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お茶のお誘いを

 まずは城の外に直接出ようとした俺だが、それだけはフィリに止められた。


「……遠距離が見えるのであればここから通話できるのでは」


 といった提案をフィリにされて試しにしてみると、倒れた彼女の前に小さな光の窓が現れた。

 とりあえず俺は話しかけてみることに。


「もしも~し、こんにちは~、本日はお日柄もよく~」

「……お腹が空いた。もう動けない」


 彼女がか細い声でそう呟いた。

 どうやら空腹で動けなくなっているらしい。

 なのでシエラに頼んでサンドイッチを作ってもらい、俺は飲み物としたコップに水を汲んで(この水道の水は何処からきているのか気になったが、魔法的な何かが働いているのだろう)、倒れた彼女の前に向かう事に。


 俺ではなくまずはフィリが声をかけるという事で何とか助けに向かうのを許してもらえたわけだが、そして城の前にまでやって来たフィリは、倒れている彼女の前で、


「愚かなる人間よ。どうしてこんな所にきたのか!」

「……はい、愚かでも何でもいいので……食べ物を……もう三日も何も食べていなくて……ようやく人の建物らしき場所に辿り着いて……後生ですから……食べ物を……」


 か細い声で呻くのみだった。

 もうこれはフィリの話を聞いていないなと俺は思ったので、シエラにサンドイッチを渡すよう言うと、シエラが彼女の前に食べ物を差し出したわけだが……。

 突然、彼女が起き上がり、食べ物を凝視した。


 そしてすぐに奪い去る様にしてサンドイッチをむさぼる。

 鬼気迫るその様子に俺が若干引いていると、彼女がむせたので、水を差し出すと一息で飲んでしまった。

 そしてすぐにサンドイッチを夢中で頬張り、やがてすべてを食べきってから、


「助かりました。いや~、道に迷って大変な目に遭いました。私はレイナと申します。所でここは何処ですか?」


 全く何も気づいていないような笑顔で彼女、おそらくは剣士であるレイナは俺達にそう言う。

 だから俺は魔王場ですなんて言わずにとりあえず近くの町にどういえばいいのかを教えて穏便に返してしまおうと考えた。

 のだが。


「ここは魔王の城です。貴方は魔王の城の前で行き倒れをしていたのですよ」


 フィリが悪い顔でそう告げた。

 さっとレイナの顔色が青くなる。


「ま、魔王って、この辺りに魔王の城はないはず」

「新たな魔王が生まれたのですよ。こちらにいる方が、我らが魔王、ヒロです!」


 フィリがそう紹介するので、とりあえずレイナにぺこりとお辞儀をして軽く会釈をする。

 するとレイナも軽く頭を下げて同じように会釈をした。

 それだけだった。


 小さな沈黙の後フィリが振り返り俺に、


「何でいきなり挨拶をしているのですか! 違うでしょう! ここは魔王としての威厳を見せて恐れおののかせるところでしょう!、何でそんな初めましてみたいな……違いますね、近所に引っ越してきた人にあいさつをするようなちょっと遠い感じの人に挨拶をするように声をかけるのですか!」


 なんとなく具体的なない様な気もしたがかといって、


「がはは、俺は魔王だ、恐れおののくがいい、みたいに言って欲しかったのか? フィリは」

「そうです、もっとこう、その血を持って我が糧と慣れみたいな怖い事を言ってもいいと思います!」

「……俺、もう高校生なので中二病はちょっと恥ずかしいかな」

「ちゅう? よく分かりませんがどうしてその発言が恥ずかしいと思うのですか。格好いいではありませんか! 悪の魅力が存分に出ていて! お姉様も楽しそうにそう言っていましたし!」


 フィリが必死で訴えかけてくるが、それは……そのお姉様が、いわゆる中二病を患っていたのでは、と俺は思ったが口にしなかった。

 それよりも目の前のレイナの様子が気になったからだ。

 現在青い顔で凍り付いている。


 どうしたものかと思いながらとりあえず俺は、


「ここで立ち話も何なので、城の中で話しませんか? お茶と……あればちょっとしたお菓子くらいは出しますが」


 と、話しかけたのだった。

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