マゲファイヤー
“四天王が一人、地獄のグラフィス”さんの好物を作るといったシエラ。
だがそれを聞いて俺は、
「どうして好物を知っているんだ?」
「以前、“常闇の魔王”にさらわれて料理を作らされましたから。それでその味があまりに気に入ったのもあって、“嫁”に、と」
「そうですか……待てよ、それって交渉材料にならないか?」
ふと俺は呟く。
その美味しいものがとても気に入っていたのなら、彼らにそれを貢ぐか、もしくは油断を利用するか出来るのではと思うのだ。
だからそれはどうだろうという話をするとフィリが、
「確かに目の前にシエラの美味しい料理が出されれば、そちらに釘付けになりそうですね。その部下たちの好みそうな料理が分かりますか?」
「分かりますよ。もうすぐできます」
そう言ってシエラが、音のなったオーブンから取り出したのは、沢山の銀色のカップに入ったプリンのようだった。
表面に焦げ目がついて、見るからにおいしそうだ。
つい俺はごくりと唾を飲み込むとシエラが、
「……折角ですので、皆様も今、このプリンを味見しますか? 敵の人数が分かりましたら、その三倍程度の量を作っておけば足りるでしょうから」
「……二十人くらいか」
俺は表示を見て大まかに計算すると、どうやらそれくらいらしい。
そう告げるとシエラは、
「では、60個ほど作っておきましょう。ここには新鮮で品質の良い卵もミルクも沢山ありますし、香り付け用のお酒まで欲しいものは、その冷蔵庫に一度閉めて開くとはいっていますし」
シエラが嬉しそうに言う。
実はそんな万能冷蔵庫であったらしい。
そろそろ何が起こっても俺は驚かない段階に来ているのかもしれない。
だが美味しいものが手に入るならそれでいいかと思いプリンを食べる。
ほろ苦く洋酒の香りのするカラメルが、柔らかく温かいプリンと合わさって堪らない美味しさだった。
そこでふと俺はある事に気付く。
「シエラ、シエラはその“常闇の魔王”にも料理を作って褒められたのか?」
「はい、それもあって嫁にといわれたようですが……私にも好みがありますから」
「そうなのか。うん、好みの相手とくっつくのがいいよな」
「ええ。そういった相手には積極的にアピールします」
「そうなのか、上手くいくといいな」
「はい」
と、俺は極ごく普通の会話をしたはずなのだが、何故か、桜とフィリにじっと俺は見つめられている。
な、何か変な事を言ったかと俺が思っていると桜が、
「そろそろ私も料理の腕を披露する時が来たようね」
「私は、ヒロの前に料理が来たら絶えず奪う事にしましょう」
フィリの方も変な事を言っている。
どうしてそうなったんだと思いながら先ほどの会話を俺は必死になって思い出し、そこで気づいた。
「つまりシエラは“常闇の魔王”すら倒せる、最強の料理人だったんじゃないのか?」
「確かにシエラが好物を作れるのであれば切り札になるかもしれません。食は重要な部分ですから。……これも戦力の一つとして考えましょう」
フィリがそう小さく呟き考え込むのを見ながら俺は、次にシエラに、
「それでさっきいなかったから治療用の道具」
「あ、ありがとうございます」
「それと武器や防具はどうする?」
「そうですね……折角なので、面白い武器がいいです」
シエラがそう微笑むので俺は、武器を探し始めた。
変な武器、変な武器……これとかどうだろうか。
「頭にかぶるかつらに付いた武器で、通称“マゲファイヤー”。この、ちょんまげの部分から炎が噴き出し敵を殲滅するらしい。もちろん、かぶっている本人は大丈夫であるらしい」
「わ~、素敵。個性的で」
「そ、そうですか」
俺は若干引き気味に答える。
どうやらシエラは特殊な感性の持ち主のようだ。
そう俺が思っているとフィリがシエラに近づき、
「止めましょう。貴方も女の子なのですから」
「? 結構かわいい様な」
「止めましょう」
フィリに肩を掴まれてそう語られて、シエラはしぶしぶそれを諦めた。
そこで魔王城に警報音が鳴り響いたのだった。