三十六匹目 〜( 収奪の重み C・〉
~( `ϖ´)<こちらのターン最後の更新です
~( `ϖ´)<遅れてしまったのはひとえに、
~( `ϖ´)<彼が、ウチのカルデアに王の話をしに来てくれなかったからです
~( `ϖ´)<すみません
《天暦※※※※※※年 八月 九日 AM9:30》
そ、っと歩き出す。
相手の目玉は大きい。
当然こちらを一度は認識したはずなので、《刺客》は通じないだろう。
とは言え、飛び入り参戦されることが無いとも限らないので、一応発動はしておこう。
じり、じりと寄っていき、残り僅かになったところで、跳びかかる。
踏切のときに、小さな石を蹴りつけてしまい、コツン、と音が出る。
しまった、と思ったが、その時にはもうアフター・ザ・フェスティバル(逆)。
「ッ………………!」
「グリュ、リュリュル、ニュリリィ!?」
すんでのところで感づかれ、逃げられてしまう。
体の奥からくぐもった鳴き声を漏らしながら、【透単蝙】は閉じていた羽を急いで広げ、飛び立っていく。
畜生、あいつ、耳なんて無い癖に、耳が聞こえてやがるのかよ?
《いや、そうじゃないと思うよー》
《なら、どうやって?》
《うんとー、キミが出来るように、多分あいつも周りのMPの流れが、ちょっとだけわかるんだよー、程度の差こそあれ、ねー》
《なるほど、勇者の一件のときの、アレか》
新人もいいところの俺だって、ドーナの補佐付きだが、周囲のMPの認識はできる。
なら、ここで長年生きてきた人生の先輩なら、出来ても不思議じゃない、か。
視覚の情報が多いとはいえ、周囲の認識ができる奴、か。
《あいつに、MPの質で判断する能力があると思うか? ほら、ソフィーさんの玄関みたいに》
《んむー、無いと思うけどねぇ。あいつの等級、弐だし》
《さんくす》
なら、アレを試してみるか。
その前に、ちょっとだけ下準備が必要だけど。
「チュウッ!(おぉらッ!)」
「グニゥ、ビュリョ、ウ!」
「チュ!(ふっ!)」
「グギュリュウリュウゥ!」
………………さて。
あれから十回ほど、飛んで逃げられてを繰り替えした。
アイツを追っていたら、いつの間にか奥深くまで潜り込んでしまったが、こいつを捕食したら、そのときはもとの場所まで戻ろう。
取り敢えず、ここから作戦開始だ。
「………………」
「ヅィ、グリュ、ニュル、ァ………………」
流石に何度も襲われるのに堪えたのか、【透単蝙】は気持ち息を切らせながら、小高い岩の上に降り立つ。
その影を、俺は近場にある小さめの岩場から覗いていた。
こちらに気付いている気配はない。
周囲をその自慢の目で見回し、一安心した【透単蝙】が一息吐こうとした、その時。
「ギ、ユゥ、ギャルウゥ………………」
「ギ、ウゥ!?」
奴の近くから、仲間の【透単蝙】の鳴き声が響いてきた。
突然の音に、奴は羽を震わせながら、恐る恐る周囲を見回した。
この鳴き声が、彼らの種族間でどういう意味を成すのかは分からないが、取り敢えず奴の注意は引けている。
それを確認し、少し驚いたように、かつ傷付いているかのように俺が鳴く。
声帯を《擬態》で模した結果だ。
本来なら見えない部分は模せない筈のこのスキル、ドーナのお陰で、情報があれば見えなくとも模せられるようになったのだ。
外側だけ変化するスキルで、声まで変わるかは少しの賭けだったが、無事に成功。
「ニュ、リ、ルゥギ、ギャァ………………?」
「ギュウリュウァ! リ、リリュウ?」
傷付いた仲間が近くにいると発覚した奴は、自分の岩場の近くを飛び回り、仲間の影を探す。
奴がとびきり優しいのか、元々団結力のある種なのかは分からないが、この調子で奴は仲間を探し続けるだろう。
或いは、奴自身が追われているからこそ、奴も助けを求めているのかは知らないが。
………………俺はそこを突く。
とにかく、これで奴の意識から、俺の姿は消え去った。
《目標の【透単蝙】、こちらを向くまで、推測残り三、ニ、一………………》
ドーナが気配を察知して、憶測とはいえこちらを向くタイミングを教えてくれる。
俺はそれを信頼し、指示されたタイミングで、尻尾を付き出す。
無論、【最下鼠】のままのソレじゃない。
《擬態》を使い、【透単蝙】の羽に模したモノを、岩の影から付き出す。
ガワだけ似せるこのスキル、こういう使い方もあった。
尻尾が羽のように動かせず、飛べなくとも、怪我をしている設定で、全身を使って動かせば、奴レベルの魔獣なら誤魔化せるのは計算済み。
俺の体ではなく、その羽だけを視界の端で捉えた奴は、こちらに向かって一直線に飛来する。
「ギュイゥヤァ………………リュイルェル、ルゥゲゥ?」
心配するような声を出しながら、少しづつ、少しづつこちらに寄る。
ソレをドーナから教えてもらった俺も、岩の上方に少しづつ移動し、誘導する。
何分小さい岩なので、少し移動するだけでも岩の反対側に隠れてしまう。
俺の《擬態》の欠点として、一度に擬態できる部位は一つだけ、というものがある。
