一匹目 ~(真夏の朝 C・>
だいぶ不定期です。
どうぞよろしくお願いいたします。
《西暦※※※※年 八月 八日 AM9:45》
「............あと十五分か」
俺は右手で額の汗を拭い、左腕の腕時計を確認した。
後五分したら立ち上がろうと思ったが、わくわくしすぎてもう体が我慢出来なかったらしく、いつの間にか俺の腰と腰掛けは別れていた。
............で、どうしよ。
「なーんもやることねー! 暇だー!」
周囲の白い目を受けつつ、言い切ったらなんかすっきりした俺は、今度は左右を見回した。
ここは駅のホーム。
何でも新技術を搭載したリニアモーターカーの試乗兼お披露目会をやるらしい。
俺も来たくて来たんじゃないから、詳しくは知らねんだよなー。
何にせよ、入場の時にもらったパンフレットに書かれている開催時間までには、おおよそ十分ある。
「ま、いいや」
何かすることないかなと思って、ホーム内をブラついてみる。
俺は基本外出しない主義なので、こういう所は新鮮に見える。
キョロキョロと見回していたら、可愛い女の子にぶつかってしまった。
長い髪と俯きがちの顔が印象的である。
「あ、えと、その」
「あ、すいません、えっと、この座席に座るための入口って、どこですか?」
「え?」
女の子は俯きながら、俺に質問してきた。
どうも、俺をスタッフか何かだと勘違いしているらしい。
このくそ暑いなか、真っ黒な服を着ているから、無理もない。
「すみません、どの席ですか?」
「あ、ここです」
と言って、女の子は座席番号の書かれた紙とパンフレットを取り出したので、俺はそれをのぞき込む。
あ、俺の席の斜めに三つ後ろの席だ。
「えっとですね、この席だったら、あの売店の近くにある扉がその席に座るための入口ですね」
「~~~!」
「えーっと、あの?」
説明したら、俯きがちの顔がだんだんと朱色に染まって行く。
「あ、な、なんかす、すみません!」
「あ、いえ、えっと、その、こちらもすみませんでした!」
「あ、ちょっと!」
謝ったら、相手は謝りつつ脱兎のごとく逃げ出してしまった。
なんか悪いことしたかな、俺?
さっきのぞき込む時に、顔に吐息が掛かるくらい近くに寄ったけど、それくらいだし.........
まあ、人には分からないこともあるさ。
今のやり取り、カオスだったなー。
と、他人事のように考えたところで、ふと気付く。
周りの目がさっきよりも厳しい事に。
いきなり立ち上がって叫んだ奴が、今度は女の子にぶつかって逃げ出させたのだ。
.........うん、変人どころか、キチガイと言われても反論出来ないね!
「全く......貴様は何をしているのだ」
「あ、はいすみません! 隅っこに行きますので! どうか、どうか通報だけはご勘弁、を......げ」
嫌な奴に会ってしまった。
俺に会うなり毒を浴びせて来たのは内海光平。
俺のクラスの学級委員を務める、超有名な政治家の、息子だ。
こいつと俺はいつも仲が悪く、顔を合わせる度に、険悪な雰囲気になってしまう。
.........っていうか、
「なんでお前がいるんだ!」
「それはこちらの台詞だ。貴様は普段家に引きこもっているのではないのか?」
「ちげぇよ! 俺は引きこもりじゃない! 俺ごときが引きこもりを名乗ったら、プロの引きこもりストに失礼だろうが!」
「なんなのだ、その引きこもりストと言うのは.........」
ほらな、こんな具合に。
「まあいい、寛大な私は貴様の質問に答えてやろう。.........私は政治家、内海光治郎の息子だ」
「だから、なんだってんだよ?」
「理由は、それだけで充分だろう?」
「はあ? ちょっと待て! 全然理解出来んわ!」
「申し訳ありません、須藤凱渡様、坊っちゃまは忙しく、貴方に構っていられる時間はもうございません」
黒服の人が俺───須藤凱人───を取り押さえにかかる。
なんなんだ! 話しかけて来たのは向こうだろ!
話を発展させたのは俺だが!
そうこうしているうちに、光平はスタスタと歩き去って行った。
『ご来場の皆さまに連絡致します。間もなく扉が開きますので、ご自分の座席番号とパンフレットを───』
っと、時間か。
じゃあ、俺もドアの前へ行きますかね。
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