三十四匹目 〜( 初めての捕食 C・〉
~( `ϖ´)<つっづきー
《天暦※※※※※※年 八月 九日 AM7:30》
目の前の怪物は、何らかの言葉を発している。
無理矢理に日本語化しようと思えば、こんな感じだろうか。
「グギュルルリュリルュシュヨェヤァ………………」
うわ………………
ギョロギョロと動く青い目、びゅるびゅると動く触手のような枝、ボコボコと地面から抜ける節足動物のような脚。
完全にモンスター。
ここまでモンスターモンスターしてるモンスターは、生まれて初めてだ。
………………いやまぁ、実際モンスター見たの初めてなんだけどネ。
《笑ってる場合かなー?》
《? それは、どういう?》
《ま、取り敢えず、《女神は真実を看破する》で、相手のステ確認したら?》
《お、おう》
そうだ、俺には異能がある。
例え姿がヒトでなくても、ネズミであっても、異能だけは問題ない筈。
使える異能は使っていくべきだな。
そんで、《女神は真実を看破する》は、確か情報開示の能力だった筈。
情報、それすなわち力であるから、これも使うべきだ。
さぁ、新品の異能を使おうではないか!
「………………チュ(………………あー)」
そして、ふと気付く。
異能って、どうやって発動するんだ?
いや、待って欲しい。
今までは割とすんなり使えたと思っているだろうが、実はそうではない。
最初に使うときは発動条件を模索しつつ、色々と試しているのだ。
それこそ、《暗黒は刺客を覆い隠す》を最初に使ったときなんて、本当に分からなかった。
ホントに、呼吸を整え、瞼を閉じて、軽い瞑想状態にならなければ使えないなんて、実戦に不向きすぎる。
まぁ但し書き的には実戦での使用は考えられてないみたいだったけど。
で、だ。
今度のは、《女神は真実を看破する》で、《伝説を紡ぎし者》の異能の一つ。
今まで、《伝説を紡ぎし者》の異能は使ったことがなかった。
だから、トリガーが動きなのか、念じればいいのか、一定時間なのか、本当に分からないのだ。
だから。
「チュッチュー!(逃げ一択ー!)」
踵を返し、全速力で駆ける。
恥も外聞もかなぐり捨てて、俺は今、生への努力をしている。
その選択を、誰が責められようか。
こんなにも生に対して誠実な人間を、俺は俺以外に知らない。
そう、これは間違いではなく、答えへの回り道なのだ。
………………初戦でこんなザマで恥ずかしいとか、思ってないんだからねっ!
さて、一旦落ち着こう。
背中から不気味な声を聞きながら走ること数分、発動条件を掴めた。
《真実》は、念じるだけ、もっと言えば、『知りたい』と思いながら対象を見るだけだった。
あんなに慌ててたのが馬鹿みたいに思えてくる程カンタンだった。
ま、まぁ、あんときは正直テンパってたから。
ぶっちゃけどんな見た目かもあんま覚えてないから。
だから実質、次のが初戦ってこと。
《さて………………!》
心の中で気合を入れ、意を決して振り返る。
四つの脚の全てに力を込め、力強く大地を踏みしめた。
そして、《真実》を発動。
《おぉ………………! 見える、見えるぞ………………!》
《おおげさー》
《いや、ちょっと感動。ようやく一矢報いれるし》
俺の視界には、半透明の板状のモノが浮かんでいる。
さっき触ろうとしたら一部しか触れられなかったので、ホログラムかなにかだろうが、そこに相手のステータスが表示されていた。
自分のはべたべた触れるのに、不思議なものだ。
さて、相手のリリゴの木モドキの名前は、【ミミックツリー】とある。
なるほど、擬態樹か。
実にそのままなネーミングだ。
名付け親のネーミングセンスが見て取れると言うもの。
《………………あんまりその話題には触れないほうが良さげー》
《え、そうなのか》
ふーん、だったらまぁいいか。
で、問題なのは【ミミックツリー】が持つ異能の方。
そこを見れば………………《擬態》の文字があった。
「チュ………………(これは………………)」
ワンチャン、もとの姿に戻れるんじゃ!?
よし、早速ころころして、異能を頂い、て?
《お、おい、アイツ、なんかこっち見てるぞ》
《………………そりゃそうでしょー》
《いや、そうじゃなくて。なんか視線に害意を感じない、っつーか?》
そう、こちらを向く【ミミックツリー】の動きが止まっていた。
俺を捕まえようとウネッていた枝は鳴りを潜め、根っこの脚は止まり、瞳は俺の顔の一点を見つめている。
心なしか、全体的に撫で肩っぽくなってるような?
………………え?