《暗黒は死を振り翳す》を発動するために、今は口周りの《擬態》は出来ない為、見た目だけの羽に付いてきてくれるかも、若干の賭けではあった。
しかしなんともまぁ単純なことに、奴はもう信じ込んでいて、羽が俺のものだという可能性は浮かんでいないようだった。
そのまま左右の羽をバタつかせて、奴は俺の尻尾を追う。
そこで俺は、一気に尻尾を岩の向こう側に振り、奴から隠してから、《擬態》を解いて引き寄せる。
混乱した奴が岩の周りを探し回るが、最初からいないものは見つかるはずもなく、堂々巡りに陥っていた。
「ギューゥ、ヅヂュウィェ?」
さて、今俺は、奴を岩の上から眺めていて、奴はそれに気付いていない。
俺がここまでの状況を作り出したのにはワケがある。
先程初めて遭遇した時、【透単蝙】は羽を閉じていた。
あの時は落ち着いていて、周りの様子を探るための姿勢だったのだろう。
同じく周りの状況を探るときに羽を閉じるのは、さっきからの鬼ごっこで確認してある。
そして今、怪訝そうな雰囲気を醸し出しながらも、【透単蝙】が岩の上に座り、そして──────
羽を閉じた。
《今………………ッ!》
無防備なその姿に、俺は上空から飛びつく。
暗い中なので、影で気付かれる心配はない。
重力に従って落ちるので、踏み切りの音もさほどしない。
「………………」
【透単蝙】は、その場を動くことなく、数秒後、俺の牙で命を失った。
一瞬にして失われた命、断末魔どころか身動ぎもない死。
そのことに対して多少は感じるところはあれど、俺の食料を食べていく輩は、見逃すことは出来ない。
なるべく恐怖から遠いところで死なせてやる──────いや、食べさせてもらうために、ここまで迂遠な方法を取った。
勿論、【透単蝙】にそれを理解するだけの思考力があるとは思えなかったけれど。
取り敢えず、少しでも目の前の遺体を無駄にしない為、《伝説》を発動させる。
《いただきます………………ッ、ツァ》
《だいじょぶ?》
ドクン、と音がするように流れ込んできた、【透単蝙】の記憶。
今までのコイツを形成していた全てを、余すところなく俺は摂取している。
それをする責任が、俺にはある。
暗い中生まれ育った。
母親が別の魔物に、埃を払うように殺されてからも、必死で生き延びてきた。
必死で保ってきた命を奪った相手の姿は、【透単蝙】の記憶の中には、無かった。
《ハァ、ハァッ………………ごちそうさま、でした》
《………………》
呆れているのか何なのか知らないが、ドーナが静かにしている様子が伝わってくる。
嗚呼、辛い。
しんどいが、それでも。
《なあ、ドーナ》
《? なにかな?》
《俺はさ、恵まれてる》
《………………》
そう、俺は恵まれてる。
ステータスウィンドウの表示から見るに、この世界には、経験値のシステムが存在する。
俺も、【擬態樹】を倒した時、【透単蝙】を倒した時に、経験値を入手した旨のアナウンスが脳内に響いた。
確かに力を受け継ぐ相手から一緒に記憶をもらうのは、しんどい。
でも、それを知る事が出来るだけ、他の人よりも恵まれてる。
普通の人は、『経験値稼ぎ』と称して狩りをする途中、相手にも命があったことを忘れてしまうだろうから。
だから、いつまでも命の重みを忘れない俺は、すごく恵まれてる。
《俺は、生きるよ。今まで取り込ませてもらった奴らの分まで。そんで、平和に暮らそうとしてる命が侵害されない世界を作る》
そう。
決めた。
ソフィーさんの想いに感化された俺がたどり着いた、俺の結論。
そこに至るまでの方法で、こんなことをしているなんて、矛盾しているという自覚はある。
《だけど、それより先に、あの《勇者》ってやつに勝てるだけの力を手に入れなきゃ。いつか、あいつは俺が倒してやる》
だから今は、俺は食べて喰って、力をつける。
そしてあいつを倒して、あいつみたいな王に支配されている人々を解放する。
それが今の俺の第一目標。
《よし、取り敢えずは戻るか! 結構奥まで来ちゃったからなぁ》
《………………》
《ドーナ? どうし………………うおぅっ!?》
ぐらり。
突然、地面が動き始めた。
右へ左へ、上へ下へと動き回る地面の様子は、まさしく地震。
グラグラと揺れる岩の上、しがみつくも、振り落とされてしまう。
そして、ぐらぐらと揺れ動いているのは………………
《天井が落ちる!?》
地面だけでなく、天井の岩までもが落ちてくる。
蝙蝠が生息する洞窟を最初の拠点に選んだのが悪かったか。
がらがらと音を立てて岩が落ち、俺の上に落ちてくる。
俺は、今しがた捕食した【透単蝙】の目玉部分をくり抜き、即席の部屋に入り、そしてなんとか衝撃から身を守ることに成功した。
一つしかない目玉の周りは頑丈だろうと思ったが、ビンゴといったところだ。
とはいえ、岩々の流れに逆らうことなどできず、さらに奥へと流されていく。
「チュゥゥゥゥウウウウウウウ!?(うわぁぁぁぁあああああああ!?)」
なんとか保ってくれよ、【透単蝙】の身体!
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