あーん
美味しいシエラのパンケーキをみんなで楽しんでいる最中、誰かがやって来た。
『侵入者です、侵入者です』
「……できれば野太い男性の声ではなく、女の子の声が良かったな」
ぽつりと俺は呟いてから、その侵入者の姿を確認しようとした所で、調理場の扉が開いた。
「ここにヒロの気配がするわ! さあ、再戦しましょう! 私の逆ハー要員にしてあげるわ!」
「だから逆ハーレムから離れてくれ!」
朝から突如現れた桜に俺は即座に言い返した。
まったく、ハーレムならまだしも、どうして俺が逆ハーレム要員にされなければいけないというのだ!
やはり異世界に来たからには、女の子にモテたい。
などと俺が思っているとそこで、桜の後ろからこの前の男装少女が顔を出す。
今日は普通の恰好、というか白いフリルのワンピースがまぶしい。
こうやってみると可愛い美少女だったんだなと俺は気づく。
それを服装の違いがあるとはいえ、少年と間違えてしまったのは俺としては何たる不覚と思わざる負えない。
などと考えているとそこで姫騎士さんなレイナが、
「ミストレア姫、お久しぶりです」
「あれ、レイナ姫、どうしてここに?」
「いえ、森の中で先ほど行き倒れをしていた所を拾って頂きました」
「……行き倒れ。今度は何をされたのですか」
「! そ、それをよく城を抜け出すミストレア姫が言うセリフですか!」
「! わ、私は街の人々の生活を直に見て王族としての務めを……」
「私もいるかいないか分からない姫の肩書だけでは生きていけないから、こうやって戦闘をしているのです」
そう言い返すレイナ。
そして桜の連れている姫の名前が、ミストレアという名前だと俺はここでようやく知ったわけだが……そんな険悪な雰囲気の中、パンとシエラが手を叩いて、
「お二方も、パンケーキはいかがですか? 皆様には好評ですが」
というと、桜とミストレアが俺のパンケーキをじっと見つめた。
こ、これは俺のだ、あげないからなと内心焦っていると、二人は顔を見合わせてから頷き、
「では頂きましょう」
「甘いものは別腹だし、これからヒロと運動すれば大丈夫ね」
ミストレアと桜がそう言って、椅子に座ったのだった。
「はい、ヒロ様、あーん」
「あーん……」
そこで俺は、微笑むシエラにパンケーキを食べさせてもらっていた。
だが他の女の子の視線がチクチクと刺さる。
だがこんなかわいい子に食べさせてもらえるなんて状況、とても魅力的なので俺はその視線をなかったことにした。
ちなみにどうしてどうしてこのような状況になったのかというと、たまたまシエラが俺の隣に座って、俺がパンケーキが少し足りな気がするなと呟いたら、
「では私のものを差し上げますね」
「え、いいのか?」
「はい。ただその代わり……」
という経緯により、食べさせてもらっていた。
だ、だってパンケーキが美味しかったし。
だからもう少し食べたかったんだよ!
そうしたら女の子に食べさせてもらうイベントが発生してしまった、ただそれだけなんだ!
「はい、ヒロ様、あーん」
「あーん」
こうして再びシエラに食べさせてもらった俺だがそこで、
「このヒロの事は放っておきましょう。それで、お姉様について教えてもらえますか?」
フィリがレイナにそう問いかけたのだった。