目撃
ヒロがいなくなった後、フィリは深々とため息をついた。
「全くヒロは、すぐに何か変な事をしようとする」
「ははっ、昔からヒロはそうだよ。でも優しいしやる時はやる子だからね」
「知っています。でももう少し魔王っぽくてもいいかも」
「あら、魔王っぽくなくていいわ。そのうち私が逆ハーレム要員としてもらうし」
「本気ですか?」
「本気よ」
「……ヒロは渡しません」
「さーて、どうしようかな」
楽しそうに笑う桜にフィリは、絶対に渡しませんともう一度告げる。と、
「料理が出来ました。あら、フィリさん、どうしたのですか?」
「桜がヒロを奪おうとしているのです」
「あら、では私も参戦しないと」
「……」
「それでは、転送をお願いしますね」
にこにこと笑いながら答えたシエラに、フィリの眉間にしわが寄る。
そんな三人の恋愛模様?を離れた場所で見ていたレイナとミストレア姫は、
「これがいわゆるハーレムですか? レイナはどう思います?」
「ハーレムかな? 違うような気もする」
「ヒロはもてますね」
「いい人でしたから。いえ、いい魔王?」
「面白い人物です。もう少し近くで見ていたいですね。今後も桜に連れてきてもらいましょう」
といいながら二人してほのぼのとお茶を飲んでいるとそこで、部屋がぐらぐらと揺れた。
フィリは周りを見渡しながら、
「な、何事ですか!?」
『結界一部解除。魔王城キャノンが5秒後に発射されます。衝撃に備えてください。5、4……』
「な、何を今度はあのヒロはやったのですか!」
フィリは青ざめた顔でそう叫ぶも、更に、外の映像が映し出された光の板の様子を見て……絶句したのだった。
フィリ達がヒロについてわいわい話している頃。
ヒロは一人、魔王城の制御室に向かっていた。
「どうやらここ、操縦室でもあるらしいんだよな。その内ロボに変形ささせてみよう」
と小さく呟きながら制御室に入り、“魔王城変形”のボタンを押す。
するとそのすぐそばに幾つものボタンがあって、
「魔王城キャノン、でいいのか? えっと目標は、領地内? にある砦っと。後は自動か……え?」
そこで目の前の画面に砦の方角が映し出される。
小さく灰色の塔の部分が見えるが、これが砦なのだろう。
だが変化が起こったのはその時だった。
小さくきしむ音がして、微振動を感じる。と、
『結界一部解除。魔王城キャノンが5秒後に発射されます。衝撃に備えてください。5、4……』
「え、まて、こんな簡単に発射されていいのか!?」
俺が呟いている間にカウントダウンは進んでいき、風を切るような音が一瞬した。
同時に目の前の画面いっぱいに眩い白い光が走って、あまりの白さに目を閉じる。
とんっ、と乾いた音が小さく聞こえた気がして、瞼の後ろから光を感じなくなる。
もう大丈夫だろうと思って恐る恐る俺は目を開く。
「え?」
つい間の抜けた声を上げるのには理由がある。
目の前の光景が俺には信じられなかったのだ。
映し出されたその光景を俺は凝視して、そしてそれは見間違いでないことを確認する。
「……こんな風になるのか」
こうして俺は砦が崩壊したどころか、跡形もなく消滅したのを目撃したのだった。