デスヘルムト<<<<<ご飯
「ふむ…………どうしましょうかね~?」
アモンは誰もいない大蔵の部屋で、そうひとりごちた。
なんだかんだ、瑞穂の計画は上手くいった……と言えないこともない。
しかもデスヘルムトは尚のこと瑞穂に夢中になったようだ。
ポータブルサイズの件の鏡には、デスヘルムトが高笑いをあげながら、急上昇・急下降を行っている様子がありありと映し出されている。
「こんな楽しそうな主を見るのはワイバーンを捕まえた時以来ですからね~」
しかし、瑞穂の気持ちがデスヘルムトにはないのは明らか。
どちらかというと嫌い寄りというか……今までずっと迷惑そうであり、鏡の姿も死にたくなくて必死なだけにしか見えない。
「まあ……なんか図太そうだし、まぁいっか!」
瑞穂自身の好き嫌いなど、アモンにしてみれば些細な問題だった。
問題は『デスヘルムトが瑞穂に夢中』であり、なにより『魔界でもやっていけそうか』……これが重要。
よしんば『嫁として相応しくない』となった時でもなんとかやっていけそうであれば、魔王を適当に宥めてしまえばいい。
最悪、瑞穂とデスヘルムトを放逐するよう勧めてしまえば良いだけだ。
むしろこうなったら、たおやかで直ぐに死にそうな儚げな美人より、生き汚そうな瑞穂は良いかもしれない……
アモンはそう判断した。
「とりあえず私側の理由は確保したので、後は若いおふたりにお任せしましょう。 そうしましょう」
見合いの席の仲人のような台詞を吐くと、鏡は消えた。
つまり……放置することにしたのである。
アモンはいそいそと大蔵のクローゼットからコーデュロイのパンツとエンジ色のパーカーを取り出した。執事服からそれに着替え、外に出る。
ご飯を食べに行くのである。
魔族は別に人間と同じ様に食事を取らなくても、事足りる。
だが、デスヘルムトによって突如日本に呼び出されたアモンは驚いた。
そう、日本のご飯の美味さに!!
今アモンはラーメンにハマっている。
日本のラーメン……奥が深い。
出汁の種類の多さもさることながら、その調合……そしてそれに合わせた麺を拘りをもって用意しながらも、客の好みによって固さまで指定できる店舗も存在する。
具のバリエーションも実に豊富……
正にラーメンは宇宙……!
丼の中に、輝くコスモ……!!
「あ、そうそう……」
アモンは公園に寄ると、置き去りにされているZを回収した。
今日はこれで3件回ろう……!
鶏出汁塩細麺からの、豚骨醤油太麺……〆に手打ち平打ち麺の魚介スープつけ麺の店に……!!
もう空はすっかり暗くなり、月明かりが綺麗だ。
アモンは 固い決意でZに跨がると、軽快にペダルを漕ぎ出した。
至極の一杯を求めて──
……何の話?




