第1話 鬼との出逢い
「鬼様……こ、こちらが今回の献上品の『桃』にございます」
『ハハーッ』っと、後期高齢者真っ盛りで人間代表のおばあさんは目の前にいる赤鬼に対し、頭を床と一体化せなんばかりの勢いで何度も擦りつけて平伏をしていました。
「がっはははぁ~。これはこれはほんとうに大きい桃よのぉ~。お主ら人間達もようやく身の程という言葉の意味を知ったのか! があ~っははは~っ。これは愉快愉快。愉快すぎるぞ人間よ!」
おばあさんの2倍の身長はあるかという赤鬼は、献上品である桃の大きさと今まで反抗を続けてきた人間が目の前で頭を下げる光景に満足そうにあざ笑っていました。
人間と鬼とは度重なる争いをしてきましたが、鬼と争っても利益がないと悟った人間達は献上品を鬼に収めることで平和条約を結び、一時の平和を得ていたのでした。
鬼達もまた何もせずに献上品を得られると、人間との争いを止めたのです。ある意味で鬼は親に寄生する子供のように『ネオニート』と化してしまったのです。
「(こんのぉ~クソ鬼がぁ~調子に乗りおってからに……。いつの日かきびだんごに毒でも仕込んで寝首を掻いてやるわ! 鬼めっ。今から覚悟しておくがよいわっ……くくくっ)」
平伏するおばあさんは、目の前の鬼にも劣らない悪い顔をしていました。
そんなおばあさんの心の中を透かすように鬼が口を開きました。
「うん? そこの人間っ! お主……今よからぬ事を企んでおるであろう?」
「いえいえ、滅相もございせぬ! 企みなどとは……ご、ご冗談を。おほほほほっ」
おばあさんは必死に誤魔化そうとしますが、更に鬼はこう答えました。
「ほんとうか? お主、前回も『これがきびだんごです』とか言いながら、俺にきりたんぽを食べさせたであろうに! あの時は何気に美味かったから問いたださなかったが、よもやその違いに気づかないとでも思っておったのか!? 愚か者めっ!」
おばあさんには既に前科があったのです。さすがにこれでは誤魔化しようがありませんよね(笑)
「鬼様、それは誤解にございます。きりたんぽと言うのは、実はきびだんごの親戚にございまして……」
おばあさんはこの場を切り抜けるため、適当な言葉を並べ立て誤魔化し始めたのですが、
「これ、平然と真顔で嘘を言うでない。お主、俺が鬼だからと馬鹿にしておるであろう! 俺の部下には秋田出身の『なまはげ』と言うモノがおるのだぞ。そのような嘘が通用すると思うたかっ!!」
ですが鬼にはおばあさんの嘘はまったく通用しませんでした。
「まぁよいわ。……だがな、その代わり次の献上品はその分上乗せするから覚悟するがよいわ!!」
「そ、そんなあんまりではございまぬか!! いくら鬼様でもそれはあまりにも……(ちらっちらっ)」
おばあさんは何とか取り直そうと、上服をずらし肌着を見せ色仕掛けをしますが、
「何をしておる? 熱いのか?」
っと、天然な鬼にはまったく通用しませんでした。
「(ちっ。もっと直接的にせねばならぬのか……)」
おばあさんは覚悟を決め、履いている袴をめくろうとしますが、
「もしやお主……その年で色仕掛けでもしておるのではないであろうな?」
っと即座に見破られてしまいました。
「もうよい、下がれ下がれ! 何をしても献上品は下げぬからな! さっさと家に帰るがいい。お主の顔を見ていると吐き気がしてくるわ!! これそこのオマエ、この者を外に連れ出すがよい」
まるで野良犬を追い払うように鬼は、おばあさんをさっさと帰そうと傍で控えていた部下に指示をします。
「はっ! 了解しました赤鬼様っ!! ほら、ばあさんや。一緒にウチに帰るぞい!」
「鬼様! 鬼様ぁ~っ!! どうかお待ちをぉ~~~っ!!」
っと、断末魔のように叫び声をあげながらおばあさんは鬼の部下でおばあさんの伴侶でもあるおじいさんに外へと連れ出されてしまいました。
きっとこの後、おばあさんはおじいさんに山でしばかれるのでしょうね(笑)
おばあさんが連れ出され、静かになった部屋で鬼は独り言は呟きました。
「はぁ~。何なのだ、あの老婆は? あのような年で盛りおって……正直どの武器よりも恐ろしいわ」
まるでリストラを宣告されてしまったサラリーマンのように鬼はおばあさんとのやり取りで疲れ果て頭を抱えしまい、その場で悩んでしまいます。そこでふと、おばあさんが献上品にと持ってきた大きな桃が目に入りました。
「おおっ!! これがあるのをすっかり忘れておったわ! どれどれ口直しにでもこの大きな桃を食べるとするかのぉっ!!」
鬼は桃を食べるため、この間『金太郎』とか言う露出狂マニアを倒した時にもらった鉞を手にすると、桃の中心の裂け目に向かって振り下ろしました。
『ブンッ!!』空気を切り裂く音がすると同時に桃は真ん中からパックリと、いとも容易く2つに割れてしまいました。それはまるで最初から切れ目が入っているかのようでした。
「どぉ~れ、桃を食べるとするかな」
鬼はもう用済みとなった鉞をゴミ箱に投げ捨てると、桃を食べようと手にしました。
……すると、桃の中には赤子が全裸で入っていたのです。もうその全裸ぶりと言ったら、金太郎なんぞ足元にも及びません(あっち露出狂ながらも一応は服着てますしね)
「な、なんだこれは? なんで桃の中に人間の、それも『赤子』が入っておるのだ? それにしても…………全裸で寒くはないのか?」
鬼は『桃の中に何故人間の赤子が? もしや桃の種が擬人化したのか?』っと極度に混乱しつつも、赤子が服を着ずに風邪を引かぬかと常識的に心配しました。
「ふむ。何故桃の中に赤子が入っていたかは知らぬが、ここで逢ったのも何かの縁であろうな。それにこのまま捨て置くわけにもいかぬし、俺が育てるしかないだろう……」
常々人間達の間で問題となっている『育児放棄』に疑問を持っていた鬼は、自分の子供ではない人間の赤子を自らの手元に置き、育てることにしました。
「そうだ。この子に名前を付けねばならぬな。さてさて、何がいいのやら……」
鬼は赤子を呼ぶためにもまずは名前を付けることしました。ですが、自分は『鬼』なのです。しかも生まれてすぐに親の鬼に捨てられて、そもそも自分の名前すら名前ありませんでした。
他の鬼からは『赤《Aka》』と色で呼ばれ、人間達からは『赤鬼』またはただの『鬼』と呼ばれ差別を受けていたのです。
そうして鬼は考えあぐねた末に、その赤子にこんな名前を付けることにしました。
「うむ。人間の赤子なのだから……その容姿に見合った名前を思いついたぞ!!」
そして鬼はこう名前を口にしました。
『全裸太郎』とっ!!
赤子が全裸待機のまま、第2話へとつづく
※ちなみに桃・チェリー・ウメ・杏などの種にはシアン(青酸)が含まれているので、食べるのはNGですよ^^
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