他人の恋路<∞<自分の恋路
「そ……園部さん、猫が捕まりません!」
「なぬぅ~?! ええい! そこの100均で『ぬこちゅーる』を買ってこんか!!」
「は……はい!」
瑞穂は榊原に命令し100均へと走らせた。
何故自分で行かないかというと、たとえ100円足りとも瑞穂は身銭を切る気などサラサラないからだ!
瑞穂だけではなくこの辺の猫もまた世知辛いようで、『ぬこちゅーる』を与えるとアッサリ確保。
ちなみに『ぬこちゅーる』は猫が大好きなパウチのオヤツである。
これで態勢は整った……!!
瑞穂は榊原に大蔵へ電話をかけるよう指示。
「えっ……でもなにを話せば……」
「『もしもし』だけで問題ない、後は私に任せておけ!」
そう言われ、ドキドキしながら大蔵に電話をかける。
『──あっ! バラさん』
電話は物凄い早さで繋がり、焦った感じで大蔵が応答した。
「もしも…………キャッ!」
それを素早く奪う瑞穂。
瑞穂は腕を伸ばしスマホを少し離した位置につけ、足で地面を擦ったり等の雑音を加えながら叫ぶ。
「……ああっ!! 榊原ちゃあぁぁぁん!」
──ズリズリ!(※靴を擦る摩擦音)
──バシッバシッ!(※地団駄を踏む音)
──バサバサッ!(※緑葉樹を振った音)
これらは『何かが起こった風』の演出であり、特に何という想像ができなくてもいいので超適当である。
『どうしたのバラさん?!
もしもしッ! もしもしッ?!……』
しかし大蔵が非常に焦っている様子は確認でき、瑞穂はニヤリと笑った。
榊原も少しの罪悪感を抱きつつも、胸が高鳴る。
少々の時間を置いた後、瑞穂はゆっくりと電話を顔に近付け……すうっと一息。
「バラさんが大変だァー!!
大蔵くん! 公園! 泉公園! 商店街近くの……!」
『ちょっ……園部さん?! 一体なにが』
──即切る。
言いたいことだけ言ったら即、切る。
大蔵の言うことなど聞かない。
ふう、と瑞穂は汗など一切出ていない己の額を拭い、一仕事終えた漢のような表情を浮かべた。
「──イッツ・パーフェクト……! 自分の才能が怖い……!!」
夕陽をバックにそう呟く。
やたらと渋みがかった顔で。
「しかし、俺達の戦いは始まったばかり……畳み掛けるぞ! 返事!」
「……や、ヤー?!」
何故かドイツ軍的な返事で答える榊原。
瑞穂の指示に従い、捕まえたハチワレ(八の字型に黒い部分のあるブチ猫)と『ぬこちゅーる』を渡すと物陰に隠れた。
不安と期待に榊原の胸は早鐘を打つ。
(おおけん……心配してた……来て、くれるよね?)
──一方、それより少し前のデスヘルムト邸……もとい、大蔵の部屋。
「ふふん、なるほどなるほど?」
「──あっ! アモンさん、なんで?!」
イヤホン的な道具で自分だけ内容を聞いていたアモンは、瑞穂の発言から、映像を映し出す大きな鏡を手鏡程度のポータブルサイズに変化させていた。
「これでは様子が見えないじゃないですか!」
「おやおや……賢一様、先程と仰っている事が異なる様ですねぇ……」
「ふぐっ……!」
そう返されてしまっては、どうしようもない大蔵。しかも今更、のこのこと二人の元へ行くのもおかしい。
テーブルに放置してあったスマホを手に、榊原に電話するか否かでタップを繰り返す。
どこまでもヘタレな男である。
そんな大蔵を気にすることなく、デスヘルムトはソワソワしながらアモンに尋ねた。
デスヘルムトは大蔵の恋路なんかより、瑞穂が気になるのだ!
「おい、アモン……余の事を瑞穂は何か?」
「いえ? なにも?」
「そうか……」
あからさまにしゅーんとなるデスヘルムト。
「あ、でも美人とは言ってましたわ」
「……なぬ?!」
『美人』──
その一語だけで、デスヘルムトは妄想を爆発させた。
「美人……そうか、今までの対応も余の美しさに引け目を感じていた……そういうことだな! ……なぁアモン?!」
「え、それはどうかと……」
「こうしてはいられぬ!」
アモンに話を振ったくせに、全く聞くこともしないままデスヘルムトは自室に入った。
──お着替えの為である。
デスヘルムトは自分の美しさに横に並ぶことを躊躇わざるを得ない、憐れな恋人(※妄想の瑞穂)を迎えに行くことにしたのだ!!
恋人にもまだなってないのに!
むしろお友達にすらなってないという事実……!
そんな事をまるっと無視して、デスヘルムトはお洋服選びに精を出し始めた。
デスヘルムトの一人称が間違っていた件……
直しました~orz




