三十一匹目 ~( きっと、また何処かで C・>
~( `ϖ´)<ただいま
《天暦※※※※※※年 八月 八日 AM:》
「………………ごめん、待ったかな?」
目の前の女性は、煌々と輝く爆炎を背後にしながら、俺の方を向いて言った。
そして、俺の方に向いていた光線はその炎に阻まれ、余熱を伝えるだけとなる。
普通に考えたら、光線は炎を貫通してきそうなところだけど、まぁ俺の今持っている常識がどれほどちゃちなのかは、言うまでもなかったか。
ああ、俺の前に立っている彼女は──────
「ちょっと遅れちゃったかな。大丈夫? 怪我はない?」
ソフィー・クラーク。
俺の生き方の手本となってくれたひと。
そんな人が、今俺の前で、俺を守ってくれている。
生前涙もろいことで定評があったわけではないけれど、思わず目頭を熱くする。
雲散霧消した光線の残滓と炎が消え去り、顔を歪な喜びに歪ませた少年の姿が露になる。
「おい。貴様、ようやく出てきたかと思ったら、余ではなくその矮小なモノに語り掛けるなど。余を馬鹿にしているのか?」
「──────あ、この異能のことについては、またあとでいいかな? ミーニャ達には言ってたけど、いきなり見たらびっくりするよね?」
「………………貴様ァ!」
随分と、堪忍袋の緒が細い勇者様だ、そう思えるくらいには、俺は冷静さを取り戻していた。
こちらに向いて喋っていたソフィーさんが、苦々し気な顔をしながら少年に向き直る。
「………………なにかな? 今私はこの子たちとのお話で忙しいのだけど。お引き取り願えない?」
「──────────────────」
少年の口腔が、大きく吊り上がる。
しかしその目は冷徹さを湛えたままだ。
普通ならば怒りだすところだけど、どうしたのだろう?
「そうか、そうか。どうやら貴様は死にたいらしいな。《爆炎魔王》として名を轟かせた貴様にしては、随分と臆病ではないか」
「──────その名前は捨てた、っていうか勝手にそっちが呼んでるだけでしょう………………」
──────え?
ソフィーさんが、魔王?
魔王って………………所謂人類悪みたいな、あれのこと?
《なあ、ドーナ、《魔王》って、どういうことだ?》
《どういうこと、ってさぁ。その前にボクに言うことがあるんじゃないの?》
《あ、そうか。すまん、じゃあまたあとでいいや》
《ちょおい!》
頭の中のドーナが言うが、正直今コイツのことを気に掛ける時間じゃない。
きっと、目の前のこの二人は、世界でも有数の実力者だろう。
少なくとも、今の俺が何人束になっても勝てる気がしない。
「で? 勇者さんは私に何の用なの? さっきも言ったけど、私はお引き取りしてもらいたいのだけど。貴方とは戦いたくないし」
「散々余の軍に追い回されておいて、その口が出るとは、見上げた根性だな、貴様」
「何回言わせれば、気が済むのかなー?」
あ、ソフィーさんの頭に血管が浮かんでいる。
確かにこの少年、自分中心で、ある意味では《傲慢》そのものなので、イライラする気持ちも分かる。
だが、聞いた感じでは一国の王のようだし、相手の立場的には逆らうのは得策ではなさそうだ。
けれども、得策かどうかは関係ない。
あいつは、人としておかしいことをしている気がするのだ。
だったら。
「チュ、チュ(ソフィーさん、こいつは)」
「? どうしたの? お腹すいたの? ちょっと待っててね、こいつを追い払ってから………………」
「もうよい。貴様らの言いたいことは理解した。其の上で、余が一つだけ言うなれば──────死ねぇあぁ!」
ああ、流石に火にガソリンを注ぎすぎたかな。
依然として余裕綽々の態度を保とうとするのは非常に見苦しいが、恐らくそのことに気が付かないくらいには冷静さを失っている。
ソフィーさんは、心底面倒そうな表情のまま、少年を見据えながら言う。
「はぁ。きっと大方、あの大臣の差し金だろうけど、ここまでしつこかったのは一体何人ぶりだろうねぇ。そしてここまで厄介なのも」
「チュ?(え?)」
「何でもないよー。そうだ、危ないから君たちはここから離れてて。ほら、ナーガ、お兄さんなら、みんなの頼りにならなきゃ、ね?」
「ッ! ──────ああ、任せて、くれ!」
え、あ、おい!
ガタイの良い男の方、猫精族のナーガが俺の首根っこを掴み、服のポケットに突っ込む。
「貴様とはまだ会って間もないが、他でもないソフィーの頼みだ。絶対に死ぬなよッ!」
そして走る勢いのまま、ミーニャを抱え上げる。
所謂、お米様抱っこと言うやつだ。
ナーガは、気絶していたミュータローを走る勢いで蹴り飛ばし、無理やりに意識を戻した。
確かに、しなやかな手足のあいつは、がっちりしたドーナよりも速そうだし、その方が効率的だろう。
逃げの姿勢を見せ始めた俺たちの姿に、ソフィーさんに向かっていた少年の視線がこちらに戻る。
「おい。貴様等、余の前から逃げられると──────」
「逃げられるよ。私が居るんだもの。貴方を倒すのは無理だと解ってるけど、足止めなら完璧にこなして見せる」
「貴、様ァ!」
少年の顔が、もはや醜悪な悪魔のソレに変わる。
頭の角にはよく似合った顔だが、少年の端正な顔立ちには似合わない、と素で思った。
「さぁ、走って! 私も少ししたら戻るよ!」
「ソフィーさぁん!」
ミーニャの顔が悲痛に歪む。
ソフィーさんは、そんな子猫の姿に、微笑みをもって返した。
「大丈夫。私はこれでも《魔王》の端くれ。単純火力だったらちょっとしたものなのよ?」
その不敵な笑みには、自負と、過去と、後悔と、様々な感情が渦巻いているのが分かった。
揺れるナーガのポケットの中からそれを見た俺は、直視できずに思わず視線を外してしまった。
付き合いの浅い俺でさえそうなのだから──────猫精族の三人がどのような表情をしていたかは、言うまでもない。
「もう行きなさい! 貴方たちなら、きっとこの先も生きてけるわ!」
「戯言、をぉッ!」
少年の乗る馬の翼が開く。
胴体の途中から開かれる、蝙蝠のような羽。
伝説のペガサスを闇堕ちさせたら、ああいう風になるのだろうか。
「やれぃぁ!」
「やれやれ、勇者様。勇者なのにどこまでも人任せなのですか?」
「──────!」
ああ、もうあれ以上怒ったら、自然と頭の血管が切れて、少年は大変なことになってしまうだろう。
まぁ、彼の健康状況については俺の知ったこっちゃないんだけど。
「行くぞ、ミュータロー!」
「──────うッ、ッズぅ!」
涙を堪えつつちゃんと前方を見るミュータロー。
そしてナーガとミュータローは走り去り、俺たちは完全に分離してしまった。
~( `ϖ´)<と、言う訳で分離
~( `ϖ´)<………まぁ、どうなるかは次話でお届けします
~( `ϖ´)<それまではご想像ください
~( `ϖ´)<え? 魔王ってなんだ、ですって?
~( `ϖ´)<読んで字の如くです、としか。
~( `ϖ´)<しばらくしたら解説的回を設けますのでー
~( `ϖ´)<ご感想その他お待ちしております!




