城の前で誰かが倒れている
シエラの朝食は美味しかった。
美味しいという言葉で表現していいものか、凄く美味しい以外にどう表現すればいいのか。
悩んだが普通に無言で俺は食べることにした。
そして初めは警戒していたフィリも美味しいらしく、夢中でパスタを食べている。
俺達のそんな様子を嬉しそうにシエラは見ながら食べている。
あっという間にお皿を殻にした俺にシエラが、
「もう一杯、ヒロ様はお代わりしますか?」
「ぜひ!」
というわけで朝食から二杯目も食べてしまった。
そして美味しかったと素直に告げるとシエラは恥ずかしそうに微笑み、
「喜んでもらえると、やはり嬉しいですね。それに誰かと食事を一緒にしたり、食事を作るのも久しぶりでしたから」
「? 食事も作れなかったのか?」
「ええ。材料を買うのも難しくて、出来合いのものばかりに。他の方への接触は“呪い”の関係で極力抑えていましたから。ですからこうやって大好きな料理が出来て、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいです」
シエラがそう俺に言う。
そしてシエラが隣に座っているフィリを見ると、フィリは少し黙ってから、綺麗に食べ終わった皿を見て、
「ま、まあまあ、人間にしてはよくやりますね」
「そういってもらえて嬉しいです。今日はお昼は何を作ろうかな……あ、デザートもあるのですが、どうされますか?」
「食べます!」
即座に頷いたフィリだが、すぐに自分の言葉に気付いたらしく顔を赤くして、
「べ、別に私は食い意地が張っているわけではなく……」
「果実のソースが添えられた、ミルクのゼリーです。ほんの少し果実の蒸留酒で香りづけをしたものです」
とても美味しそうで女の子が好きそうな気がした。
実際に凝った模様のついたガラスの器に載せられたそれらのゼリーは、見た目もさることながら味もとてもよかった。
こうして美味しい食事と、料理人を手に入れた俺は異世界生活も悪くないなと思った所で声がした。
『城の前に、人間が現れました。城の前に人間が現れました』
野太い声でアナウンスがされる。
この声は気になるなと俺は思いながら、城の前の方を見たいと考えて、
「ここで、その城の前の状況を遠隔視出来ないか?」
俺がそう呟くと、光の窓のようなものが一つ出て、城の前が映し出される。
そこには女性が一人倒れていた。
剣士のようであるらしく、ビキニアーマーのようなものをつけている。
もっとも露出度を控えるかのように、それの内側や外側には薄い布などが幾重にも重ねられているが。
それでも胸のあたりはこう……と俺が思っているとフィリが立ち上がり、どこかに行こうとする。
「フィリ、どうする気だ?」
「怪しい人物がいるので、抹殺しようかと」
「どうしてそうすぐに……保護でいいんじゃないのか?」
「こちらの油断を見て殺しにかかってくる暗殺者。よくある手口です」
「……だが魔王は俺だから俺の意見を尊重してくれ。そして一応保護しよう。ただ行き倒れているだけかもしれないし」
「そんなそこにいるシエラもまだ私は信用していませんが、甘い事を言っていると寝首をかかれますよ! 幸運がそこまで続くとは思えないのです! ふにゃ!」
とりあえず俺はフィリの頭をなでなでしつつ、この行き倒れただろう人物に直接会うことにしたのだった。