二十四匹目 ~(優しさの動機《チュウ編》 C・>
~( `ϖ´)<ぶっちゃけ序盤も序盤でこのシリアスは不味いんでないのと
~( `ϖ´)<作者も思い始めたとかいないとか
《天暦※※※※※※年 五月》
あの子【レッサードッグ】が帰ってこなくなってから、一ヶ月ほどが過ぎた。
街の人や交番に尋ね回ったが、今子【レッサードッグ】がどこにいるのかは分からなかった。
正直に言うと、お手上げだった。
.........今になって、父や母の言葉の意味を理解出来てきた気がする。
『生き物を飼うということは、楽しくて辛いことだ』とも親は言っていた。
楽しさは分かった。
あの子と一緒にいられた時間は、ここ数年の私の記憶に最も色濃く残っている。
辛さも分かってきた。
あの子がいなくなった途端、こんなにも大きな虚無感が生まれているのを感じる。
あぁ、私はきっと、あの子【レッサードッグ】に依存していたんだ。
親のない境遇、望まない、望まれない力、そして見放された事。
それら全ては、私にとってとてつもなく感慨深く、そして感傷的にさせる要素だった。
あぁ、きっと私はもう二度と生き物と共に生きたりはしないだろう。
そう、考えた時。
「ねぇねぇ、聞いた? あの子が何処にいるか分かったらしいよぉ!」
その声が、家の窓の外から聞こえてきた。
誰あろう、私の隣人、リュシーさんである。
そのニュースもまた、私の心を強く揺さぶった。
「ほ、本当ですか!? リュシーさん!? あの、あの子が見つかったって.........」
「いや、見つかったって言うよりも、目撃情報が入ったんだってさ。なんでも、隣町のギルドに『黒い毛の子犬が歩いているのを見た』って連絡が---」
私は、走り出していた。
再びあの子と会えるかもしれないという期待に胸をふくらませた。
その時空に浮かんでいた雲が少しばかり暗かったことは、今でも私の脳裏にこびり付いて離れようとしない。
~( * * * C・>
目撃情報があったという隣町の近くまで辿り着いたのは、それから十分後のことだった。
この辺りは首都から遠く、街と街の間隔がかなり広い。
普段なら歩いて一時間かかる所を六分の一に短縮できたのは、私の思いのなせる技だろうか。
少し恥ずかしいことを考えながらも足を動かしていると、やけにお粗末な作りの小屋が目に入る。
一見それは農家の家か何かに見えるだろうが、私はそれが何であるかをハッキリとわかった。
あれは、《勇者軍》の建物だ。
私は職業柄、奴らの行動の仕方や偽装工作の方法などを知っている。
この辺りに駐在所をわざわざ作ったのは、恐らく私の為だろう。
これには、絶対の自信がある。
私があの街に引っ越す前から、私と奴らとの対立は続いていた。
きっとこれは間違いない。
.........まあ、向こうが勝手に敵扱いするだけなんだけどね。
一般の農家の家に偽装した小屋を作り、獲物が通りかかるのを待つのは奴らの常套手段である。
確かにこの道は私がよく通った道ではある。
新しい仕事を始めるまでは、だが。
「.........とはいえ、今の私には一概に面倒とは言えないか」
奴らはきっと、見張りを立てるなり、生体検知魔法をかけるなりなんなりして、私が通るのを待っていたはずだ。
となれば当然、あの子【レッサードッグ】を目撃している。
善は急げという言葉も聞いたことがある。
早く突入しよう。
「ねえ! 私、ここの辺りにいるって言う黒い毛並みの子【レッサードッグ】を探してるんだけど!」
私の声を聞いた奴らは、ゆっくりと顔を上げてこちらに向ける。
やっぱり、何度見ても私は奴らの顔が嫌いだ。
あの覇気がなくて、それでいて執念のこもった瞳を見るだけで少しだけ吐き気がしてくる。
「.........おい、あいつ.........」
「ああ、そうだろうな.........」
「.........間違いないか?」
「.........最悪、聞き込みとでも言えばいいさ.........」
何やらひそひそと話し合っている。
私には聞かれては困る内容のようだ。
粗方推測はできてるから、あんまり意味は無いと思うけど。
すると、話し合っていた人の中の、リーダーらしき人物が立ち上がる。
もちろん腰には一振の剣が見える状態でだが。
「教えるのも吝かではない」
「ほ、本当!?」
「吝かではないが、その前にしてもらうことがある」
「? 私に出来る事なら.........だから、早く教えてよ!」
「宜しい。では.........」
そう言いながら、奴は私に近づく。
「.........ここで───」
そして瞬時に腰を落としながら剣の柄に手を伸ばす。
これは、親に聞いたことがある。
確か、《居合い》と言う、どこぞの国の《闘法異能》だったはずだ。
その特徴としては、恐ろしく剣速が速く、そして威力が通常の斬撃とは桁違いな事。
