忠誠心<∞<適当さ
主にアモン回です。
今日お出掛け仕様の瑞穂はきっちり化粧をしている。
お出掛け仕様とはいっても郵便局と食材の買い出し……そのためロング丈のパーカーにパンツというラフな格好であり、化粧も薄い。
童顔で平均的身長の瑞穂である。
いい加減な格好(※瑞穂の服はいい加減な格好しかほぼない)をしていると年齢が非常に解りづらい。
しかも顔半分はマフラーで隠れていた。
「……それじゃ!」
更なる女の影に榊原は動揺を隠しきれず涙ぐみ走り去る。
「あっ! バラさんっ……」
そもそも奥手な大蔵は『ピンチをチャンスに変える力』など持ち合わせておらず……榊原以上に動揺している彼はそう声を掛けただけで追いかけることはできなかった。
しかし瑞穂は違っていた。
これは……恋愛の匂いがプンプンする案件……!!
『恋愛=ネタ』
そう、忘れてはいけない!
彼女は腐っても少女漫画家なのだ!!
「大蔵ぁっ!!」
「はいっ?!」
突如叫ぶ瑞穂に大蔵はビクッと身体を震わせた。
「何をボサッとしてる! さっさとZの鍵を寄越さんか!! 犯人を追うぞ!!」
『Zの鍵』……それはチャリの鍵である。
瑞穂はかの名ドラマ『西部警察』に出てくる大門刑事の車である『フェアレディZ』にかけて、時折チャリの鍵の事をこう称していた。
瑞穂の迫力に押された大蔵はZの鍵をつかみ、彼女に投げる。
瑞穂は軽やかにそれを受け取ると、大蔵に向けニヤリと不敵に笑った。
「……俺を信じろ!」
「えっ……ええ?!」
そこで初めて自らの迂闊過ぎる行為に気付く。
「ちょっ……あんたなにするつもり……!」
「曲なりにも『吐かせの大門』と謳われた漢だぜぇぇぇぇ!!!!」
そう言って瑞穂は愛車Z(※大蔵のチャリ)の元へと向かい、素早く乗り込んだ。
勿論、犯人(※榊原)をZで追う為だ!!
『吐かせの大門』とかなんとか抜かしていたが、大門はそんなキャラではない……そんなツッコミすら最早追い付かぬ。
その場にへたりこむ大蔵をアモンは興味深く観察した後、フト主の方へ目を向けた。
──何故かデスヘルムトはガウン姿のままその場に蹲っている。
嫌だなぁ……声掛けんの。
アモンはそう思ったが、彼は一応主である。
「どうしたんすか~、デスヘルムト様」
「…………こんな寝間着姿を瑞穂に見られてしまった……」
「いやいや、アンタ半裸を彼女に見せてるじゃないっすか」
「はっ、そうだった……!! ぬぁぁぁぁ! 羞恥で胸が焼けつきそうだっ!! だらしない男と思われたかもしれぬ!!」
「えー……」
もっとだらしない瑞穂の姿を見ている筈のデスヘルムトだが、そういう問題じゃないらしい。デスヘルムトはガウンのまま床にゴロゴロとのたうち回った。
(何故だかよくわからないが)デスヘルムトは瑞穂にお熱であることを再認識したアモン。
しかもこの短期間でガンガン拗らせていて、その拗らせっプリは半端ない。
なにを隠そう、デスヘルムトにとって瑞穂は初恋なのだ!
(これはどうしたもんか……)
なんせ不本意ながらも呼び出されてしまった以上、魔王子デスヘルムトの嫁を探す重責はアモンにもかかってくる。
あんまりアレな嫁では、魔王からの叱責は免れない。
そうすると……結構面倒臭い。
デスヘルムトが常時微妙に面倒なのに比べ、魔王様は基本好きにやらせてくれるが……気に食わないことがあったときの魔王はデスヘルムトの面倒臭さの比ではないのだ。
きっと瑞穂が気に入らないとあらば、「人間界に混沌を巻き起こせ~!」とかのムチャブリをするに違いない。
(……ふむ、これはいい機会かもしれない)
瑞穂の魅力がサッパリわからないアモンだが、彼女がなにやら大蔵と榊原が揉め、事情を知らぬまま仲裁に入るようであることはなんとなくわかった。
人間の揉め事の仲裁が如何に面倒であるかをそれなりに理解しているアモンは、突如現れただけの瑞穂がどんな手を使って何をどうするかに興味がある。
そこでそれなりの結果を成し得たならデスヘルムトの側につき、瑞穂と上手くいくよう協力。(※とは言っても面倒事は賢一に押し付ける気)
そうでないなら別の女子を賢一に探させよう。ぶっちゃけもっとわかりやすく美女であれば、魅力なんてどうでもいいのだ──
もともとどこまでも大蔵に任せる気ではあったが、そこの判断だけはアモンがしなければならない為、絶好の機会だ!
丁度いいから諦めさせる場合の布石も打っとこう!!
──そう思ったアモンの行動は素早い。
「デスヘルムト様、賢一様……瑞穂様は今ご友人である賢一様の為に御自ら誤解を説こうと必死になっているご様子……お二人ともこれをご覧下さい」
魔法を唱え、取り出したるは大きな鏡。
そこには自転車で榊原を追う瑞穂の姿。
「ミズホ!」
「そ……園部さんが僕の為に……?」
そんな馬鹿な、と続けようとした大蔵の口を塞いでアモンは恭しく続ける。
「彼女は脆弱な人間……賢一様のご友人ひとり説き伏せられないような娘では、嫁としてデスヘルムト様が連れていくに価しません。 ここは彼女の真価が問われるとき!」
誠に適当な理由を付け、その場の成り行きを見守らせることにしたアモン。
瑞穂が成功したらしたで、この記録を元に『瑞穂は情が厚い』ってことにしときゃー、そこまで責任は問われまい。
そもそも彼は適当なのだ!
そして忘れてはいけない!
彼は悪魔なのだ!!