「ミャギュ、グィジョジュグィ………………」
「チュ………………?(え………………?)」
なんだろう、この感じ。
酷く吐き気を催す外見なのに、そういう塩らしい態度を取るのはズルい。
恐怖と異物感しか感じなかった【ミミックツリー】に対して、愛着のような何かが湧いてきていた。
「ギゥユヌチブクェヌバァ………………」
「チュ………………(お前………………)」
【ミミックツリー】は、枝の一本をこちらに差し出してきた。
先端は丸みを帯び、少なくともソレで刺殺されそうな感じじゃない。
瞳には友好の意思が宿っている様に見える。
そっか、お前………………
《友達が、欲しかったんだな………………》
《………………》
なら、こうするさ。
俺はゆっくりと歩みだす。
そして、右前脚を差し出す。
「チュチュ(よろしくな)」
「ギィウェユィアボウィ」
【ミミックツリー】は俺の右前脚に、差し出した枝を合わせる。
握った手は硬質だったけど、一応温もりも感じられた。
そうだ、友達になったんだったら、これからはあだ名で呼ぼう。
通じるかは分からないけど、こういうのは気持ちが大事だ。
そうだな、【ミミックツリー】のリー君なんか、どうだろう?
結構よくね?
なんて、考えていたとき。
俺は、気が付いていなかった。
真上に、大きく口を広げたリー君の本当の顔があることに。
そして、その目は、俺を食物としてしか見てないことに。
そして、【ミミックツリー】は俺を捕食した。
体中を圧迫され、大変な気持ちの悪さがあるが、ぶっちゃけもうどうでも良い。
だって、俺の口はもう開いているのだから。
「グリュハリアヂエファキエナイン………………」
「グェ!? ギュラスドエジャオセジャモッ!?」
「ギュアエウィニエデャイベヒダァァァァァッッッーーー!?!?」
はぁ。
できればこういう非情なことは経験したくなかった。
でも、ある意味では早めに知れてよかったと言えるかも?
実際、こうした命の危機に合わなければ、俺はまだ緊張感に欠けていた可能性がある。
そうなる前にこうした経験を積めて、感謝しなきゃな、神に。
「チュウ………………(はぁ………………)」
俺はぐったりとした【ミミックツリー】の残骸から外に出る。
飲み込まれた時と違い、全身の力が抜けていたので、特に苦戦することなく外には出られた。
出られたのだが。
《どうしたのー? たべないのー?》
《いや、なんか憚られる》
《なんでー?》
《なんでって、お前、そりゃあ》
友達だと思ったから。
そう念じかけて、止めた。
もしかしたら聞こえていたのかもしれないけれど、幸いにもドーナは無反応を決め込んでくれた。
………………平和ボケしすぎているのは重々承知している。
でも、一瞬でも友好的だ、友達になれる、そう思った瞬間から、俺の中で、【ミミックツリー】の見え方が変わってしまった。
ただの気持ち悪い木から、友達に。
だから、憚られる。
出来れば、食べたくない。
………………でも。
「チュ(ごめんな)」
一言だけ言って、俺は此奴の肌に食らいついた。
そして、《女神は伝説を語り継ぐ》を発動。
これを使った途端に、異能と共に、頭の中にイメージが浮かんできた。
鬱蒼と茂った森の中、一人佇み獲物を待つ【ミミックツリー】の主観の映像。
なんとなくの感覚では十年近くのその記憶が、一気に頭の中に入ってくる。
正直に言って、脳がパンクしそうだった。
《今のは………………?》
《あー、デメリットだねー》
《デメリット?》
《うん。一部の異能には、発動時の反動があるのさ》
《反動………………》
まぁいい。
どの道この先には、この力を多用することになるだろうから。
だから、今は何も考えずにいよう。
幸いにも、さっき流れ込んできた映像からして、此奴に自我はなかった。
………………木目のような肉をかじり取って、無理やりに嚥下する。
初めての捕食は苦くて渋くて、とても食えたものじゃなかったけど。
それでもなんとか嚥下した。
さあ、初めての狩りが成功した。
食が何とかなることが分かったのだから、次は住だ。
急がなければ、一日は短い。
俺は、手に入れた異能の確認をしながら、その場を去った。
~( `ϖ´)<主人公の考えは、
~( `ϖ´)<率直に言って褒められたものじゃありません
~( `ϖ´)<自我のある生物(魔物)ならまだしも、
~( `ϖ´)<自我のない生物(魔獣)相手に同情はしてはいけません
~( `ϖ´)<その辺、どう成長してくのかは、ある意味楽しみですかね?
※余談
・【ミミックツリー】
本作初登場の魔獣の称号をほしいままにした。
主人公にした方法は、割と常套手段。
目玉をつぶして、【ラット】系の魔物の爪と一緒にすりつぶすと、毒消しの効果があるとかないとか。
なんの植物に化けるかは生息地域によって異なる。
基本的には単独で生息する。
………余談中の余談だが、別の【ミミック】系のモンスターと、生態は全く同じ。
ただ動きたいかそうでないかの違いである。
~( `ϖ´)<ご感想その他お待ちしております!




