魔王の呪い
少女の声がして振り向くとそこにいたのは、白い髪に赤い瞳の儚そうな少女がいた。
アルビノ、という人間なのかもしれない。
下の方がボロボロの黒いワンピースを着た少女で、無表情だ。
だがそれらよりも目立つのが、彼女の周りに浮かんでいる黒い霧のようなものだった。
それらは彼女の体にまとわりついている。
ゲームや物語の知識から考えてみると、呪われているように感じる。
そう俺が思っていると彼女は近づいてきて、
「呪いを受けたために、一つの場所に居られず、あてどなく旅をしておりました。この姿を見せ物にして何とか日銭を稼いでおりましたが、それを奴隷商に見られてそのまま捕らえられてしまいました」
「呪われた人間を売ったりもするのか? 呪い解除を後でするのか?」
「いえ、この呪いは解けません。“魔王”に逆らったがために、かけられてしまった呪いですから。しかもこの呪いは“魔王”と同等かそれ以上の魔力を持たないと解けないそうです」
悲し気に顔を伏せる少女。
彼女を見ながら俺は、確か俺の設定? で最強魔王なんてものがあったなと思い出した。
けれど呪いを解く手順はあるのだろうか?
この世界の魔法には詳しくない俺は試しに聞いてみる。
「その呪いは魔力のあるその“魔王”がある手順を持たないと解けないのか?」
「いえ、この呪いに触れて解除したいと思わせればいいそうです」
「なるほど、結構簡単なんだな」
「え? 簡単、ですか?」
目の前の少女は目を瞬かせて俺を見た。
だが俺としては特に怪しい呪文なり魔力の波動? を操ったりする必要はないので“楽”だ。
だってそれは、何か考えながらスイッチを押す程度のものであるらしいからだ。
よし、やってみるか、と俺は手を伸ばす。
すると焦ったように少女が、
「あ、それを触るのは……触れただけでその場所がただれて使い物にならなくなります」
「そうなのか?」
「はい、ですので魔法材料といった意味で、私は高値で売りさばかれる予定だったそうです」
「えげつない事をするな。さてと、そんな呪いはすぐにでも解除してしまう」
そう俺は小さく呟いて、少女に手を伸ばすと、少女は逃げ出した。
「は、話を聞いていたのですか!」
「うん、聞いていたから追いかけているんだ」
「い、幾ら力が強いからって、“魔王”の呪いですよ!?人がどうこうできるものではないですぅうう、え? ふああああああっ」
そこで、つまずいて少女が転んだ。
どうやらドジっ子属性が少しあるようだ。
そう俺が思って近づき、呻く彼女の肩をポンと軽く一度叩いた。
「! だ、駄目です! ……あれ? 靄が消えて……」
「よし、成功したみたいだな。あ、立てるか?」
そう言って俺は手を差し伸べると彼女は恐る恐る俺の手を掴み、立ち上がる。
それから彼女は俺を見上げて、
「もしやあなた様は勇者様ですか?」
「あ、えっと、違います」
ここで俺は魔王だなんていうのもどうだろう、と思っているとそこで何故か一部始終を見ていたフィリがやってきて、
「違いますね、ヒロは貴方に魔法をかけた人物と同じ、魔王です! さあ、恐れおののきなさい!」
「……魔王でも優しい方がいらっしゃるのですね」
そこで少女が初めて、輝くばかりの笑顔を浮かべて俺を見たのだった。