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二十五匹目 ~(優しさの動機《後編》 C・>

~(`ϖ´)<タイトルで察した方もいらっしゃるとは思いますが


~(`ϖ´)<過去編はこれにておしまいです


~(`ϖ´)<次はまた妖怪の方に移りますのでしばらくこちらはストップとなります


~(`ϖ´)<ご了承ください

 《天暦※※※※※※年 五月》


「私に.........伝えたいこと?」


 粗方の状況は察せられたものの、未だによく分かっていない私に、子【レッサードッグ】は語り出す。

 少年は、空気を読んだのか他に用事があるのかは分からないが、この場から去っていた。

 子【レッサードッグ】が頑張って口を動かすその姿は、意思の疎通を望んでいたかのようで、私は胸に痛みを覚えた。

 私はそれをしてやれなかったから。


『そう。あの時に貴女が、くれたご飯。とっても、美味しかった、んだ』

「.........それだけ?」


 そこそこ長い間一緒にいたのに、伝えたいことはそれなのか。

 私は純粋にそう感じた。

 だって、わざわざ力のある少年に霊体(スピリット)化してもらったろうに、伝えたいことの最初がそれって.........


『うぅん、それだけじゃ、ないよ。あの時の、貴女の優しさが、生まれて、初めて。僕が触れた、優しさ、だったんだ』

「そんな、優しいなんて.........」


 子【レッサードッグ】のたどたどしい言葉に、私は顔を背ける。

 そうだ、私は優しくなどない。

 あの時の私に優しさが無かったとは言わないけれど、心の内の多くは自己満足であっただろう。

 怪我をした子どもを放っておいてはいけないと言う、完全で完璧な、疑う余地のない自分ルール。

 何よりも.........あの時見過ごしていては、私が憎むあの人たちと同じになると、そう感じたからだ。

 その汚れてしまった黒い毛並みを直視出来ずに苦い顔をしている私の顔を、両手で挟んで無理矢理目線を合わせて、子【レッサードッグ】は告げた。


『貴女は、優しいよ。ボクがそういうんだから、間違い、ないよ?』

「.........ありがとう。でも.........」

『貴女の優しさに助けられた、ボクが。そういうんだから、間違って、なんかいない』

「どうしてそこまで.........」

『だって、ボクのここが、とっても暖かかった。から』


 子【レッサードッグ】は、胸を私の顔にそっと擦り付けてきた。

 そしてその時の顔は、私よりもずっと若いはずの、その顔は.........確かに真理を保持しているように思えた。


『それは、貴女がどれだけ、否定、を重ねても、どれだけ。肯定を拒んでも。決して揺るがない、事実だからね』

「あ、あぁあ.........」

『だから、誰にもその存在。を否定、させたりはしないよ。貴女。にも』


 そして私の心はほつれて行く。

 今になってようやく分かった自分自身の思い。

 要するに.........認めがたかったのだ。

 私は、私を。

『やっぱり何も出来なかったのだ、私の力は人ひとりを救える領分にも届いていないのだ』と、そう自分に思い込ませていた。

 それによって、自分の責任から逃れようとしていることに目を逸らしながら。

 そうと分かった時、私は子【レッサードッグ】の手の中にある顔を俯かせる。


「ずるい.........ずるいよ.........」

『違う。よ! ボクは貴女の力に。なりたくて、でもどうしたら、いいか。分からなくて、だからボクに。出来ること、はなんだろう。って、それで.........』

「.........っ」


 私の様子を見て驚いた子【レッサードッグ】は、ワタワタと慌てたように身振り手振りを交えて説明をする。

 堪えきれずに流れ出した涙が子【レッサードッグ】の胸の美しい毛を濡らした。

 私はいつまでも罪悪感に満ちていた。

 あの時、私はあの子に手を伸ばせなかったから。

 そしてそのようなことを繰り返す度、私は自分を責めた。

 『私はダメだ』と、思っていた。

 でもそれは、どこまでも自分の中で完結していて。

 どこまで行っても.........ただの自己満足。

 それを突き付けられた私は、ある想いを抱いていた。

 子【レッサードッグ】の短い前足の中で、私は嗚咽を漏らしつつ語る。


「.........違う、違うの。ズルいのは、私」

『そんな、事』

「あるの。だって、あなたの一言で、私の心はこんなにも()()()()()()()()()


