三十匹目 ~( 最適解 C・>
~( `ϖ´)<此方のターン最終回
~( `ϖ´)<この話の後で妖怪の方へと戻ります
《天暦※※※※※※年 八月 八日 AM6:00》
「貴様等の愚行は全く理解が及ばん。余が出せと言うモノを何故出さない? 余に従わねばならぬ事は、世界の理の一つであろうが。余に盾突く者は、そうだな………………生きたままその身体を擦り潰して、下々の民草らに施してやるか」
少年の態度は変わらない。
恐ろしく冷徹なようでいて、その実感情的なその声は、木々のさざめきの中でははっきりと聴こえ過ぎる。
はっきりと分かったが、彼は彼女等とは全く別の舞台に立っている。
勝手な分析で、戦闘に関してはド素人の俺によるものなので精度は全く期待出来ないが、恐らく彼女等が百人いても彼の領域に到達する事は出来ないだろう。
それでも尚諦めないという点は、果たして良いのか悪いのか。
「………………一つだけ、聞かせて貰っても良いかしら」
「あぁ? ………………まぁ良い。冥土の土産をやらん程余も人間を辞めては居ない」
どうやら彼女の勇気は死期を早める事は無かったようだ。
ギリギリと金属同士が擦れる様な音を立てて剣を踏ん張らせながら、彼女は事の顛末を問うた。
「何故、貴方はあの人を探しているの? あの人は罪を犯すような人じゃないわ。貴方が彼女を執拗に探す必要はない………………」
ミーニャが言葉を止めたのは、少年の顔色が若干変わったように見えたからだった。
彼はおもむろにミーニャに近付き、彼女の首を締め上げる。
「な………………っ」
ミュータローとナーガは彼の迫力に、動く事が出来ず、俺も未だにドーナからの指示が無いため、飛び出す事が出来ない。
酷く軽蔑した目をミーニャにくれてやりながら、少年は言う。
「貴様、余を愚弄する気か?」
「!? ………………ぐぅっ」
訳がわからない。
彼女はただ、彼の行いの理由を問いただそうとしただけで、しかも彼はそれに答えることを約束していた。
彼女は自分の考えを少年にぶつけようとして、そして締め上げられた。
只呆然とする他ない俺達の前で、少年は彼女の首を掴んだまま上へ引き上げる。
少年の乗る馬によってズレていた視線が交差し、少年は真っ直ぐに目を見て吐き捨てた。
「貴様の発言内容は、余を愚弄するもの以外の何物でもない。余は神の使いたる《勇者》の一人であり、余を愚弄するなどといった愚行は神への反発である事を理解せよ」
苦しみの呻き声を出すミーニャの姿を見て、少年は少し正気を取り戻したように見えた。
そして少年は言った。
「………………まあ、少しばかり冷静さを欠いてしまったが。余が間違っているという事実はこの世界に存在してはならぬ塵である。余が行っている事の正義を問う事は最初から必要が無い。その答えは既に正しいと世界に定義されているのだからな」
「チュ、ゥッ(何を、言って)」
彼の目は無邪気な狂気に淀み、口は全能感からか歪な形を描いていた。
「そして貴様はあろうことか余の行いを糾弾するという世界の禁忌を犯した。神の言う傲慢という奴だ。勿論それが重罪となる事は理解しているな? 目の前の余がそれを取り締まる立場であることも」
「あ………………っが、っ………………!」
ギリギリと音を立て、少年はミーニャの首を圧し折っていく。
彼の乗る馬は、顔を少年に向け、何か命令を待っているようだった。
そちらを見た少年は、その従順な視線に満足したように頷き、目線を戻して言った。
「余が貴様を殺すには、十分な理由が揃っている事は理解したな? 冥土の土産に余の言葉を拝聴出来た喜びに歓喜しながら息絶えるが良い………………殺れ」
《!? お、おぉいっ! 今飛び出すなよぉっ!》
少年が命令を下し、大きく開いた馬の口腔が眩い光を造り始め、それがミーニャに向かっている事を確認した俺は、駆け出していた。
前に突き出す前脚が、地面を蹴る後脚が、恐怖と不安と焦りで震える。
《下がれっ! 今なら逃げ出せばキミは助かる! 命を擲つんじゃないっ!》
頭の中では神のお告げが聴こえる。
俺を必死に止めようとする声が。
それが、俺と一蓮托生の存在が保身の為に言っているのではなく、純粋に心配と良心からの忠告であることは分かった。
それでも、俺は震える脚で一生懸命に駆ける。
《嫌だ》
《どうして!?》
《嫌だ………………嫌なんだ! 俺はコイツ等が死ぬとこは見たくねぇんだ! そんなのソフィーさんだって絶対に望まねぇ筈だっ!》
ここでコイツ等を見捨てて生き存える位なら、ここで一緒に散った方がマシだ。
この先も後悔の念に取り憑かれたく無い。
それに何より、知り合って、一緒に話もした相手を見捨てられるほどの勇気が、俺には無かった。
戻れと繰り返す頭を無視したお陰か、俺と少年の距離はもう然程無い。
全身のバネを使って、俺は少年に飛び掛かる。
大丈夫だ、まだ見つかっていない筈で、《暗黒は刺客を覆い隠す》も正常に作動している。
俺の姿はその場の誰にも把握されておらず、このまま《暗黒は死を振り翳す》を発動させれば、この場の争いは終結する。
そう信じて、俺は必殺の理を込めた前歯を剥き出し、少年に噛み付く。
事は許されなかった。
少年まで目算五メートル程を残した地点で、俺は弾き飛ばされた。
行き場を失った必殺の力が次第に解けて行く。
弾かれた際に大きな音がした事により、暗殺者を覆い隠す暗黒は無きものと化してしまった。
心底面倒そうな少年の眼が、未だに立ち上がれない俺の脚をを射竦める。
「………………興が削がれた。貴様に一言くれてやろう。『戦場では弱い者から死んで行く』のだ」
それだけ言って、少年は俺から目を外した。
助かったのではない、既に命あるものとして扱われてはいないのだ。
その証拠に、先程までミーニャを消し飛ばそうとしていた馬の光がこちらに向いている。
視線の先には、少年に掴まれたままこちらに手を伸ばすミーニャと、間に合う筈も無いのに駆け出すナーガとミュータローの姿があった。
どうやら彼等も俺と同じく臆病で、誰かの為で無いと動けない者なんだろう。
死に際の異常に速い思考速度で、最期にそれを悟り、自分の顔によく分からない笑みが浮かぶ。
頭の中では悲鳴が聴こえ、彼に対する申し訳無い想いが止めどなく溢れ出す。
しかし俺は後悔していない。
それはきっと、誇るべき生き方なんじゃないかと思う。
「チュウ………………
(二度目の人生、儚いなぁ………………)」
馬の口の光が最大級に達し、眩い光が放たれる。
俺の眼前には、炎が上がっていた。
~( `ϖ´)<ここでミュータローとナーガが駆け出せなかったのは
~( `ϖ´)<少年の乗る馬の力の一端によるものです
~( `ϖ´)<馬の魔法、異能使用時の魔力放出口の一部が口へと移動した為
~( `ϖ´)<その時には動くことが出来たのです
~( `ϖ´)<これは馬にだけ言える話ではなく
~( `ϖ´)<魔法や異能を使うモノが絶対に無視する事の出来ない問題なのです
~( `ϖ´)<その辺また今度詳しい話を入れていきます
~( `ϖ´)<ご感想、その他お待ちしております




