Gの恐怖<<<<<<<謎のリノベ
叫び声には少しだけ驚いたものの……それが隣の大蔵であることから、瑞穂はあまり動じなかった。
隣の兄ちゃん……大蔵くんはイケメン寄りのフツメン20代であり、痩せ形で身長は180㎝ある。
高身長だがそんなに敷居が高くなく、満遍なくモテそうな青年ではあるが……残念なことに彼はかなりのビビりである。
たまたま夜中に帰った瑞穂が何故か扉の前に座っていた彼に声をかけたことから、ふたりの交流は始まった。
何事かと思ったら「Gが出たから家に入れない」と彼は言う。……涙目で。
呆れた瑞穂が「よくそんなんで一人暮らししようと思うよね」等と言いながらもGを倒してやると、彼は非常に感謝し食物を差し入れてくれるようになった。
その為瑞穂は彼が叫んだらとりあえず様子を見に行ってやっている。
勿論、食費が浮くからである。
「大蔵く~ん、なに~? またGでも出た~?」
扉を開けるとそこには隣室の扉が開け放たれており、大蔵はその前に座り込んでいた。
「あ……」
彼は口をパクパクさせながら中を指さしている……今までで一番のビビり具合だ。
なので瑞穂はふっかけた。
「正しいビールと宅配ピザで請け負うけど? なに? ヤモリ? G?」
「そ、園部さん……見てください!」
「──?」
大蔵に促されて部屋の中を覗いた瑞穂は口を開け、言葉を失った。
大蔵の部屋は瑞穂の部屋と同じ間取り……の、筈。
だが狭い玄関の先、すぐ見える筈の風呂とトイレは外国のどこぞの邸宅のようなガラス張りのシャワールームになっていた。トイレは何故かない。
その先の小さなキッチン部分もまた、外側に煉瓦のような加工を施されており、なんだか無駄にセレブである。
それらの逆側にある靴箱と、洗濯機置き場の扉まで、真っ黒の塗装に金の縁取り、アールヌーヴォー調の葉をモチーフとした取っ手に変わっている。
そして部屋の奥……見える範囲の壁紙は黒。その下には瑞穂の脚の付け根あたりまでありそうな、大理石っぽい腰壁が連なっていた。
小さなベランダに続く掃き出し窓は、立派な格子戸に変わっており、それを囲む金の葉モチーフ柄のカーテンは非常に重厚で、やはり重厚なタッセルのふさが美しく輝いている。
上部はアンティークの様な小さなゴシックシャンデリア。
床部は真っ赤な絨毯である。
そしてなにより……更に奥がありそうなのだ。
「……いつの間にリノベしたの? っていうかゴシック系とか趣味だったっけ」
「そんな訳ないでしょ~!? 扉を開けたらビックリ仰天ですよ!! こんな部屋住むの、ヴィジュアルバンドのメンバーか魔王位なモンですって!!」
「君の思考は些かイメージ先行すぎるな。 私の知り合いのヴィジュアルバンドのメンバーは案外慎ましやかな生活を送って…………ん?」
『魔王』…………瑞穂はその単語に不穏な既視感を覚えた。
──ギャア、ギャア
アパートの通路の開口部分から外を眺めると、電線の上に沢山のカラス。
ゴミ捨て場で拾った謎の美形の厨二台詞が頭に過る。
──まさか、あり得ない。
しかし目の前には、あり得ないリノベ。
……嫌な予感しかしない。
「…………じゃ、大蔵くん! 私用事があるから!!」
「ちょっとおぉぉぉぉ園部さん!! 中を見てくれるんじゃないんですかぁぁぁ?!!」
「いやいや、綺麗な部屋になって良かったじゃん!? ゴーホーム!! レッツ! ノットマイホーム!!」
「せめて一緒に来てくださいよぉぉ!!」
「うるせぇ放せ! 赤の他人!!」
すがり付く大蔵、足蹴にする瑞穂……その様はさながら某有名文学作品の一幕の様であった。
「おや、お帰りになったようですね」
「フム……そうか」
その頃、ある筈のない部屋の奥では、猫脚のついた豪華な革張りのソファで優雅に茶を嗜んでいる者がいた。
誰だかはご想像の通りである。
リノベ後の部屋の描写で文字数がそこそこ稼げてしまったので、更新しました。




