奪い返せばいいだけ
こうしてフィリのお姉様であるイザベラが、男に寝取られているという事案? が発生していたわけだが。
フィリが衝撃の事実にぐったりとイスにもたれかかっている。
そこはかとなく憔悴しているというか、顔色も蒼白である。
ただ今の話を聞いていると、
「でも、生きていたんだから良かったじゃないか。後でレイナを送りがてら、挨拶しにでも行くか」
「……そうですね、死んでしまったと思っていたお姉様が生きていたのはとても喜ばしいです。また、お会いできるのですから」
そこでフィリがふっと優しげな笑顔を浮かべ、嬉しそうに笑う。
本当にそのお姉様が大好きなんだなと俺がほのぼのしていると、そこでフィリの顔に影が差した。
「後は、その勇者イズキというどこぞの馬の骨とも分からないような勇者から、私のお姉様を奪い返せばいいだけ……くくく、ふくっくくくく」
今まで見たことも無いような暗黒の笑いを浮かべたフィリが、そのような事を呟きながら笑う。
すぐそばにいる姫騎士レイナが顔を青くしているが、早く食べないとフィリに奪われると思っているのかパンケーキを食べる手は止めていないようだった。
こうしてイザベラに会いにレイナの城に行く事が決まった。
「レイナを送り届ける代わりにイザベラに会わせてもらう、という事でいいかな?」
「は、はい。城まで送ってもらえるならそれはそれで……」
「というか今後は時々遊びに行ったりできるといいんだが。フィリはそのお姉様をしたっているようだし」
だから時々でもいいから会わせられないかと思ったのでレイナに聞いてみたが、それにレイナは目を瞬かせてから、
「仲間思いなのですね」
「え? あー、確かにそう聞こえるか」
「……実はそれを理由に何かとんでもないことを企んでいるのでは……」
レイナが再び顔を蒼白にして俺を見ているが、そこで俺に先ほどまでパンケーキを食べさせてくれていたシエラが(パンケーキは全て食べてしまった)、
「ヒロ様はそういう方なのですよ。当たり前のように“優しい”のです。私も魔王にかけられた呪いを解いてくださいましたし、今もこうやって魔王城に住まわしていただいていますし」
「……それは本当に魔王なのですか?」
「そのようです」
「……“常闇の魔王”の部下と接触した関係で、魔王が恐ろしい物としか思えないのですが」
「イザベラという元魔王がいるのでは?」
「あ、確かにいました。なるほど、彼女を基準にすれば、ヒロという方のような魔王がいても不思議ではありませんね。というか、どことなくそのイザベラとヒロさんは似ているような気がしますね。だからそちらのフィリさんも、この城にい着いているのでしょうか」
と、ほのぼのした口調でレイナが言うもそこでフィリが、
「ヒロは私が召喚した魔王です」
「なるほど、だからイザベラによく似た性格のヒロを呼び出したと」
「……こんなエロ魔王が、お姉様と同じわけないではありませんか」
「え、エロ?」
「まあ、性格はちょっと、というか優しい所は似ていますがね。それで、お姉様の事で聞きそびれていましたがその“常闇の魔王”の四天王が、この近くにいるのですか?」
フィリがレイナにそう問いかけたのだった。