悪人を倒してみた
この悪人の名前をそういえば聞いていなかったが、その辺りはどうでもいい。
固有の名前があるとその悪人の胸糞悪さが脳内で残り続ける気がして俺は嫌だから、これくらいが丁度いいかもしれない。
悪人と名付けて俺は、味方すらも巻き添えにするその頭の悪さと残虐さに不愉快さを覚えながら、現在も攻撃してくる炎を適当にそらす。と、
「この、まだ倒れないのか! だがいつまでも防御に回っているという事は、俺のこの攻撃が受け止めきれない、という事だな! ならば……こうしてやる、“火炎塊”」
また何やら技名を叫び、俺に向かってこの悪人に向かって、炎のひときわ大きな塊……俺の身長よりも直径が大きな球状の炎が俺に迫る。
これはちょっと大きすぎてそらせない、と俺は冷静に考えて、どこか遠くに掘り投げる事にした。
ひゅん
小さな風を切る音と冷気が一瞬俺の前に現れるが、すぐにその各々塊と熱によって消えた。
適当な人に害のない湖の中央部分当たり、という、極めてて適当な指令で呼び出した空間につなげてそこに誘導したのだ。
だが何が起こったのか分からない。
悪人はそんなきょとんとした顔で俺を見ている。
どうして倒れていないんだという顔だ。
それを見ながら俺は……嗤った。
「今、俺が何をしたのか……そう思っただろう?」
「! な、なんでわかった」
「その顔を見ればわかるさ。そう、お前は俺が何をしたか全く分かっていなかった。そして、誰に向かって攻撃を仕掛けたのか、もな」
「なん、だと」
この悪人の顔に一瞬怯えが走る。
だが俺がこういったのには理由がある。
つまり、その恐怖で怯えてしまうがゆえにその場から動けず攻撃してこないようにしたのだ。
他にも先ほどの技を俺以外に向けると、下手をすると周りの人間が怪我をしてしまうかもしれないからだ。
どうやらこの世界には魔法があるけれどそこまで一般的ではないようだから。
だから一般人は先程の魔法に無力なのだ。
そういった理由から俺はそう挑発する。
そして悪人は動けない。
だから俺は更に彼に告げた。
「今の力は、お前の魔法をこことは別の場所に放り出したのだ」
「べ、別の場所、どこだ!?」
「さてね。ここのすぐ近くかもしれないし、こことは違う“異界”かもしれない。この俺にも何処になげたかは分からないな。運が良ければ、この世界の何処かかもしれないが」
「ひ、ひぃ」
怯える目の前の悪人。
さらに一押し、と俺が思いながら、
「いいだろう、今こそ俺の真の力を見せてやろう」
といって俺は彼の目の前に手を伸ばす。
怯えた目で俺を見る目の前の悪人
ちなみにこんな動作は必要ないが、一応は魔法使う時はポーズをとるべきだと俺は思うのでこうした。
そして特殊能力を使う。
「お?」
悪人は間の抜けた声を上げた。
同時に彼の大きな槌が宙に浮かんでいき、はなさないぞと握っていた悪人の体も宙に浮く。
つぶらな瞳で俺を見ている気がするが、数メートル上空にまで運んでから俺は、空間を繋げる。
とりあえずは先ほど俺達が来た町の外でいいだろうと思って、そこにつなげてそのまますうっと、悪人をこの場から転移させた。
これで恐怖感は植え付けただろうし、もう悪さもしないだろうと俺が思っているとそこで、
「うわぁああああ、化け物だぁあああ」
「ぎゃあああ」
「逃げろおおおお」
といって奴隷の皆さんが逃げていく。
それを見ながら俺は、
「あれ?」
そう小さく呟いたのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。