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食欲≦睡眠欲

 

 ──満漢全席。

 それは夢の様な御馳走が、これでもか!とばかりに並べられた……『中華の宝石箱どころか、中華の財宝窟や~』と例えたくなるくらいの、食っても食っても食いきれぬ、数々の豪華な中華料理。


 それは正に夢のような……そう、夢ならば


「むにゃむにゃ、もう食べられないよ~」


 というテンプレ寝言がピッタリであった。



 ──瑞穂は夢を見ていた。満漢全席の。



 しかしこのテンプレ寝言、実はその意味するところはテンプレとは真逆と言っても過言ではない。テンプレが


「むにゃむにゃ、もう(分量示す副詞)食べられない(お腹がいっぱいで入らないという可能動詞)よ~」


 なのに対し、瑞穂の方は


「むにゃむにゃ、もう(感嘆詞)食べられない(悲しみと憤りを含んだ可能動詞)よ~」


 ……なのだった。

 夢の中で瑞穂が食べようとする度、御馳走は食べられてしまったり、下げられてしまったり、足が生えたり羽根が生えたりして一向に食べることができないのだ。




 瑞穂は腹が減っていた。


 しかし同時に眠くもあった。

 ネームを描けるところまで描いた瑞穂は力尽きて床に倒れた。『お星様になるよ……』と言いながら。

 この『お星様になる』は、昔瑞穂がアルバイトで通っていた小さなアニメスタジオで、限界で寝落ちる直前の社員さんらがよく使用していた言葉である。


 そんなことどころか人間をよく知らないデスヘルムトは、瑞穂が儚くなったと思い焦りに焦った。


「おい?!」


 しかし揺さぶるデスヘルムトに対し、瑞穂はキレだす。


「うるせー! 静かに寝かせろっ……」

「!!」


 ──ドキーン!


 再び高鳴るデスヘルムトの鼓動。


「よっ……余にそんな口を聞くなど……」


 その声に威厳はまるでなく、デスヘルムトはドキドキしながら視線をさ迷せる。何故か頬が熱い。


(なんだ……? この気持ちは!)


 目の前にはだらしなく倒れている、スウェット姿の女。なのにどうしたことか、この胸の高鳴りは。


「……寝るならそこにベッドがあるだろうが……」

「うぅ~ん、いぃ~……ココで……」


 小さくいやいやする瑞穂に更にデスヘルムトの鼓動は早鐘を打つ。女性が甘えてくることはあれど、こんなにも色を持たず、無防備な姿を見せられたことなどない。しかももう既に寝息を立てていた。

 鼻が少し詰まっている様で(麦茶を噴いた影響か)すピすピと音が洩れる。戯れに頭を撫でてみるとへらり、とだらしなく笑った。


(むむぅ……なんて珍妙な生き物だ)



 そそられる庇護欲と支配欲。そして振り回される心地よさ。


 考えてみれば今までペットなど、躾の行き届いたモノしか飼ったことがない。

 愛犬ケルベロスや愛竜バハムートはそもそもでかい。



 暫く観察していると、寝言を言い出した。


「むにゃむにゃ、もう食べられないよ~」


 沢山食べている夢でも見ているのか。

 しかしその割に悲痛な顔をしている。


「ううう……お腹へった……」

「……どっちなんだ?!」


 おもわずツッコむデスヘルムト。

 ただ、瑞穂の腹から豪快に音が鳴った為、おそらく減っていると判断した。


「フム……」


 しかしデスヘルムト、人間の食すものなんてわからない。瑞穂の机の上のネームをチラッと見てから、コピー用紙と鉛筆を手にした。


「余の今の力でも、アレ位は呼び出せるであろう。 ぬ、これはなかなか滑らかで良い書き心地……魔界でもこれを仕入れたらどうだろうか……」


 そうひとりごちながら、描く魔法陣。


「気紛れな存在よ、気紛れにその姿を現せ……出でよ『アモン』!」



『アモン』とは、悪魔の中でも最も謎の多い悪魔であり、なんかあんまり悪魔っぽくない悪魔。力は強いらしい。

 この作中でもやっぱり謎で気紛れという設定である。(※メタ表現スマソ)



 ぼふん、といい加減な音を立てて現れたフクロウちゃん。彼がアモンである。


「こんちは! 毎度どーも、アモンです~♪ 本日は何用で? おや? もうオナゴを取っ捕まえましたか。 いやぁ~流石はデスヘルムト殿下、やりますなぁ!」

「ご託はいい……アモン、なにかこの者が食せるモノはこの部屋にあるか?」

「……んん? 寝てるように見えますけど」

「寝ているが、どうやら腹も減っているらしい。 起こすのも可哀想だ。 寝たまま食わせてみる」

「寝たまま……?」


 何故起きるのを待たないのかアモンにはよくわからなかったが、デスヘルムトはせっかちなのかもしれない、ということでスルーする。

 人間に詳しいアモンが、小さな流しの上の棚を物色すると、さきいかと魚肉ソーセージがあったのでそれをデスヘルムトに渡した。


「寝ながら食べさすならこちらの方がいいかも知れませんね~」

「そうか……」


 アモンに渡されたさきいかをデスヘルムトは一本取って、その先を瑞穂の鼻の辺りにくつけてみる。


「ホラ、餌だぞ。 口を開けろ」

「ふむむむむむぅ~……」


 ────ぱくり。


 食べた。


 するすると、さきいかが瑞穂の口の中に消えていく。


「おおぉ…………」


 手ずから餌を食べさせる快感。

 瑞穂も咀嚼しながら、満足気な顔をしている。


「食べた……! 食べたぞアモン!!」

「そっすね~」

「これは……なかなか、良い……!」

「そっすか~」


 デスヘルムトは寝ている瑞穂にさきいかを与え続けた。今までアモンが見たことのない、嬉しそうな表情で。


(なんかお気に召したらしい……)


 アモンは生暖かい目でそれを見守り続けていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのペット枠(^^)
[良い点] >デスヘルムトは寝ている瑞穂にさきいかを与え続けた。 あちこち笑わせていただいたが、ここが最高 (`・ω・´)ゞ~♪ さきイカとか硬いから大丈夫?…みたいな魚類的発想 (;'∀')
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