つまり姫騎士
元魔王イザベラというのが、フィリの大好きなお姉様の名前であるようだ。
しかもレイナの城にいるらしい。
ただ俺はそれを聞いて、
「死んだのでは? 俺はてっきりそういう話かと思って……」
「あー、死に瀕した状況で、勇者イズキが今は“保護”してうちの城に居ますよ。魔王イザベラは、侵略といったものはせず、主に自衛のために戦っていた方ですからね。それもあって別の勇者がとどめを刺そうと襲っていた所を、何とか“騙して”連れ帰って来たと言っていたような……」
「その勇者イズキとレイナは知り合いなのか? さっきも城にいると言っていたし……」
「そうですよ、こう見えても私は姫ですから。と言っても25番目なので、母の実家が持っている使っていない別荘の小さな城で、騎士たちを集めて魔物討伐をしたりして生活をしている感じですよ~」
「つまり、姫騎士だと」
俺はつい呟いてしまった。
何故ならたまたま行き倒れていたレイナが姫騎士という、ラノベなどではあの『くっ殺せ』というような展開なあの人物である。
そして俺は現在魔王であるわけで、しかもレイナは美人だ。
サラサラの金髪に碧眼、そして服を中に一部着ているとはいえ、ビキニアーマー。
これは……これは、俺にどうしろというのか!
などと考えているとそこでレイナが眉を寄せて、
「確かに姫騎士という事になりますね。でもそれを言うたびに時々勇者イズキが、『クッコロ』と呟くのですが、あれは何でしょうね?」
「ごふっ」
俺はむせた。
そしてそれは、このレイナには絶対に知られてはならない俺達の世界の言葉だった。
どうする、どうするんだ俺。
そうだ、今の話から話題を少し変えておこう、つまり、
「その勇者イズキは異世界の人間なのか?」
「? そうですよ。勇者イズキは、異世界から来た方の勇者ですね」
「そうなのか?」
「ええ、異世界から来たものと現地のものの勇者と魔王がいますからね。比較的異世界から来た勇者と魔王の方が数が少ないので温厚らしいですね。もっとも現地人でも、魔王イザベラは温厚で、“常闇の魔王”は残虐非道といったような違いもありますし、勇者にも魔王と変わらないような人物もいますからね~。ただ単に人間が湧か魔族側かといった違いがある程度でしょうか。……というか、魔王なのにご存じないのですか?」
「俺はまだこの世界に来て日が浅いからな。なるほど、勇者イズキか。そういえば友人にそんな名前の人間がいたが、まさか本人じゃないだろうな」
ふと俺は呟く。
桜の例もあるから呟いてみたのだがそこでフィリが、
「そ、それでお姉様は生きているのですね!? レイナと言いましたか。城に案内なさい!」
「上から目線なのは置いておくとして、私は現在ここが何処なのかすら分からないので、案内しようがない」
「……」
「ただここが何処なのかを教えてもらえれば案内は出来る」
「では今すぐにでも……」
そうフィリが言いかけたところで、
「できましたよ~、皆様の分もありますし、お代わりもありますので言ってくださいね」
シエラが沢山の、クリームや果物で彩られた美味しそうなパンケーキをもってきた。
そこでフィリは目の前のパンケーキを見てから、
「……これを食べてから詳しい話はしましょう」
「そうですね」
フィリとレイナがそんな会話をしている。
仲がいい事は良い事だと俺は思いながら、俺もそのパンケーキを口にしたのだった。