四十三匹目 〜( 魔王の語らいと異世界講座 C・〉
「ねー、マイスキー」
「なんだ、エネ」
「いやさぁ、アタシ、アンタと組んで長いじゃん? もうかれこれ二年くらい?」
「んっと、確か………………そうだな、初めて会ってから二年くらいか」
「んでさー、アタシはアンタの振る舞いには素直に感心してんの」
「お、おう、そりゃどうも?」
「いーから愚直に受けとんなさい………………本題はそこじゃなくて。アンタ、けっこー色んな人だったり魔物だったりを助けてるけど、その辺の基準はなんなの? この世界じゃ自分のやりたいように生きなきゃ後悔する、って教えてくれたの、アンタでしょ? まさか、分け隔てなく、なんてことは………………」
「そのまさかだ、エネ」
「はー」
「勿論、オレはケモナーじゃねぇから魔獣に対してはそこそこ厳しくいくし必要とあらば殺すのもやぶさかじゃねぇよ。ただ、人や魔物………………特に人なんかは、『その人の名前をオレくらいは知っといてやりたい』って思っちまうんだよなぁ」
「それだけ?」
「あぁ。詰まるとこ、そんだけだ」
「ふーん。そんなだから人気も高いのかねー………………」
「人に好かれようとは思っちゃいねぇが、嫌われようとも思っちゃいねぇ。オマエみたいに傷付けるのは得意じゃねぇが、受け止めるのは大の得意なんでな」
「へぇ。きっとファンは多いんでしょーねー」
「よせよせ。事実だろうと照れるもんは照れる」
「………………アンタのそういう面倒くさいとことか性癖とか知ってんのは、きっとファンの中にはいないんでしょーね」
「かもな」
「否定はしないの?」
「出来ねぇよ。オレを見る目が英雄を見るソレなヤツに性癖なんて言えっか」
「でしょうね」
「………………でも、いたなぁ、一人だけ」
「え、何何、なんのこと、誰よだれよ? 教えなさいよ」
「オレがオマエと出会う前の話なんだが。《馬と自然の国》でプラプラしてた頃にな、ちっこいボウズがぶつかってきてな、話を聞いたら、工場ってとこで違法な魔石造りをさせられてたんだと。んで、ボウズの言った工場をブッ潰したってことがあってな」
「はえー、やっぱりアンタねぇ」
「昔から、オレはオレってこった………………で、な。そこの工場は【傲慢勇者】もグルだったみてぇで、勇者軍の幹部が一人出張ってきてたんだがな、ソイツな、地味にオレと相性が良くなくてな?」
「はー、なーる、アンタ、一部の相手にはとことんまで本領発揮出来ないもんねぇ」
「想像してるだろうから詳しい説明は省くが、そん時にな、ちょっとした傷を負ったんだ。んで、例のボウズに言っちまったんだよ、『こんくらいなんともねぇ。むしろ普段のオレなら大好物だ』ってな」
「あちゃー………………」
「まぁ幸いにも、ボウズはその方面に疎かったからなんとかなったんだが………………あんときゃ焦ったぜ」
「へー。その子、そんなに記憶に残ってるんだ?」
「まぁな。その一件の他にも、あのボウズはちょっとばかし特殊な異能持ちでな。今頃はどこで何をしてるやら」
「アンタに憧れたヤツらって、大体がどっかに旅に出たり魔術結社立ち上げたりするけど、その子はどーなんだろーねー」
「さぁな。案外今頃は、オレらみたいに、ただ駄弁ってるだけかもだぜ?」
「うーん、その可能性も無くはないでしょうけど………………アンタみたいに誰かの椅子になりながら、とは考えにくいわね」
「まぁな」
■□【最下鼠】『 』《Lv.6》
「オレはオマエのできる事を殆ど知らん。仮に一時的に仲間になるんなら、最低限の情報共有はしとかねぇとダメだ。だからまずは、オマエが役に立つって証明しろ。もしかして、他にも《超異能》、持ってんのか?」
タイミングを見計らって、付いていきたい旨を話したら、こういう返答が来た。
確かに道理だ。
俺はただの鼠で、相手はそれなりに経験豊富な亜人。
俺としては、せめて読み書きを教えてもらうくらいの関係にはなってほしいが、向こうからすれば、俺を仲間にすることのメリットは皆無だ。
俺が一方的に頼み込んでるだけであって、向こうの意思がどうなるかは、俺のこれからの言葉で決まってくる。
ドーナは『キミが気を失っている間、ボクはずっと周囲を警戒してたんだよ? いい加減に疲れたぁー』と言ったきり、返事がない。
