三次元<蕎麦<<<<ご褒美肉
流石に3日も蕎麦は飽きる……しかし、貴重な食糧だ。頂いた物を無駄にする気はさらさらない。
お金はあるに超したことはない。
そんなワケで、瑞穂は蕎麦を食っていた。
(蕎麦以外を作ってきたら許してあげよう……)
別にもう怒ってはいないのだが『高いところは苦手だ』と印象づけない限り、またカラスブランコに乗るはめになりかねない。
あと、ああ言っとけば諦めるか、或いは違うもんを持ってきてくれるかもしれん、という打算。
見慣れてしまえばデスヘルムトなんて、単なる美形のコスプレ兄ちゃんである。
カラスブランコとかワケわからんモンを出さない限りはそう大した害はない。
瑞穂は3次元イケメン等には興味はないのだ。興味があるのは……
蕎麦を啜りながら何気無く瑞穂はカレンダーを見て、それに気付き……むせた。
「…………っ!!げはっ……!ぐふぅっ!」
──大変だ!!
なんでこんな大事なことに気付かなかったんだ!!
今日は月末──原稿料の振込日。
つまり、待ちに待ったA5ランクの国産牛と、正しいビールの日……!!!!
「……げはっ……これは、いかん!」
むせたことによりのたうち回りながら、瑞穂はなんとか態勢を整えると、素早くお出掛けの準備をした。
エコバッグの準備は万端だ!
通帳とカードを財布に入れ、一緒に期待と気合いも忍ばせる。
お外にはスタイリッシュに縮んだセーターにお着替えをしたデスヘルムトがいるとも知らずに、思いっきり玄関扉を開けた。
「みず……」
「いってきまぁぁぁぁぁぁ!!」
──バーンッ!!
「へぶぅっ?!」
「……あら、ごめぇんムトちゃん」
「ムト……ちゃん……だと?」
ヘラヘラ笑いながら鍵をかけると、瑞穂はデスヘルムトに言った。
「お蕎麦のお礼にお菓子くらいは買ってきてあげるから!……じゃね!!」
軽い足取りでアパートの階段を降りる瑞穂の「あ!Z乗ってきやがったな!!あの執事野郎!」という声が聞こえる。
打ち付けた鼻を抑えながら、デスヘルムトは力なく部屋に戻った。
「あの……デスヘルムト様……」
「…………」
トボトボと戻ってきた彼を見た大蔵は、流石に気の毒に思い声を掛ける。
しかしデスヘルムトは何も言わずに自室に入ってしまった。
(美形でも……威力が発揮できないモンなんだな……)
それは大蔵に告白のタイミングの重要性を考えさせ……改めて彼は『榊原をきちんとデートに誘い、告白をしよう』と思うのであった。
「……よし、思い立ったが吉日だ!」
そうスマホを手にした瞬間、大蔵は驚きのあまりビクリと身体を震わせ、スマホを下に落とす。
──デスヘルムトの部屋から謎の雄叫びが聞こえてきたのだ。
大蔵はデスヘルムトに同情の念を寄せたが、彼は別に悲しかった訳ではない。
胸がいっぱいだったのだ。
──『ムトちゃん』。
「……ああぁぁぁああぁぁ!!!」
思い出すと胸が早鐘を打ち、デスヘルムトはその場に転げ回った。
(愛称ッ!愛称で呼ばれたッ!ムトちゃんなんて、誰にも呼ばせたことなかったのにぃぃぃぃっ!!)
『ムトちゃん♥』
思い出す、瑞穂の声。(※♥は脳内補正です)
瑞穂の満面の笑み。(※原稿料に対してです)
──そして、蕎麦の礼。
『お蕎麦のお礼にお菓子くらいは買ってきてあげるから』
「…………ふっ、礼などと……なんだかんだ言っても嬉しかったのではないか……!ふふふ……」
ニヤニヤが止まらないデスヘルムト。
瑞穂が買ってくるのは大したモンではないと相場が決まっているのだが。
おそらくは 大袋のお菓子。
良くてケーキ。そしてこれは、自分が食べたい場合の選択である。
……しかも明らかに子供扱いな件。
だが、恋するデスヘルムトにそんなことは関係ないのだ!
「これは最早……相思相愛と言っても過言ではない!」
いや、過言である。
明らかに過言である。
むしろ、勘違いである。
だがデスヘルムトは決意を固めていた。
そろそろ魔界に連れて戻ろう、と──