 行動を起こした方でなく、受けた方への感想。

 それは紛れもない私。

 自分の事を分かってくれる、理解してくれる、(生き物)が居る。

 たったそれだけの事で、私の中に渦巻いていた想いは『自己満足』ではなくなった。

 だから、ずるい。

 今まで自分を責めて、責めて、自分で自分を前へ進ませることなく閉じ込めていた。

 そこに誰かの手がさしのべられて、簡単に心を開いた己の弱さ、そして脆弱さ。

 そのことに対して私は怒っている。


 .........詰まるところ、私は私を認めたくないのだ。


 そんな私に。


『.........そんな、こ、と』

「あるんだよ」

『.........ないッ!』


 子【レッサードッグ】は吠えた。

 私の中の間違いを正すかの如く。

 私の顔を見据える。


『これが、ボクの、感じた、事』


 そして額を私の額に当てた。

 その瞬間、私の頭に何かの声が響き渡る。


【種族:レッサードッグ・スピリット】

【個体名:    】

【より、意思疎通の申し出が来た】

【問題ないのなら了承する】

【問題ないか? 答えは念じるだけで良い】


 私は一度それを聞いたことがある。

 父と母の最期。

 私に二人の持つ全てを、有らん限りを託す為の術式だったか。


【.........お願いします】

【了解した】


 私は了承する。

 恐怖はなかったし、何よりも目の前の子【レッサードッグ】の真剣な眼差しがあったから。

 それから幾ばくもなく、私の頭の中に何かが流れ込んできた。


『(.........ああ、ありがとう)』

「(.........)」


 私の脳内で流れ出す子【レッサードッグ】の声。

 別段驚くことも無く、聴き続ける。


『(.........あ、あの、貴女の名前は?)』

「(.........!)」


 同時に流れ出した映像は、私だった。

 あの時の夜、暗い路地裏の中に佇んでいた私は、踵を返して歩き出す。

 子【レッサードッグ】は、ボロボロの体で私の背を追う。

 私は気が付かず、そのまま家の扉を閉めた。

 子【レッサードッグ】は、扉を引っ掻くなりなんなりして迷惑をかけてはならないと思い、幸いにも雨避けが付いている玄関の前でうずくまった。

 そこから少し時が飛び、視界は明るくなった。


『(あ、開いた! うわ痛ァ!?)』

「ギャン!?」

「.........居たの」


 私が扉を子【レッサードッグ】にぶつけてしまったあの時だ。

 .........あの時の事は本当に申し訳ないと思ってる。


「あ、じゃない。ごめんね、蹴っちゃって」

『(う、うぅ.........あ、あの、お邪魔しても大丈夫ですか?)』

「クゥーン」

「.........ごめん分かんないや」

『(えーっと? ダメなのかなぁ.........)』

「クゥーン」

「私のせいかもだし、治療してあげよう。こっち来て」

『(なんのこと? あ、でもお邪魔していいのかな?)』

「クゥ?」


 そして二人(一人と一匹)は家の中に入っていく。

 .........ここまで私は、子【レッサードッグ】の記憶を共有させてもらった訳だが。

 正直に言わせてもらえば、この事の意味がよく分からな.........?


 私は違和感に気がついた。

 今私は子【レッサードッグ】の記憶を共有している状態。

 だからこそ、逆に私自身の心、精神の移り変わりがよく分かる。

 なので、感覚的にだけど、私の中に()()()()()()入ってきた事が理解出来た。

 それが何かを知ろうとして、私はあくまでも感覚的にだけれど、その暖かい何かを紐解こうとする。

 そして.........


