人間の三大欲求
この魔王は失敗だった。
絶望したように目の前の彼女はそう呟いた。
だがここで俺は気づく。
「もしや、望みにそぐわない魔王だと抹殺する、とか?」
「何を言っているんですか、そんなことできるわけないじゃないですか。魔王召喚は、私の命と繋がっています。魔王を殺したら私も死んじゃいますよ」
「そ、そうなのですか」
「それに魔王、そう、こう見えても魔王なので私の力では倒せません。ああ、どうしてこんなことに」
そうひたすら目の前の銀髪美少女が嘆いた。
しかも俺と彼女は一蓮托生な状態らしい。
そして彼女が俺に望んでいたものは、物語などに出てくる悪逆非道な“本物の魔王”であったようだ。
ただ今の話を聞いていると、
「ひょっとして君……えっと、名前は何だっけ」
「フィリです。ああ、もうどうすればいいんだろう。ついてないよ、こんなに苦労して呼び出した魔王がこんなのなんて、はあ……」
「悪かったな、こんなので。それでフィリはもしかして、俺がフィリを殺したら俺も死ぬのか?」
「当然ですよ。でなければ呼び出した魔王をいいように操る前に、殺されかねないじゃないですか」
「なるほど、命が繋がっている状態か、なるほど……女の子と……」
どうやら異世界に連れてこられたら美少女と、一緒に生きなければならない定めであるらしい。
この目の前の美少女と。
これはアリだなと俺は思った。
イケメンチートはないが、まずはひとり美少女を手に入れた!
これは彼女いない歴=年齢の童貞な俺にとって輝かしい戦果の一つである!
だがここで俺は気づいてしまった。
「待てよ? フィリは本当に女の子だよな?」
「は?」
そこで俺が問いかけると、フィリは間の抜けた声を上げた。
だが俺がそう思ってしまうのは無理がないと思う。
小さくスレンダーな体つき、好意的に言えばそうなるのだが、そのものずばりで言うと胸がつつましすぎるのだ。
今まで可愛い子が出てきたなと思ったらという驚愕の展開を数少ない割合で見て学習した俺は、もしやフィリは、静かなブームと言うか局所的にはやっているあの、
「男の娘、とか?」
「! わ、私は女の子です! 胸が小さいだけですぅううう」
「ごふっ」
そこで顔を赤くして服の上から自分のちいさな胸を腕で隠しながら、片手に何処からともなくフライパンを取り出して、フィリは俺を殴りつけた。
非常に痛かったが、羞恥心に苛まれる美少女を堪能できたから良しとしようと俺は、ぐらぐらする頭で思った。
ハアハアと息を荒げたフィリは、どうやら今のを全力で殴ったらしいのだがそれでも怒りが収まらないらしく、
「こ、このエロ魔王が。頭の中は女の子とかそんな事しかないのですか!?」
「人間の三大欲求の一つは性欲です」
「貴方は人間ではありません、魔王です! というか三大欲求って何ですか!?」
「俺達の世界で大切な三つの欲求です。残りは睡眠欲と、食欲です」
「……魔王なのでその残りの二つは必要ありません。魔力で全て解決……まさか、だから、その最後の一つが残っているとか!?」
今更ながら衝撃の事実に気付いたらしい彼女だが、俺としては食べなくてもいいし、寝なくてもいい体になったらしいとしる。
これはその間の時間好き放題できるんだなと気づきつつ……そういえば目の前のフィリは、
「俺と命が繋がっているから殺せないと言っていたが、くくく、殺す以外に何をされるか考えたことはあるか」
「な、な何をする気ですかこのエロ魔王」
「……さあ、どうする気なのかな」
そう俺はにやりと笑いながら、怯えたようにこちらを見るフィリに手を伸ばしたのだった。
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