塩>>>>味噌>>>醤油(※作者的に)
お久しぶりです。
また気が向いたら少しづつ更新します。
「私は反対です。 デスヘルムト様は瑞穂様ともっと仲良くなるべきです」
すっかり瑞穂を連れて魔界に戻る気になっていたデスヘルムトだが、それはお買い物から帰ってきたアモンにアッサリ反対された。
しかも真っ当な理由で。
──しかし賢明な読者諸君は、その理由が甚だ形骸的なものであると、既に予測済のことと思う。
そう……アモンはラーメンに夢中だからだ!
当初、『デスヘルムトにさっさと嫁を見つけてもらって、魔界に帰って頂く』だった彼の目的は、既にラーメンへと移行していた。
今もエコバッグからお野菜と卵……そしてサッポロ一番塩味を取り出しつつ、デスヘルムトと話している。
そういえば……
まだインスタントを食していない!
真面目な素振りで話を聞いている風のアモンだが、彼の脳内はこの袋麺のことでいっぱいだ。
No.1袋麺、日本の国民食……いや、最早日本の心であるこのサッポロ一番塩味を自ら作り、食す。その輝かしいデビュー当日であるこの日、如何なる人間にも邪魔などはされたくない。
それがたとえ、自分が仕える主であっても。
そもそも、その主に対して常日頃から彼がいい加減な態度であることは、ここでは問題ではない。
アモンにとって問題なのは、目の前にサッポロ一番塩味があり、邪魔なのはデスヘルムトであるという事実である。
「デスヘルムト様もお読みになったでしょう(※瑞穂の家にある少女漫画)。 こちらの男女は少しずつ距離を詰めていくのが常。 一度のデートくらいでは『彼氏面しないでよね!(※少女漫画の台詞から抜粋)』と言われるのがオチというもの……」
「ぬ……ぬぅ……一理ある……」
実はデスヘルムトは瑞穂と出会ってから、結構少女漫画を読んでいる。
甲斐甲斐しく蕎麦を持って行っては『ふん、貴様の為ではない……コレを読むために来てやったのだ! 手ぶらではなんだからな!』とツンデレに息巻きつつ、瑞穂の部屋に居座るのである。
勿論瑞穂と一緒にいるのが目的だが、存外にシャイなデスヘルムトは結局話しかけることも出来ずに、ただ黙々と少女漫画を読む日々が続いている。
ちなみに瑞穂の方から話しかけることはない。
カラスブランコの事を怒っていたからもあるが、面倒だからだ。
「賢一様のような腹黒ですら、未だに想いを伝えることなくもだもだモダモダと……あれがラーメンで私が店主ならば『折角の麺が伸びるじゃねェか!』と恫喝しているところですが、まあ恋愛というのはそういうものなのかもしれません。
── 一進一退……そう、一進一退です! デスヘルムト様!!」
「一進一退……!」
その言葉にデスヘルムトは、瑞穂の『蕎麦なんか要らん』からの『ムトちゃん』を思い出した。
都合良く当て嵌めた、と言ってもいい。
「ふふふ……そうか、瑞穂も少しずつ余との距離を縮めようとしているのか……」
なんか上手くその気になったっぽいので、アモンは『もう放置していい』と判断し、すっかり慣れた手つきでスマホを弄り、調理の流れを確認し出した。
初めての袋麺デビューである。
画像と共に、バッチリブログにUPしたい。
「それならそうと、早く言えば良いものを……ふっ、『察して!』というやつだな? 全く女というものは面倒な生き物だ……」
すっかり上機嫌でなんか言ってる主を尻目に、アモンはいそいそとエプロンを装着する。
「……そうだろう?! なあアモン!」
「そっすねー」
無論話など聞いていない。
先程アッサリとデスヘルムトを否定した口で、アッサリ適当なことを言う。
アッサリと言えばサッポロ一番塩味。
サッポロ一番塩味と言えば、アッサリした中に確かなコクと旨味。
当然何も入れずに食べても美味い。付属の切り胡麻がきいている。
しかしそのお手軽さからは想像出来ないほどの、アレンジ・バリエーション……なんたるポテンシャル!
これぞNo.1袋麺に相応しい、まさにキング・オブ・袋麺!!
そんなサッポロ一番塩味で頭がいっぱいのアモンだが、出ていく直前のデスヘルムトの台詞は少し気になった。
「こうしてはいられぬ……瑞穂に『買い物で荷物を持ってやる』という『なんだか同棲してるみたい』イベントを経験させてやらねば!」
「そっすねー…………
……え?」
なにを言ってんのかよくわからなかったからである。
ムトちゃんはかなりの冊数の少女漫画を読んだ模様。




