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遺骨

作者: 名無し

 今日はわざわざ来てくださってありがとうございます。

 こちら、粗茶ですがよかったらどうぞ。

 あら、お土産まで。すみません。ありがたく頂きます。よろしかったら一緒に食べませんか? そうですか。では、早速お皿に分けて来ますね。お皿は三枚いりますね。ええ、仏様の分です。


 まぁ、とても美味しいですね。とても上品な甘さで緑茶に合います。よかったらどちらでお求めになったのか教えていただけますか?


 御馳走様でした。とても美味でした。

 ああ、お茶のお代わりですね。勿論、構いませんよ。


 今日は本当にありがとうございます。手を合わせに来てくれて。線香?  ああ、すみません。うちは線香をあげないんです。仏壇も線香立てもないから。なのに、たくさんお線香頂いてしまったんですよね。どうしましょう?

 どのみち、お線香を焚くことはありません。この人の骨はすぐに埋葬するので。ええ、お墓に埋めるんです。

 ……いえいえ、違いますよ。先祖代々のお墓とかじゃありません。そのお墓に入るのはこの人だけです。他の家族の骨はこの人が海に散骨してしまったんですよ。ふふ、その時にね、ちゃんと骨の一部は残すって言ったのに、結局見つからなくて。本当は全部ばらまいてしまったんでしょうね。酷いでしょう?

 それに、この人ったら、位牌や写真や形見も処分してしまったんですよ。薄情ですよねぇ。だから仏壇は置かないんです。

 え? なのにこの人をちゃんと埋葬しようと思ったのかって?

 貴方、わりと直球ですね。いえいえ、いいですよ。お話ししましょう。どうして私がこの人を埋葬しようと思ってるのか。


 私の家族はね、みんな海に散骨されて、手元には何も残らなかったんです。だから、私も死んだら骨は海にまいてもらおうと思ってるんですよ。

 どこの海かははっきりとした位置はわからないけど、海は繋がっているから、同じ海でなくてもいいんですけどね。

 それにほら、海は生命の源って言われてるでしょう? 骨が海に帰ったら、また生まれて来ることができるんじゃないかって。私も私の家族も。なんて、少し子供っぽい想像ですかね。

 家族が好き? ……うーん、どうでしょう。私はそういうのわからなくて。正直、亡くなる前まではあまりいい関係ではありませんでしたね。けれど、亡くなったと知ってわけもわからず泣いてしまいましたね。それくらいの情はあったのかな? でもね、この人が死んだ時は泣かなかったんです。ただの一滴も涙は出ませんでした。むしろ、ようやく終わったと思いましたよ。きっと、想像してたよりも私はこの人が嫌いだったんでしょうね。

 だからね、私は死んだ後までこの人と同じ場所にいたくないんです。私は死んだら家族が眠る海で一緒に眠りたい。だからこの人に海に来られては困るんです。散骨は山にもできるみたいですけど、山に降った雨は川に伝って海までくるでしょう。それすらも嫌なんです。だから、私はこの人にはこの壺の中で、暗く冷たい土の中で一人でいて欲しいんです。だから、この人のお墓を作ったんですよ。

 これが全てです。満足頂けましたか?

 そうですか。

 あら、お供えものが乾いてしまいますね。食べてしまいましょうか。

 そういえば、私はお供えものを食べると寿命が伸びると教えられたのですが、実際はどうなんでしょう?


 え? お帰りになられるんですか? ああ、結構時間が経ってたんですね。


 今日は本当にありがとうございました。

 あ、そうそう。埋葬が終わったらお墓の場所をご連絡しましょうか?


 ──わかりました。では、さようなら。

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