どうやら休んでしまったようだし、今の俺にできる精一杯の誠意で答えよう。
「そのまさかっすね。俺ができるのは、気配遮断と即死攻撃、それと毒が少し、です」
「気配遮断と即死攻撃? どういうこった」
「俺、もう一個《超異能》持ってまして。その中の一つに《暗黒を纏いし者》ってのがあって、それがその二つの力を使える、って感じです」
「なるほど………………」
ブルックスさんは【爪抉熊】を捌く手を止めない。
見る人が見れば吐き気がする映像になってるが、俺はゾンビ映画とかは大丈夫なのでそんなにショックは受けずに見られてる。
《暗黒は死を振り翳す》で殺したときも、そんなに断末魔が聞こえるわけじゃないし。
人間のときよりも利くようになった夜目を利かせると、ブルックスさんは川の中に【爪抉熊】の遺体をさらして血を抜きながら、右手でナイフを使って捌き、左手には何か光る石を持っている。
見た感じでは、あれは魔石で、色を見ると、生活必需品の類のもののようだ。
使っている状況から考えて、血の匂いを広めないとか、魔物や魔獣を寄せ付けないとか、そんなところかな。
もしかすると、俺が近づきにくかったのも、この魔石の効果なのかもしれない。
「………………即死攻撃って言ったな。その詳細を教えろ」
「えっと、まだあんまりよく分かってないんですけど」
「知ってる範囲で構わねェ」
「それじゃ………………」
言いながらステータスウィンドウを開く。
スクロールして《超異能》、《暗黒は刺客を覆い隠す》の欄を見る。
スキル名をタップすると、下に概要が表示される。
「即死攻撃の異能で、これを食らった相手は必ず死ぬ。条件としては、武器攻撃や身体攻撃中に、直接または間接的に相手に繋がっていること………………ですね」
「破格だな」
「で、ですかね………………? 正直自分、この世界に生を受けて短いので、よく分からなくて………………」
「あぁ。オマエの体が小さいこと、振るえる武器がほとんどないだろうこと、したがってリーチがほとんどないことを除いても、かなり強い。オマエ以外が持ってたらもっと強かったが、《超異能》ってのはそこを語るべきもんじゃねぇしな」
「初めから所有者固有の能力について、『もし』の話をしてもしょうがない、ってことですよね」
「元々、異能ってのはソイツが出来ることが昇華されてスキルになったものだぜ? 《超異能》ってのはその典型で、まさに異なる能力だからな」
これくらいは常識だろう、という口調でブルックスさんが言う。
確かに、俺が今までで得た知識を鑑みても、そういうものだろうと納得できる。
これは前々から思っていた疑問だけど――――――じゃあ、複数人が出来ることを、何故異能と呼ぶんだろうか。
複数人、下手したら世界規模で同じ異能を扱える人がいるなら、それはもう異ならない能力では無いのか。
あるいはこれは、初めからその世界に組み込まれている人には違和感のない話なのかもしれない。
ドーナが起きていたら色々と聞けたのだろうが、わざわざ起こすのも忍びない。
今度話を聞いてみるか。
「大事にしろよ、その異能。よっぽどのことがねェ限り、困ったら多分それで切り抜けられるだろ」
「はい………………あれ、それをくれ、とは言わないんですか? 交渉の材料にしよう、くらいには思ってたんですけど」
「あ? 何言ってんだオマエ」
「え、異能の譲渡って出来ないんですか? 俺の知る限りは結構な種類の異能があるから、『異能を与える異能』とか、『異能を奪う異能』とかあってもいいと思うんですけど」
「オマエが持ってるのみたいな異能に《吸収》ってのがあるが、それも相手を殺す必要がある上にランダムだ。とてもじゃねぇけど使いモンになる異能じゃねぇな。一定時間、自分が使えねェ筈の異能を扱えるようになる異能は、聞いたことがあるが………………オマエが言うような、奪うとか与えるとかは、聞いたことねェ。オレが知らねェだけで、世界のどこかにはあるのかも知れんが」
「はぇー………………」
確かに、それが出来れば、個人の異能所持数には限界などないのだから、際限なく異能を積み上げることが可能になってしまう。
仮にも神様が管理をしているらしい世界だから、容易に世界を混乱させられそうな要因は残しておかないだろう。
いや、そうとも限らないのか?
