第二十話 村
ナナウさんの田舎には、10日ほどで着いた。
50世帯ほどが農業を営む村だ。ナナウさんの両親はすでにいないが、兄夫婦が暮らしている。ナナウさんは、兄弟との再会に嬉しそうだ。
前の街ではたんまり儲けた。悪党を殺して少しへこんだが、進化を目指すという目標もできて充実している。
ナナウさんは村に家を建てて住むと言う。金は四人で山分けしたので心配ない。戦闘に参加していないナナウさんは、金の受け取りを断ったが、まあまあと言って無理矢理渡した。
俺達は、どうせ迷宮で魔物を狩るので金には困らない。
ダンジョンがある街は、村から歩いて一時間ほどだ。俺達も当分この村に住むつもりだ。
ヘルンクラムとサマルが相変わらず仲が良いので、丁度いい。
この前の戦闘の時に、サマルちゃんは、ヘルンクラムがゴーレムになるところを見ている。対応が変わるかと心配したが、サマルちゃんはヘルンクラムが人外だと知っても、変わらず付き合ってくれている。
なかなか良い娘だ。
「ナナウさんが畑を開墾するの。私も手伝うつもりよ。農業や酪農を学んで、宇宙船の食料確保に役立てたいわ」
「俺は、船長として統率力を磨くぜ。あんちゃんの使い魔を鍛え上げながら、集団戦闘の訓練だ。がははは」
「俺は、宇宙船作りと魔法の開発だな」
俺達は、目標に向かって歩きだした。それぞれが課題をクリアしながら頑張るつもりだ。
大目標は、宇宙を冒険することだ。ゴンザの言い始めたことが、いつの間にか俺達の目標になってしまった。
中目標は、宇宙船の建造とハイヒューマンに進化することだ。これが無ければ宇宙には出られない。
小目標は、ゴーレムの確保とダンジョンコアの収集だ。宇宙船建造には欠かせない材料だ。
「宇宙進出計画の始動だぜ」
「すごく壮大に聞こえるわぁ」
目標達成のためには、ダンジョンに潜り、いろいろやらなければならない。
◆魔物と戦いながら魔法陣を成長させる。進化するために必要だ。
◆乗り込み型ゴーレムを発掘する。宇宙船のボディの材料となる。
◆ダンジョンコアを手に入れる。宇宙船の動力源となる。
◆魔物の素材を集める。生活資金や食料を確保しなければならない。魔導書を使って、使い魔も増やしていきたい。
「意外とやることがあるな」
「ゴンザさん、頑張りましょう」
魔法陣の成長は、魔法を使うということしか解っていない。他にも条件はあるのだろうか。進化条件にも、違う条件があるかもしれない。情報収集もしなければならないな。
「図書館に行かないと」
「姉ちゃん、情報収集は酒場だろ」
乗り込み型ゴーレムは、魔石状態で埋まっているらしい。この魔石にイメージを流すと、ロボットや家の形に変形できる。ヘルンクラム達のようにだ。
同じようにして宇宙船のパーツを作り、組み立てるつもりだ。大量にゴーレム魔石が必要になるだろう。
「どうやって見つけるんだ?」
「ヌフ君が見つけてくれるわよ」
ダンジョンコアは、魔力を精製蓄積する。宇宙船の動力源だ。貯めた魔力を運動エネルギーに変換して、推進力を得たり、照明や火などの各種エネルギーを作り出す。
コアは、ダンジョンに一つしかないらしい。あちこちのダンジョンを巡らなければならないだろう。
「まずは、この村の近場のダンジョンからだな」
「ダンジョンってどんな感じかしらね。楽しみだわ」
魔物の肉は、収納庫に保存する。収納庫は時間経過が選択できるので、時間を止めれば痛まない。
宇宙での食料事情がわからないので、なるべくこの星で多くの食料を確保したい。
ただ足りなくなることも考えて、やはり宇宙船内で、野菜や肉などの食料を生産することが必要だろうと思っている。この辺は、和香に頑張ってもらおう。
「任せてちょうだい。牛や鶏も買いに行きましょ」
「姉ちゃんに胃袋を抑えられちまうな」
ゴンザは、使い魔の訓練をしてくれるそうだ。ダンジョンで戦いながら、使い魔も増やしていきたい。戦闘員、航海士、機関工、食料生産など、労働力を提供してもらうつもりだ。
「訓練は任せてくれ。船長には絶対服従だ」
「使い魔登録証も必要になるわね」
俺は、趣味の船造りをしながら魔法開発だ。この村に来るまでにも、いくつか魔法を作った。
ゴーレムのホバーを改造した飛行魔法などだ。エイメンの話では、ホバーは重力を緩和して、ベクトルを変えて浮かんでいるらしい。難しくて良くわからなかったけど、魔法がすごいことは実感した。
そして浮かんでしまえば、加速魔法を推進力に空を飛べる。この魔法は、みんなになかなか好評だった。
「飛行魔法は、楽しかったわぁ」
「あんちゃんは、本当すごいな」
ハイヒューマンへの進化は、仙人になるようなものだと聞いた。仙人は、霞みを食べて生きるから、食料はいらないなどと日本では言われていた。これが本当なら食料問題はかなり楽になる。
まあ、魔法で栄養源を作って補給する方法もあるが、やはり食事をしないのは味気無いな。
「進化については、まだ良くわからんからな。進化してから考えればいいんじゃねぇか?」
