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間男

 助けたアルビノの美少女が、嬉しそうに微笑む。

 それを見て俺は、先ほど逃げて行ったこの奴隷市場の人達の事などどうでも良くなってしまう。

 現金なものだが、好意に好意で返してもらえるのはやはり嬉しい。


 そう俺が思っているとそこでフィリが怒ったように、


「魔王ですよ、怖い魔王なのです。ほら、ヒロもこう、魔王としての威厳を……」

「いや、でもこうやって俺の力で喜んでもらえるのは嬉しいしな」

「喜ばせてどうするのですか! もっとこう、人間の慟哭を……」


 などとフィリが言っているが、ここで俺はある事に気付いた。

 つまりフィリはこんな事を言っているが、


「それで、その人間の慟哭とやらはどうするんだ? 例えば、えっと君の名前は……」


 そこまで言って俺は、目の前の呪われた奴隷少女だった彼女の名前を知らないことに気づいて、俺は問いかける。

 すると彼女は俺に微笑み、


「私はシエラと申します」

「シエラさんか。え、えっとそうだフィリ、それでその人間の慟哭とやらはどうするんだ? 呪い状態だったと仮定して」


 俺がフィリにそう問いかけるとフィリは目を瞬かせて(結構かわいい)、


「そ、そうですね、もっと呪いを強化するとか?」

「どうやって?」

「それは魔法ででしょうか」

「その魔法はどうやって使うんだ?」

「……」


 フィリは沈黙した。

 だが俺としては、どうやってそんな魔法を使うのかもわからない。

 何せこの世界に来たのはついこの前なのだから。

 

 そんな俺にフィリはしばらく考えてから、


「そ、それが駄目ならばまずは破壊をするのです! 破壊の化身として魔王は君臨すべきであって……」


 などと魔王論を語るフィリ。

 ただふと俺は気づいてしまった。

 魔王だの破壊だのと言っている割には、本当はフィリにはそんな事をする気も無くて、そしてそれ故に想像をできないのではないかと。


 結局この目の前の少女シエラを助けた後で、恐怖のどん底に陥れるような目に遭わせるとか拷問とかそういった話にはいかない。

 呪いを強化しても、よくよく考えるとこの少女シエラに周りの人間が触れられないだけで、普通に生活は出来ていたように思う。

 そこまで考えて俺は、嫌な事に気付いてしまった。


「シエラ、一つ聞いていいか?」

「? なんでしょうか?」

「どうして魔王に呪いをかけられたのかな?」


 俺がそう問いかけるとシエラは、


「それはその……その魔王に“求婚”されまして。お断りをしたら、呪いをかけられてしまい、仕方がなくいい方法がないか旅をしていたらこのような目に」


 恥ずかしそうにシエラが言う。

 だが今の話を聞いて俺は、これはひょっとして、寝取りとか間男の位置に俺はいるのではという気もしたが、不幸な少女を助けただけだと俺は自分に言い聞かせた。

 と、そこでフィリが、


「そんな話はどうでもいいです。まずは破壊、破壊、破壊を!」

「……いや町はそのままにしておく」

「何故ですか!」

「まだフィリは分からないのか?」

「な、何がですか?」

「建物は壊したら元に戻すのにもお金がかかる。人材もだ。だったら、そのまま自分の支配下に置く、そう、そっくりいただける方法を俺ならば考えるね」


 フィリにそう告げると、驚いた顔をして次に頷く。


「なるほど、確かにその方が合理的で効率的ですね」

 

 どうやら今の話で納得してくれたようだった。  

 そして今の会話から俺は、フィリは魔王としての行動に“理由”が欲しいのかもしれないと確信する。

 どんなものでも、物は言いよう、であり、実際の結果を見ないと幾らでもどうこう言えてしまう。


 建前は大事だなと今更ながら思ったのだった。


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