し、そして話し始めた。
「教えて、ミラ。ソウキの"欠点"は一体なんなの?」
「その前に、カナタくんの予想を聞かせて?」
ミラは笑みを浮かべて首を傾げる。今は黙って、2人の会話を聞くことにしよう。
「……ソウキは、少し前からよく怪我をするようになった。もともと危なっかしい性格だから、最初は気にしなかったんだ」
カナタはゆっくりと語る。
「でも、途中でその頻度が妙に多いことに気が付いて。だから最初は、怪我をしやすくなったのかと思った」
そこでカナタが俯く。
「でも、それは違うって思った」
「どうして?」
ミラが聞く。
「ソウキの怪我は、いつも骨折だった。それも、どこかに少しぶつけたとか、ころんだりしただけでそうなってた」
カナタは顔を上げる。
「それで気付いたんだ。ソウキは、骨が弱くなったんだって」
カナタの言葉に、ミラはまた悲しそうな笑みを浮かべる。
「……その通り。ソウキくんの"欠点"は、体の骨が脆くなってしまうこと」
「骨が、脆く?」
それを聞いて、私は思わずそう呟いていた。胸が張り裂けそうな思いを抱くと同時に、行きどころのない怒りが込み上げてくる。この館の住民たちを苦しめている"欠点"が、どうしようもなく憎いと思った。私はこの思いを、一体どこに吐き出せばいいのか分からなかった。
「だから、机に少しぶつけただけであんなに……」
カナタが呟くように言う。
「そういうことだよ」
ミラは相変わらず、悲しそうな笑みを浮かべていた。
「……骨が脆くなっているということを、ソウキには伝えているのか?」
私がそう言うと、少し驚いたようにカナタがこちらを見る。
「一応。他の人より骨が弱いから気を付けるんだよ、とは言ってる」
「"欠点"のこと、伝えたの!?」
突然のカナタの声に、今度は私が驚いてカナタを見る。カナタがこんなふうに声を張り上げるところを見るのは、これが初めてだった。
「いーや。"欠点"だとは伝えてないよ。というか、そもそもソウキくんは"欠点"のことを知らないしね」
「……」
ミラにそう言われ、カナタはまた俯いて黙った。ミラの言う通り、ソウキは"欠点"が何か知らない。そのためたとえソウキに"欠点"という名前を言ったとしても、存在としてではなく言葉として捉えられるだろう。
「まぁ、ソウキくんはボクが言うより、カナタくんが言ってくれた方が、色々聞いてくれると思うけどね」
「……」
ミラの言葉を聞いて、カナタは俯きながら首を小さく横に振る。
「……そんなこと、ないよ」
そしてそう呟いた。
「ソウキは、あんまり僕の言うことを聞いてくれない、と思う」
「どうしてそう思うの?」
ミラが、未だに俯くカナタに尋ねる。
「分からない。家族だから、かな」
「……」
私はカナタの答えにハッとする。身近な人にほど、自分の言葉は届きにくい。身近な人にほど、自分の言葉を隠してしまう。なぜか私には、その思いが痛いほどよく分かった。記憶を失う前の私がそうだったのかもしれない。
「……なぁ、カナタ。カナタはどうして、"欠点"のことを知っているんだ?」
私は不意に、そんなことをカナタに聞く。ずっと気になっていたことだった。もしかすると、今聞くべきことではないかもしれないが、カナタに教えた人物を知りたいと思った。それが、将来的に役立つと信じて。
「アカデに聞いたんでしょ?」
カナタが言うよりも先にミラがそう答える。しかも、驚くべき人物の名前だった。
「……うん」
カナタは静かに頷く。
「僕がアカデに聞いたんだ。あ、その……」
「言いたくなかったら、言わなくても大丈夫だよ、カナタくん」
ミラは優しくカナタにそう言う。
「……うん」
カナタはまた静かに頷いた。まさか、カナタに"欠点"の存在を教えたのがアカデだったとは。だがカナタが自分からアカデに聞いたのか。ソウキの体に起こっている異常のことを聞くなら、ミラが1番適していると思うのだが、どうやらまた違った訳がありそうだった。
「ともかく、ボクからはそんなとこだよ。他に何か聞きたいことはある?」
カナタが首を横に振る。
「ううん。ありがとうミラ。ソウキの"欠点"のこと、教えてくれて」
「どういたしまして。カナタくんはソウキくんの肉親だから聞く権利はあるし」
そこでミラは私を見た。
「レインは、"欠点"を無くす方法を探してるんだしね」
ミラの言葉を聞いたカナタは、目を少しだけ見開いて私を見る。
「そうなの? レイン」
私は頷く。
「あぁ、そうだ」
「それなら、僕も協力する」
カナタからの提案は、私にとっては予想だにしないものだった。
「ソウキのこと、助けたいんだ。もちろん、みんなのことも」
カナタのその意志が確固たるものであるということぐらい、分かっていた。
「また、元の生活に戻りたい。みんなのことを、苦しめるものがいない生活に」
私はカナタの言葉に賛同の意味も込めて頷いた。
「……それなら、ソウキくんのところに行って、彼を安心させてくるといいよ。ついでに、カイにこのことを伝えてあげて」
私とカナタの様子をじっと見ていたミラは、いつも通りに戻ってそう言った。
「あぁ、そうしよう」
そうして立ち上がると同時に、私はフランの部屋に行かなければならないことを思い出す。
「! 悪い、カナタ。さきにフランのところに行ってもいいか?」
私に続くよう立ち上がったカナタは、私を見て頷いた。
「うん、いいよ」
「レインは、相変わらず大忙しだね」
そう言ってミラは笑顔を作る。忙しいと思ったことは1度もないのだが、他者からはそう見えているのか。
「自分が好きでやっていることだ」
私がそう返すと、ミラはふふっと笑った。
「そうかい。そこがレインの素晴らしくいいところだね」
いいところ、か。本当に、ただ自分がやりたいことをしているだけなのだが、そう言われると嬉しいな。
「ありがとう、ミラ」
「どういたしまして」
私はそんな会話をミラと交わし、カナタと共にフランの部屋に向かうためにミラの部屋を後にする。大切な人を救うために、今自分がやるべきことをしよう。そう、自分の心に言い聞かせながら。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今回は心が温まるようでボロボロになる
そんなとても複雑な心境になる回だったと思います。
そして13人目の住民、カイの登場回でした。
皆さんにも大切な人はいるでしょうか。
家族、恋人、先輩、後輩、などなど。
その人のために、一体何をしてあげられますか。
どうか自分が後悔しない選択をお選びください。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




