最強魔王
こうして約束通り俺は砦を跡形もなく消し飛ばした。
「それで、どうしようか」
皆のいる場所に戻り、そこで待っていたのは、コイツ、何をやっているんだ、というような視線だった。
お、おれは悪くない、そう心の中で思いながら待っているとそこで、
『これは凄いね。まさかこんなものまで。……私一人でも、耐えきれるかどうか……いいだろう、美味しい料理に、見世物。十分楽しませてもらった、一対一で戦ってやるよ』
と、グラファスは言う。
さて、一対一で戦うとはいえ、
「俺、戦闘経験がほとんどないんだよな」
「じゃあ私と代わる?」
「いや、俺が言い出したことだから俺がする」
そう答えた俺は、料理が食べ終わったらしいグラフィス達に向う。
ちなみに桜たちはこっそりこっちに来て土人形を倒して、一対多数での攻撃にならないようにするらしい。
助かるなと思いながら、俺はグラファスの数十メートル離れて彼女の前に立つと、彼女は目を瞬かせた。
「なんだ、可愛い子供じゃないか」
「はい、子供なので手加減をお願いします」
「あれだけの事をやっておいてよくそんな低姿勢でいられるわね。でも……やはり危険な相手で、けれど結界から引きずり出させて良かったわ」
「……どういう意味だ?」
そこでグラファスが笑う。
「防御の堅い城の中に攻め入るよりも、その主である魔王を外に連れ出したい。そしてその魔王を倒すことが私達の今回の目的。そして調べた範囲ではかなり強い力はあるらしいと分かっていた」
「それは初めから一対一と言いながらこの外に俺を連れ出すのが目的だったと?」
「そう。そしてあの勇者イズキが中で暴れれば外に出てくるかと思ったけれど、簡単にいなされてしまったようね。やはり貴方は危険だわ」
「……」
グラファスがどう猛に笑うもそこで、
「でもそうね、今すぐ私に許しを請うて、私のペットになるというなら生かしておいてあげてもいいわ。貴方みたいな可愛い子、好みだしね」
「……そのようなご趣味が」
実は若い少年を周りに侍らすのがこの、胸の大きいグラファスさんの趣味であるらしい。
俺の貞操が危ない!
ここは……。
などと俺が考えているとそこでグラファスは、
「そういった趣味はないわね。でも……強くて可愛い、若い雄には興味があるわ。私好みに育ててあげてもいいわ」
「美人なお姉さんに可愛がられてしまうのか……」
「そうそう、どうかしら」
「……ちょっとそちらの趣味はないので、遠慮します」
俺はそう答えた。
だってどうせなら自力で女の子は手に入れて、ハーレム! をしたいのだから。
するとグラファスは斧大きく天に突き出すように構えて、
「では、死んで……そうね、生きていたら私のペットにしてあげるわ!」
そう告げて斧を俺に向かって降り下ろそうとする。
太陽にかざしたその斧はうっすらと金色の光を纏い、その大きさとこれから起こる惨劇の予感に俺は、体を震わせながら無我夢中で宝物庫にあった杖をふるった。
杖から青い光が出た。
「きゃああああああ」
グラファスが悲鳴を上げて倒れた。
倒れた際に斧が俺の真横に落ちてきて怖かったが、それはいいとして……しばらく様子を見ていると、動く気配がない。
死んだふりか? と思っていると、
「お前が魔王か! 魔王は死ね!」
突然、何処からともなく女の子の剣士のような少女が走って現れて、俺に切りかかってきた。
とりあえず俺は杖をかざした。
「きゃああああ」
その少女も悲鳴を上げて、倒れた。
それだけだった。
しばらく様子を見るも動く気配がない。
離れた場所では、フィリ達がグラファスの土人形と戦っている。
この状況はどう見ればいいのだろう、そう俺は思いながら真剣に考えて、気づいた。
「俺、そういえば最強魔王設定が……まさか、その力が杖を通して増幅されて、瞬殺した? というか二人とも生きているのか?」
グラファスと、誰だか分からない少女の様子を慌ててみるも、息はあるらしい。
よかったと思っているとそこで土人形を倒したらしいフィリが俺の方にやってくる。
「ヒロ、大丈夫ですか! ……そこにいる女は!」
「フィリ、知っているのか?」
「勇者インガです。どうしてここに!」
「いや、襲ってきたから杖を振ったら倒れた」
「……」
俺の言葉に、フィリが沈黙したのだった。