三次元<二次元<<<<ご褒美肉
なんか人間だった。
ていうか生きてた。
それにようやく気付いた瑞穂は、水をぶっかけてしまったことにも同時に気付いてしまった。
もう季節は秋。朝はそれなりに寒い。
だが相手は黒ずくめの知らない男……黒ずくめとか、もうヤベェ予感しかしない。コナン君だって奴等に関わったからちっさくされてしまったし、UFOの秘密に関わるとブラック・メンに消されるらしい。
(怖ッ! 黒ずくめ怖ッ!!……ん?!)
黒ずくめの…………男。
……男?いや、女かな?
──みたいな綺麗な顔と長い髪。
良く見るとそんな人である。
(……これだけの美人ならば相手には困っていないだろう)
瑞穂はアラサーであり、素っぴん、スウェット、サンダルという残念女子の3S装備。警戒するのも逆に恥ずかしい気がして家へ連れていくことにした。
仮にこの人がNo.1ホストでも、瑞穂は課金を生身の人間に行う気などない。
今回の漫画製作にあたり、読者ウケを意識に意識した瑞穂だ。
昼夜問わずイケメンとはなんぞや、と死ぬほど考え、様々な属性のイケメンを描きまくり、様々な顔のイケメンが様々な手法でヒロインに迫る漫画を描き終わったばかりだ。
当分イケメンはいい。
二次元ですらゴメンなのだ、三次元など最早どうでもいい。
ましてや課金は肉と決めているのだ。A5ランクの特選和牛。そして正しいビール。
三次元のイケメンなど食ったところで腹も膨れはしないどころか、満足感が得られるかどうかもわかったものではないが、A5ランクの肉と正しいビールならば、まず間違いなく満足感を与えてくれること請け合いだ!
(はぁぁぁぁぁ、早く原稿料振り込まれないかなぁ……)
肉とビールに思いを馳せながら瑞穂が麦茶を飲んでいる間に、シャワーを浴びたその人がバスタオル1枚を身体に巻き付けて出てきた。
単身者用、ワンルームのアパートなのでこれは仕方ない。
「…………ほばあぁぁぁぁぁぁッッ!」
しかし瑞穂はおもわず変な雄叫びをあげ、麦茶を激しく鼻と口から噴出させた。
口だけならともかく、鼻から飲料を噴出させたのなんて小学生の時給食の時間に、牛乳を飲んだ子を笑わせるのが流行ってた時以来だ。
「痛ッ……はなッ! イタッ!!」
苦しみながら瑞穂は何も引いてない床の上をゴロゴロとのたうち回る。何故何も引いていないかと言うと、落ちたスクリーントーンの欠片を気付かずに踏むと、地味に痛いからである。(アナログ漫画描きあるある)
「ふむ……賑やかな女子だな……」
初めてマトモに喋った、ゴミ捨て場に落ちてた黒ずくめのやたらと綺麗な人だが、その台詞を瑞穂はマトモに聞くことができなかった。勿論のたうち回っていた為である。
なんせこのお方……
カラスに集団で啄まれてた(?)のも納得(??)の、カラスの濡れ羽色の美しい黒髪。
美しく整った顔立ち。
肌は陶器の様で完全な毛穴レスの癖に、切れ長の瞳には何本マッチが乗るか試してみたくなる程の長い睫毛。
「細マッチョ」という表記を可視化したが如く、その細長い肢体にはしっかりとした筋肉がついており……完全な逆三角形を描いた上半身には、見るものを魅了するシックスパック。
そのさまは正にYouはshock!!!!
──男性であると判明した、ゴミ捨て場で拾った美人さん。
彼は、瑞穂が今まで二次元でしか見たことがないレベルの、ホンマモンの美形だったのだ。