粉物=炭水化物
呼ばれてないのにバーン!と出てきたデスヘルムトだが、そこはかとない違和感。
「……あれ? ムトちゃんなんかオサレになってない?」
そう、なんかこう……オサレになっていた。
それは勿論、以前の間違ったオサレ(※王子ルック)とは違う。
三次元一般世間男子の服装にはあまり関心がないので、なるべくキャラクターには私服を着させず、ストーリー進行は制服着用の学園内で済ませたい……という瑞穂がわかるくらい、オサレである。
「ふふふ……そうか。 惚れ直したか……」
「いや直すもなにも、なんも生まれとらんし」
そうなのだ。
既に27話(※いつものメタ)だというのに、ラブもロマンスも生まれていないとは、これや如何に。そりゃ~作者だって焦ってジャンルも移す、というものだ。致し方なし。
デスヘルムトの存在にはすっかり慣れたものの──否。逆にすっかり慣れたからこそ、デスヘルムトは『残念イケメンコスプレ兄ちゃん』だったのである。
今更そこから『コスプレ』が抜け『オサレ』になったところで、なにも変わらない。
そもそも『残念』という修飾の大部分は、服装ではなく、存在そのものなのだから。
ふたりの関係性はあまり変わっていないので、デスヘルムトも瑞穂の言葉を都合良く脳内変換している。
そんなわけで話はそんなことぐらいで中断されたりしないのだ。
むしろちょっと傷付いた表情でもみせれば、恋愛っぽくなるところを、つくづく残念な男である。
「ふっ、余の『ミラクル変身☆ビフォーアフター』には『なんということでしょうか~!』と言わざるを得ぬであろう……」
『ミラクル変身☆ビフォーアフター』はお昼の情報バラエティ番組である『ヒルナンジャヨ?!』で人気の、誰でもお洒落に変身させるコーナー。
ファッションリポーターのオネエの決め台詞は『なんということでしょうか~!』だ。
デスヘルムトはこれが大好きなのだ!
「魔界、天界共に異世界の住民は、人間界で刺激的なモノに出会うとハマってしまうことが多いのです……それは、まさに『沼』……!」
「アンタが言うと説得力あるわ~。 ……で?」
瑞穂はアモンの沼談義を打ち切り、オサレになったデスヘルムトに向き直る。
「ムトちゃんの『ミラクル変身☆ビフォーアフター』は置いといて、なにかいいアイデアがあるんじゃないの?」
デスヘルムトは「ふん、最初から素直に『教えてくれ』と言えばいいものを」等と、やはり微妙に脳内変換を行ったであろう瑞穂の言葉に対する返事らしきものを宣いながら、左手に携えていたものを向けた。
それは──なんと再登場、ディスカウントストア『サンチョ・パンサ』のwebチラシであった。
「つーかタブレットまで……」
「この服はAmazonとやらで召喚をしたのだ。 『ア~マ~ゾ~ン!!』と唱え、ポチっとするだけで召喚……なかなか人間もやりおる」
アモンが明らかに嘘を教えているが、それはともかく……
でかでかと書かれた『大特価☆980円!!』……
その品とは──
「……たこ焼き器ですね」
た こ 焼 き 器 だ っ た 。
「これを使って『たこパ』とやらを開くのだ!! 賢一の好きな娘も呼び、興が乗ったところで『ロシアンたこ焼き』を行い、話させればよい……!」
アモンは『それ自分がやりたいだけでは』と思ったが、瑞穂は素直に驚愕した。
「むむむ! 既にネタに使えそうなにほひ……だと?! 伊達に少女漫画を読み漁ってないわね、ムトちゃん……!!」
「ふっ、ややベタではあるがな……」
「ベタとか言い出した! よーし、早速ご購入よ!」
「『ア~マ~ゾ~ン!!』」
サンチョ・パンサのチラシを見ていたのに、何故かポチっと召喚を行ったデスヘルムトだったが、誰もそれにツッコむ者はいない。
何故なら、ツッコミ人員が慢性的に不足しがちだからである。
ちなみにこの場合ツッコミの立ち位置であるアモンだが、ミカちんさんに『たこパ開催』の旨をお伝えせねばならなかったので、それどころではなかった。
たこ焼きは粉物──立派な炭水化物であるが故。