「(ウゥッ!? ア、アァアッ!?)」


 強烈な鋭利さを持ったソレは、私の脳内にくい込んでいく。

 決して離れないように。

 抗いがたい程の激痛.........いや、痛みは、無い。

 痛みはなく、そこにあるのは例えるとしたら、()()()

 私を構成する様々な感情、思考、魂等の要素の合間を縫い、ソレは奥深くへ入り込んで行く。

 私に足りない何かを満たして行く。

 やがてソレの動きが止まったと感じられた頃.........私は私の中で何かが脈打つのを認識した。

 そして視界は戻り、目の前にあった戻らない日々は砂のように零れ落ちた。


『大丈夫? あの、苦しかった?』

「いや、それほど苦痛には思わなかったよ」

『そう? なら、良かった』


 心配そうに聞いてきた子【レッサードッグ】は、私の返事に胸を撫で下ろす。


「あの.........あなた、私に何をくれたの?」


 あの子が私に何かを渡したのは何となく分かっている。

 記憶、と言うよりも精神そのものに近いものの共有により、子【レッサードッグ】の中にあった何かが私に移ってきた事は把握している。

 私の問に、子【レッサードッグ】は応えた。


『貴女に渡したのは、()()()()()()。ボクの構成要素と貴女の心を適応させる為に、あなたにはボクの精神の一部を見てもらったんだ』


 そう言えば、先程から子【レッサードッグ】の喋りが流暢だ。

 恐らく私の精神と適応させたことによる効果なのだろうが。


「.........自尊、心?」

『そう。自分自身を大切に思う心。これで貴女はもう自分を責められなくなるよ』

「.........私なんか.ァ.ッゥ.......!?」


 私は今、確かに自分を責めようとした。

 子【レッサードッグ】にそこまでの心配をさせる自分に対して苛立ちが募ったか、ら?

 おかしい、今さっきまで、私の中には私に対する怒りが.........?


「.........消えてる」

『そう。そのはずだよ』


 どうやら本当に私は私を憎めなくなったらしい。

 認めたくはないが、自分で体験してしまったのだから、疑いようもない。

 私の心にこびりついていた自己弁護の塊は無くなった。

 今はそのことに関する鑑賞は特に無いけれど。

 見遣れば、満足気に、しかし何処か儚げに笑みを浮かべた子【レッサードッグ】がこちらを見ていた。


「どうして、そこまで?」

『貴女は、私の恩人だから。命の恩人には、命で応えないとね』

「.........ちょっと待って。命って、どういうこと?」


 聞きたくない言葉を聞いた気がして私は思わず問い詰める。

 子【レッサードッグ】は困ったようにはにかみながら、口を開いた。


『さっきボクがやったのは、霊体(スピリット)種族の固有闘法異能(アクティブスキル)の一つ、自分の一部を相手に埋め込んで呪いをかける技、《人縛霊(カースド)》だからね』