俺が考え込んでいると、ブルックスさんが思い出したように続けた。
「まぁ多分、仮にあったとしても、そんなに強大な異能にはならんだろ。異能は、ソイツに出来ることが昇華されてできたもの。どんだけ他人から異能を集めても、本人に才能がなけりゃ扱えねェさ」
「ああ、なるほど、確かにそうですね。頭悪いことを聞いてしまいました」
「いや、そういうとこに疑問を持つのはいいことだ。少しでも強さに貪欲になれば、そんだけ生き残れる確率は上がる」
めぇっちゃ褒めてくれるやんけぇ、なんか気分いいなぁ。
この御方、アメとムチがしっかりしておる。
将来は良い教師になるんじゃないかな。
この世界に教師なるものが存在するのかどうかは、まだ知らないけど。
話している間にブルックスさんは【爪抉熊】の解体が終わったらしく、肉の部位と、何か石に似たものを選り分けて袋に入れている。
石に似たものを指差して聞いてみる。
「それ、なんですか?」
「ん? あぁ、コレか? これは胆石。生物が魔力や技力を使うときに必要になってくる部位だ。体内にあるときは魔力や技力の生産や貯蔵をしてるモンでな。取り出しすと、生命との繋がりが切れたから生産能力は消えるが、貯蔵能力は健在だ。オマエの中にもあるぜ?」
「はぁ………………」
思わず脇腹を探ってみるも、あまり硬い感触がない。
「あれ、どこにあるのか分からない………………」
「そうだ。胆石ってのは個々の魔力や技力に深く結びついてっから、一回カッ捌いて引き剥がしてみるまでは、硬くはならねぇのさ」
「外気に触れると、空気中の魔力に触れるから、内部にある魔力と外の魔力が反応して、硬くなる、ってことですか?」
「そうだ。理解がいいな」
「あはは。脳内の友人に説教されてちょっとばかり反省したもので………………ぁ」
「へェ」
怪訝そうな顔をされなかったのは、俺の精神的に救いだ。
折角協力してくれそうな雰囲気なのに、このタイミングでやばい人だって思われたら、残念ですが今回は、って言われかねない。
大変なヤツだとは思われていないっぽいが、不思議には思ってている表情なので、話題を逸らす。
「えーっと、その胆石って、魔石には使えないんですか? 魔石って、魔力を込めた石だって聞いたので」
「使えるぜ。使えるが、魔鉱石の方が保つ。なんてったって胆石はナマモノだからな。特徴として、胆石は足が早いが、その代わりに魔力効率は比べ物になんねぇ。元の生物が強いと尚更だ。【爪抉熊】はほぼ技力だから魔法を込めるのには向いてねぇが、【爆毒蛇】を狩ってきたのは中々お手柄だぜ?」
「あっ、もしかして、強い生物の胆石って、冒険者ギルドに持っていけば高値で買い取ってもらえたり?」
「その通りだ。ただ、連中もそこまで暇じゃねェからな。好印象を持ってもらうためにも、中身抜きはしっかりしてくのがマナーだ」
「中身………………元生物だから、生きてた頃に生産した魔力や技力が込められてるんですね」
「あぁ。技力は吸い取っても問題ねェが、魔力は下手に生物のモノを取り入れると、拒否反応が出ちまうこともある。だからそういうことはしねぇで、こうして置いて………………」
言って、ブルックスさんは胆石を河原の平べったい石の上に置く。
そうして両手を翳し、目を閉じて瞑想する。
一体何をしているのかを見ようとすると、ブルックスさんの手から流れ出している魔力を捉えることができた。
同時に、胆石の方からも、入っていくのとは違った魔力が流れ出している。
活性化しているのか、胆石が淡く光り、水面を、俺の体を、整ったブルックスさんの顔を照らしていく。
顔付きの基本は犬のソレで、全体的に彫りが深く凛々しい顔つきだ。
………………いや、別に俺はホモではない。
暗い森の中で光らせても大丈夫なのか、と思いつつしばらく待つと、胆石の光の色が少しずつ変化していって――――――安定した。
これが終了の合図だったようで、ブルックスさんが手を離し、額の汗を拭った。
「とまぁこんな感じで、中に入ってる魔力を自分のモンで押し流してやるのさ。胆石に限らず魔石になるモンは、許容魔力量が決まってるから、次第に中身は全部オレの魔力に入れ代わり、自分で吸っても何の影響もない中身になるって寸法だ」
「なるほど」
胆石を俺に向けて言いながら、今度はソレを握りこむ。
手のひらから肩、そして胸元まで、服の上からでもわかるほどに、さっき胆石が安定したときの色の光が伸びる。
「見えるか? この光の先、胸のあたり。最後が点になってるだろ。ココにオレの胆石がある」
そして今度は腕の先から消えてゆき、最終的に胸元の光も消えた。
ブルックスさんが、口を尖らせて息を吐き、握りこんでいた手の平をゆっくりと開く。
胆石は完全に色を失い、石と言うよりも透明なクリスタルのようになっていた。
なるほど、魔力を失うと、こんなふうになるのか。
「この時は、全く同じ属性の自分の魔力だからいいが、さっきみたいに性質の違う魔力を押し出すときは気をつけろ。握ってアレをやると、勢いが弱い魔力回路から胆石の魔力が入ってきて、腕が壊死するぞ。魔石に魔力を込めるときも、ある程度離さねぇとダメだな」
「壊ッ!?」
「………………先輩からのアドバイスだ、覚えとけ」
「は、はい………………」
その言葉は、今までとは比にならないくらい重く感じた。
~( `ϖ´)最近Vに、ってかに○さんじに目覚めました
~( `ϖ´)なんやねんあの人ら、面白すぎるやろ




