計画通りだった
花畑に誘導した俺達は、予想通り隊列が崩れて長くなっている。
そして後ろの方が崩れている。
更にしばらく見ていると、一番後ろの耳の長く、かといってエルフともいえないような勇者イズキを運んでいる兵が、更に引き離される。
彼一人で、イズキを運んでいるようだ。
やがてそこそこ離れた所で俺は、
「シエラ、とりあえず好物そうな……料理よりも木の実とかの方が疑われにくいか。どんな果実がいい?」
「そうですね“フラワの実”という果汁たっぷりで薄皮に覆われた果実も好評でしたね」
「じゃあ俺を冷蔵庫から、とってきてもらえるか?」
「分かりました」
というわけでとってきてもらった果実は、桃のような見た目である。
それを二つほど手に取った俺は、まず一つ、この兵の視界の端をかすめるように果実を転送し、落とす。
兵はピクリと反応をしてそちらを見た。
すぐに果実に気付いたらしく、周りをきょろきょろとみる。
それから勇者イズキを地面に置き、その果実に向かって兵が歩いていく。
だが、これは俺達の計画通りだった。
「桜、頼んだ」
「分かったわ!」
桜がこの場から消えたかと思うと、画面上の勇者イズキの傍に現れて、それに気づいた兵が慌てて戻ろうとするもその頃には勇者イズキは桜に回収されて、
「連れてきたわよ~」
「おう、桜、お手柄……でもこの顔、俺達の世界の伊月に似ていないか?」
「あ、本当ね。もしかして本人だったりするのかしら」
などと桜と話していると、
『よくもだましてくれたな!』
「いえ、料理を提供するのは本当です」
『信用できるか! ……といいたいところだが、その勇者イズキを連れて行ったお前達は、こちらにも都合がいい。本当はどうやってそちらに放り込もうと思っていたくらいだからな。こんな結界を突然張られるとは思わなかったしな』
「どういう意味だ?」
聞き返すも、グラフィスは笑うだけで答えない。
そこで勇者イズキの体が小さく震える。
そして顔をゆっくりと上に向ける。
その瞳には妙に赤い輝きがある。
と、それを見たフィリが、
「あれは幻惑の魔法で操られていますね。この勇者イズキを回収することで、彼自身に我々を攻撃させて弱らせようという作戦だったのでしょう」
「幻惑の魔法は魅了の魔法のような物か?」
「そうですが……それがどうかしましたか?」
「いや、何、全員にそういった魅了などにかからないようにする道具を渡しておいたからな。ちなみに効果範囲はどれ位なんだろうな」
俺がそう呟くと同時に、勇者イズキが倒れたまま手を伸ばし、俺から五十センチくらい離れた場所まで伸ばすと、突然がくんと体がそのまま床に倒れた。
おそらくは、その幻惑の魔法が解除されたのだろう。
そこでフィリが、
「普通そういった魔道具は本人しか聞かない物なのですが、何で周囲の人間の魔法もキャンセル出来るのですか?」
「え? そうなのか? 魔王城の宝物庫の武器は凄いんだな」
「そうですね。……そもそもヒロが私の常識の外にいる人物なのですから、こうなるのは当然だったのかもしれません」
とフィリが、どこか絶望したように呟く。
とはいえ、いつまでもそういった幻惑の魔法を解除したからといって床に転がしておくのもなんだし、とりあえず治療をしておかないとと思う。
まずはあおむけにして、息をしているか確認。
生きてはいるようだ。
次に、治療の棒の一つを取り出し、イズキの体の上に乗せておく。
かすり傷のようなものがすっと消えたものの、イズキはまだ目を覚まさないようだ。
「とりあえずは様子見として……グラフィス達は花畑に着いたみたいだな」
そこで彼女達がそこに辿り着いたのに気づいたのだった。