「食べたら死ぬわけではないし、食事はすれば良いわよ」
栄養補給だけじゃなく、魔法で空気を作って肺に供給すれば、真空でも生きられるかもしれない。宇宙生活が楽になるだろう。
宇宙放射線に耐えて、真空でも生きられて、あとは温度調節が魔法でできれば、かなり快適かもしれない。
「そこまで考えてるとは、さすがあんちゃんだぜ」
「そこまでいくと人間じゃないわね。ちょっと寂しいけど、宇宙に順応することは大事だわ」
俺達の生活が始まった。敵から鹵獲したゴーレムに、イメージと魔力を流して家を作った。
今までは、ヘルンクラムが家に変形していたが、設置したままだと、ヘルンクラムをダンジョンに連れていけない。
そこで変形の練習も兼ねて、俺達の家、家畜小屋、ナナウさんの家を作ったのだ。家畜小屋とナナウさんの家は、外観と内部をイメージで固めただけの普通の家だ。内部に亜空間を接続していない。
俺達の家は、基本的にヘルンクラムと同じにした。外観は平屋の家だが、内部は亜空間を接続して豪華な感じだ。
追加で訓練場も作った。ゴーレムバトルができる広い空間だ。そして農業試験室も作った。床を掘り下げて土を入れて、野菜を育ててみようという試みだ。将来、宇宙船で生産活動をする時に必要なノウハウを得たいと思っている。
亜空間の接続には、かなりの魔力が必要だった。訓練場の広い空間を作った時には、魔力が一気に奪われグロッキー状態になってしまった。
「今日は、街に行くのよ。そんなヘロヘロでどうするの?」
「姉ちゃんは鬼だな。あんちゃんは、俺達のためにヘロヘロになってんだぜ」
「これくらいで弱音を吐くなんて、修行が足りないのよ」
和香さん? 無茶は言わないで下さい。
「今日は、和香達だけでダンジョンに行ってくれ。俺はナナウさんに付き合って、家畜の買い付けに行くよ」
「ああ、のんびりしなよ。ゴーレムと肉の確保は俺達に任せておけって」
「仕方がないわねぇ。麟太郎君が危険にならないと、私が守れないじゃない」
「なんか、いろいろおかしいぞ」
「麟君守り隊の仕事を取らないでちょうだい」
いやいやいやいや、おかしいでしょ。
あいにくの曇り空だが寒くはない。ヘルンクラムのボンネットバスでトコトコと街を目指す。
バスの窓から入ってくる風には、草の匂いや土の匂いがする。この街は、農業や酪農が盛んだそうだ。
街では、冒険者ギルドに登録した。登録しないとダンジョンには入れないそうだ。そして魔導書の魔物を使い魔登録する。ギルドで、6匹の魔物を出したらかなり驚かれた。使い魔達はかなり強い部類の魔物なのだとか。
「テンプレねぇ」
「がははは」
そう言いながら、和香達は使い魔を連れてダンジョンに向かって行った。
ちなみに、ヌフとヘルンクラムとフクロウさんは、エイメンが使い魔登録証をくれたので問題はない。家妖精さんは、そもそも信頼した人の前にしか姿を現さないので登録の必要がない。
「じゃあ、あたい達は買い物に行くかい」
「お母さん、家族みたいで楽しいね」
俺の右にはヘルンクラムが、左にはサマルちゃんが手をつないで歩いている。周りから見たら四人家族に見えなくもない。
「サマル、麟太郎は和香の男だから、取っちゃダメよ」
「じゃあ、ゴンザおじちゃんは?」
「ゴンザは悪党だから家庭に向かないなぁ」
「「あははは」」
楽しく会話しながら、食料や日用品を買い、農家で種や苗を売ってもらい、酪農家から牛や鶏を買い付けた。農具なんかも買ってきた。
酪農は、家畜の匂いが問題となるが、洗浄魔法や消臭魔法などがあるこの世界では、結構クリーンな感じだ。あまり匂いは気にならなかった。
いろいろ買い込んで村に帰ってきた。時間もあるし魔力も回復してきたので、畑でも作るか。
俺は、壊れたゴーレムを取り出した。魔力を流して形状をリセットする。ゴーレムの魔石は、デフォルトでゴーレム形状がインプットされているが、イメージを追加すれば、違う形状にも変形できる。
魔石に戻ったゴーレムに新たなイメージを流し込むと、ウニョ~ンと変形してイメージ通りの形状になった。動作の設定は難しいので、まだ単純な動きしかできない。
今回作ったのは、ゴーレムトラクターだ。人が乗れて、車輪が回転して、耕うん用のロータリーが回転したり、上下するくらいの動きしかない。
こうやって少しずつ練習しながら、複雑な動きができる部品を作れるように頑張ろうと思う。
ナナウさん宅の裏の空地を、ゴーレムトラクターがゴトゴト動く。トラクターの後ろにあるロータリーがゆっくり回転して、土を掘り起こしていく。
適当に砕土して、魔物の解体の時に出た肥料を混ぜておく、農業のことは良くわからないので、あとはナナウさんと和香に任せよう。開墾の第一歩くらいにはなっただろう。
「麟太郎~、お疲れ~。ジュース持ってきた~」
「妖精さん、ありがとう」
いろいろやることは多いけど、使い魔のみんながサポートしてくれるのでありがたい。