あれをまともに喰らえば、いかに私とて、痛いはずだ。
だが、アレには欠点もある。
それは、一撃目を躱せば、二撃目を恐れる心配があまり無いことだ。
私の記憶と親の証言が正しければ、アレは『剣が鞘に入っている』事が前提の《闘法異能》の筈。
一度振り抜いてしまえば、再び鞘に仕舞ったりしない限りは《居合い》を警戒する必要は無い。
もっとも、普通なら《居合い》を避けられる人は居ないから、これは机上の空論ではあった。
.........私の父がやってのけるまでは。
「───死んでいけ」
振り抜かれる剣の軌跡を私は先読みする。
普通ならそれで間に合うはずはないが、私なら間に合う。
私はかなり素早い自信がある。
とはいえ、真っ直ぐ後ろに下がっては、踏み込まれて切られるので、私は跳んだ。
剣を抜いている奴の頭に手を乗せて上へ一回転し、相手の背後に回り込む。
そして私は難なく剣の間合いから逃れられた。
そのあと間髪を入れずに、私は自分の魔力を練り上げて軽く一発を御見舞していた。
「ぐ、うぅ.........」
「がぁ.........」
「うごぉぉ.........」
まさしく死屍累々。
辺りには木材が焼け焦げた香りが充満する。
私が倒した《勇者軍》達はへばり、地の味を堪能している。
私はその内の一人の頭を髪を掴んで持ち上げた。
「ねぇ、私の探してる子【レッサードッグ】はどこに居るのか聞いてたんだけど? 時間が無いの、分かる?」
少しばかり声にドスをきかせて詰問すると、直ぐにそいつは答えた。
どうやら私に恐れをなしたらしい。
.........金輪際関わりあいにならなければいいんだけど。
《勇者軍》の一員は呻きながらも私の質問に答える。
「西、西だ.........みすぼらしいナリをした、子【レッサードッグ】が西に───」
「残念、一言多かった」
余計な事を口にした生き残りに対し、私は炎で包み込むことで応じた。
人間の肉が焼ける嫌な香りに顔をしかめながら、私は西の方角に顔を向けた。
命に関わる時に嘘をつける人間はそう多くはない。
まして、こんな辺境に派遣されるような下っ端の構成員なら、精神力も知れたもの。
恐らく西に子【レッサードッグ】は居る。
「.........待ってて」
私は全速力で駆け出した。
「ハァ、ハァ.........」
兎に角西を目指して私は進む。
どこにいるのか分からないのでなるべく四方を見回しながら、それでも全速力は維持しつつ、西へと進む。
と、その時、不意に黒い毛が見えた。
「.........!」
見えた黒い毛に向かって走り、そしてその姿を確認する。
そこに居たのは、確かに子【レッサードッグ】だった。
けれど、どうだろう。
何故だか、背中を冷たい汗が流れて止まらない。
「.........」
無言のままに私はあの子【レッサードッグ】を持ち上げ、そして胸に抱える。
そこにあたたかさは.........
無かった。
膝から崩れ落ちた。
目の前が見えなくなった。
頬が涙に濡れるのが分かる。
涙はやがて私の顔から子【レッサードッグ】の穏やかな顔へと伝わる。
「あ、あああぁ、あ、ぅ、ぁ.........」
何をすることもままならず、為す術もなくうずくまる。
私という生き物を構成するものがごっそり抜け落ち、無機物になったかのような感覚に襲われた。
ああ、私はまた、救えなかった。
またしても命をひとつ、失ってしまった。
きっと私は間違っていた。
そんなことをするべきではなかったのだ。
もう、止めよう。
誰とも関わりを持たず、誰にも何も求めずに、ひっそりと生きていくんだ。
「あんまりそれは良くないと思います」
.........そう、決めた時だった。
私ではない、どこか子どもらしく、未来に満ちた声。
私は反射的にその声の方に目を向け.........
「さあ、君からも言ってあげるといいと思います」
『うん、分かった』
少年と、子【レッサードッグ】の姿があった。
確かに声は二人分聞こえた。
周りには誰も居ない。
なぜかと考えて.........子【レッサードッグ】に足がないことを発見した。
ああ、なるほど。
きっと少年は《死霊術》系統を扱えるタイプの【魔人】なのだろう。
その力の一端を使い、子【レッサードッグ】を可視化してくれたのだ。
あれは器の中にあったモノ、恐らく魂であるから、私の精神に干渉して語りかけることが出来るのだろう。
.........案外冷静にできている自分に自分で驚いたが、子【レッサードッグ】を見られた安心感からだろうか。
そこで、ずっと口をもごもごとしていた子【レッサードッグ】は、意を決したように口を開く。
『.........あのね、大好きな貴女に、伝えたいことがあるんだ』
~( `ϖ´)<.........
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