名字が全ての世界では、お料理番組ですら常識が通用しない。
名字が能力になる世界に来た私は、何を思ったかテレビをつけた。
すると、「料理谷のお料理」というお料理番組が始まるようだった。
「こんにちは、行司谷です。」
「助手の助谷です。」
という挨拶で始まった。
なるほど、『司』会を『行』う人だから行司谷、『助』手だから助谷か。
そして私は、異様な光景に驚いた。
ざっと全体を見回すと、すでに10人ほど料理台の前で待機しているのだ。
やはりここは異世界だ、と思いながら、私はこのお料理番組を見続けるのであった。
「今日は、牛丼を作っていきましょう。」
誰でも作れるだろ、と思わずつっこんでしまった。
「それでは登場していただきましょう。本日の食材・調味料です。」
先ほど料理台の前に待機していた10人ぐらいの人が、一斉にカメラの前に現れた。
その姿がとてもシュールで、つい吹き出してしまった。
「今日使うのは、牛・生姜塚・白米・水・醤油・酒・砂糖さんです。」
使うという言い方が生々しく聞こえてくる。
助谷さんの、玉ねぎとみりんはないんですね、という言葉に思わず吹き出した。
的確だが、それ故に面白さを引き出している。
そして面白さと同時に、この世界の特性もしみじみと実感した。
「それでは軽く自己紹介をしていただけますか。」
「わかりました・・・牛・・・です・・・。もう帰ってもいいですか・・・?」
「生姜塚だ。今日使うのは紅ショウガらしいから、紅らしく真っ赤に燃えていくぜ。ロックンロール。」
「白米や。今日はワイがこの会場をほっかほっかにすんでぇ!!」
「水です。麗しくッ、そして華麗にッ、それが私のモットーだッ!!」
「醤油です。私はなんにでも合います。ですよね、酒さん。」
「うるへぇ!なんにでも合うと思うなよ、この大豆やろぉ!!」
放送事故だよね、これ。
「まあまあ落ち着いて、甘いものでも食べましょう。」
「おおさんきゅーな。砂糖おまえいいやつだなぁ。はっはっは。」
「さて、時間もありませんので料理を始めていきましょう。」
じゃあ自己紹介なんてなくてもよかったんじゃないかな。
そして砂糖さんはやはり性格も甘かった。
「まず、水さん・醤油さん・酒さん・砂糖さん、お願いします。」
本当に始まったと思ったのもつかの間。
お願いされた方々が徐に叫び始めた。
そしてそれぞれの名字に呼応した調味料を口から吐き出し始めた。
モザイク無しの生放送でしてはいけないことトップに入るであろう事案が、今目の前の番組で起きている。
放送倫理委員会かなんかがすっ飛んできそうだが、あいにくここは異世界だ。
私の常識が通用しないのも頷ける。
水さんは確かに麗しく水を吐き出していた。
私は他の人も見た。
見てしまった。
酒さんの吐き出している様子を。
私は思わずテレビを消した。
そして、もらいリバースしてしまった。
その時、私の能力が発動した。
私はその反動で死んでしまった・・・が、今私は私の前に立っている。
私はこの状況にすぐ納得した。
そう、私の名字は・・・・
私だ。
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現実世界が嫌で、こんな想像ばかりしていた。
こんな変な名字だから、私の名字が生かせる世界を想像してみたけど、能力が口から出るって設定したのがいけなかった。
よし、じゃあ次は能力は手からでるように設定してっと。
おやすみなさ~い。
これは、引きこもり少女がいかにして社会に出られるようになったのかを描く、感動ドキュメンタリーである。
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途中、この世界の特性を実感した、という言葉が出てきたと思います。
これは、今回出てきた名字が実在するからです!
つまり、玉ねぎさんと、みりんさんは実在せず、それ以外の食材さんたちは実在します。
実際に『全国の苗字(名字)11万種掲載』さんを参考にしました。
URLを貼っておくので、実在するかどうか検索してみてください!
拙い文章力だったとは思いますが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
(そして全国の酒さん、私さん、すいませんでした!!!!!!)
『全国の苗字(名字)11万種掲載』
http://www2s.biglobe.ne.jp/~suzakihp/index40.html