「.........! 待って! それって!」

『ああ、知ってたよね。さっき貴女の記憶の中にチラッと見えたもんね。.........そう。これ、一回使うと浄化されちゃうんだ』

「!」


 衝撃と言うより、知っていたことの組合せが恐ろしい事態を組み立てた。

 私は、この世界の、この世界にある異能(スキル)の無慈悲さを知っている。

 .........それが到底覆せるものでないことも。

 受け入れ難いことに直面し、私は膝から崩れ落ちた。

 ちょうど子【レッサードッグ】と私の目線が合う。


「そんな.........そんな!」

『大丈夫。大丈夫だよ。ボクは怖くないし。それに、ボクはあまり力がないから、いつかは消えちゃう運命だったんだよ』

「嫌だ.........嫌だァッ!」


 子【レッサードッグ】に私は縋り付く。

 しかしどうしたことか、先程は体温を感じられたのに、今度は触れることすら叶わず、私の手は宙を掻く。

 騒ぐ私を落ち着かせようとしたのか、子【レッサードッグ】は私の手に自分の手をかざした。


『あのね、貴女がボクにくれた時間は、決して無くなることは無いんだよ?』

「.........アァ.........」

『ボクは、一人だったんだ。普通の犬だった親に追放されて、行くあてもなく彷徨っては別の街に移動してを繰り返してた』

「.........」

『そんな時に、ボクは貴女に出会った。それからは.........それまでの日々が嘘のように、楽しくて、楽しくてしょうがない、掛け替えのない日々だったんだ』

「.........ウゥウッ.........」

『だから、大丈夫。貴女もボクも、もう一人じゃない。ボク達は繋がってるよ。いつでもボクは貴女の心の中に居るからね』


 それは分かっている。

 頭で理解するより先に、心に埋め込まれているのだから。

 溢れる涙を必死に堪え、腕で擦って私は前を向く。

 きっとその顔は酷い有様だろうけど.........それでも前を見よう。

 それが、私なりの送別だから。


「.........そ、う。貴方は、大丈夫なのね? 怖いことは無い? 今の私に出来る最大限の事なら、何でもするから.........」

『うーん、特に何も無い、かな? もう思い出は沢山あるし。.........ああ、でも.........出来れば、()()()()()()()()かな』

「.........名前、私が付けていいの?」

『うん。お願い。最期に貴女から名前が貰えれば、万々歳だよ』

「分かった。そうね.........」


 この子は、私にとって未来そのもの。

 私の行く末を照らしてくれた灯火。

 そして何よりも.........今回の出来事は、これからの私の全てに対する理由になるだろう。

 だから.........決めた。


「貴方の名前は、【モーティブ(動機)】。どうかしら?」

『モーティブ、モーティブ.........うん、気に入ったよ。何よりも.........未来に溢れていそうな名前だね。これから消えゆくボクにもある意味相応しいよ』


 モーティブが皮肉や遠回しな言い方をしているのでないことは、私の中のモーティブの心が告げている。

 先程と違い、一点の曇もない笑顔を浮かべたモーティブは、少しずつ、上へと昇ってゆく。


「じゃあね。ばいばい、モーティブ」

『うん。貴女の幸せを願っているよ。いつでも貴女は一人じゃない。その事を忘れないでね.........』


 そしてモーティブは、消えた。

 僅かな光の残滓を残すことも無く、この世界からは跡形もなく。

 私の中のモーティブの心も無くなり.........残っているのは、モーティブの《人縛霊(カースド)》による呪いだけ。

 でも、私にはそれで十分だった。

 私は一人じゃないから。


 モーティブがくれた自分を大切にする心(呪い)

 それは、私の心の中で暖かな光を持って燦然と輝いているように感じられた。



 ~( * * * C・>



 僕は山中で木に登り、枝の上で横になっていた。

 そんな僕の頭にアナウンスが響いた。


【種族:レッサードッグ・スピリット】

【個体名:モーティブ】

【が、■■■した】


 .........そうなりましたか。

 あれ程までに綺麗な、本当に綺麗な心を持った魔物は初めて見ました。

 叶う事ならば.........永久に■■■させたくはなかったものです。

 僕の《死霊術(ネクロマンシー)》は、<死霊術者(ネクロマンサー)>系統のジョブによって能力が引き上げられている上に、《伝説》です。

 その力を使えば、彼はほとんど完全に生き返ることも出来たと思います。

 実際に、僕は彼の魂にそうしようかと提案しました。

 なのに、彼はその選択をしなかったのです。


「ボクが生き返っては、あの人の為にならない」と。


 本当に、彼は彼女のどこまでを見透かしていたのでしょうか。

 つくづく素晴らしい魔物です。

 彼は残された時間を有意義に過ごせたでしょうか。

 彼女と積もる話もあったと思うので、僕は席を外しましたが。

 まあ、過ぎたことをとやかく言っても仕方ありませんね。

 ともかく。


「.........近場の《勇者軍(ブレイヴ・アーミー)》の支部に向かいますか」


 僕は僕の仕事をすることにしましょうか。

※追記


・《人縛霊》


対象一体に自身の持つ力の一部、もしくは全てを注ぎ込み、相手に何らかの呪いを与える異能。

今回は精神的な行動原理を一つ潰しただけなので、普通の【霊体】なら多少パワーダウンするに留まるのだが、モーティブは【霊体】に成り立てで、その上【霊体】化時に活動可能時間が短く設定されていたため、持っている全ての力を使う必要があった。

なお、強力な【霊体】となると、即死や四肢欠損の効果を持つ呪いをローリスクで仕掛けてくる模様。




・<死霊術者>


《死霊術》を扱えるものが就けるジョブ。

生物を【腐生物アンデッド】化する時に様々な特殊能力を付与したり、【腐生物】化した生物のステータスを上げることが出来る。




・《伝説》


闘法異能のランクの一つ。

数段階ある内、最高位に位置する。

《使ヒ手》とは出力、精度、速度等々様々な面で圧倒的に上回っている。


~(`ϖ´)<ご感想その他お待ちしておりますー

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