超絶美形<<<<厨二 ★
『黒ずくめ 一皮剥いたら 超美形』
瑞穂は今の気持ちを七五調で簡単にまとめながらも、とりあえず噴出した麦茶を片付けた。
アラサーで多少の人生経験はある。しかも三次元萌えはショタかイケおじである瑞穂にとって、本来範疇外イケメンの部類だ。
ただし、この『ユアッショバデー』(※Youはshockなbodyの意。空耳的ななにか。)はズルい。
底辺×高さ÷2という公式がおもわず思い浮かぶ見事な逆三角形に、これまた見事なシックスパック。
それは『Youはshock!』と叫んでしまうほど、瑞穂の秘孔を着実に突いてきた。即死だ。『Youはshock!』からの『あべし』である。
(あわわわわこんな素晴らしい身体のメンズが何故ウチに?!)
連れてきたからに他ならない。
「あっ……なっなにか飲みますか?!」
麦茶を片付けながら、とりあえず声を掛けてみると「ふむ、よきにはからえ」という返事が返ってきたので瑞穂はピタリと動きを止める。
よ き に は か ら え……だと?
「ええと……失礼ですが、どちらのやんごとなきお方で?」
「む、貴様、わかるのか。 ふ……流石は余……魔力を奪われ人間界に墜とされた身とはあっても醸すオーラが秘密裏に動く事を許さぬ……というわけだな」
自嘲気味に、しかしそこはかとなく湛えたドヤ顔でなんか言い出した半裸の男に、瑞穂の緊張は一気に霧散した。
(なんだただの厨二か……緊張して損した)
とっとと服を乾かして出ていって貰おう……そう思った瑞穂だが、あまりにアレな発言である為、その間は適当に話を合わせる事にする。
「魔力……というと貴殿は魔王様か何かで?」
「なかなか物分かりの良い娘だ……だが躾がなっておらぬな。 まず自らの名を名乗るが礼儀であろう」
アンタがゴミ捨て場に倒れてなければこんなことにはなってねぇわ、と思いつつも……なかなかの厨二っプリ。キャラがブレない。
あまりにアレ過ぎてちょっと面白くなってきた瑞穂は素直に従うことにした。
「これは失礼、私園部 瑞穂と申します」
「ミズホ、か。 余の名はデスヘルムト。 正式な名は長いので愛称で構わぬぞ。 特別に許そう」
「それはありがた迷…………げふんげふん。 ありがたき幸せ」
デスヘルムトと名乗った男は瑞穂にこう説明する。
「察しの通り余は魔界の王子である。 しかし……まぁ色々あって伴侶を人間から捜すことになり、魔力を奪われ人間界に墜とされたのだ。 なんせ余の力は凄まじく、降り立っただけで辺り一帯が更地と化す」
「……その結果がアレだった訳ですか」
「ああ。 着地地点と態勢が悪く、あのような姿を晒してしまうとは……人間界での我が眷属達がどうにか運ぼうとしていた様だが」
「ほほう……」
アレ(カラス)は眷属だったというわけだな?
なかなか良い設定ではないか。
瑞穂は漫画に使えるかどうかを脳内で検討しつつ、電気ポットのお湯をインスタントコーヒーの入ったカップに注いだ。
──ゴミ捨て場で魔界の王子を拾うJK。(仮)
(……でもちょっとカッコ悪いな。 あ、今婚約破棄される令嬢モノが流行ってるし、それとくっつけたらどうかな? 王子に婚約破棄される瞬間に、魔王様が王子の上にズガーンとこう……)
「だがまあ貴様で良い。 余はさっさと魔界に帰りたい。 貴様にとっても王子である余との婚姻だ、悪い話では」「降りてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
瑞穂はデスヘルムトの話の後半を全く聞かないまま、突如立ち上がり机に向かう。
プロットやネーム用に使用している100均のコピー用紙にネタを描き殴った。
「王子は幸い生きてるんだけど、人の心を読んで状況を理解したチートな魔界の王子の方が、警備兵を一瞬で殲滅したのち『ヤツの黒い心が私を呼んだのだ……下がる代わりにこの憐れな娘は贄として貰っていく……』とかなんとか言って、いきなりざまぁをぶっかましながらヒロインを連れ去っちゃうの!! いいじゃな~い?! 売れる要素入ってんじゃないのコレ?!!」
瑞穂は嬉々としてシャーペンを動かした。今彼女の頭の中にあるのは漫画の事だけである。
「……おい」
話しかけるデスヘルムトを睨み付けると、強い口調で瑞穂は言った。
「今忙しいから! 後にして!! なんならソコで寝てても良いから!!」
──ドキーン!
(……なんだこの感覚は…………!?)
デスヘルムトが語ったことは概ね事実である。彼は魔界の王子であり、今は封じられているが物凄い魔力を持つ。しかも超美形。
父である魔王や兄達……臣下が彼を諫めることはあれど、女性に頭ごなしに怒鳴られた経験は、皆無。
新たな刺激を受けたデスヘルムトの胸の高鳴りが何かを知るものは、まだ……いない。
★瑞穂によるネーム