声は届いたらしい
振りかざされるその巨大な金属性と思しき槌が、俺のすぐ横をかすめた。
「おっと、危ない危ない」
俺は危なかったなと思いながら避ける。
先ほどから紙一重に割けている俺。
ものが当たりそうになった時など、妙にうまく避けるなと依然言われたことを思い出した。
変な才能があってよかった! と俺が思っているとそこで目の前の男が、
「この、ちょこまかと……」
などといっているが、踏みつぶされたくなければ逃げるのが当たり前である。
ハエだってハエたたきで追いかけまわされれば逃げるのだ。
俺が逃げない道理はない。
しかしこんな風に気軽にこんな大きいものを縦横無尽に振り回せるものだなと俺は思う。
これも魔法の力なのか、それとも初めは小さなトンカチだったのでこの巨大化している見た目は、風船のように膨らんでいるだけで実際は中が空洞であり、炎の効果が一番なのかもしれない。
炎が問題ならば、俺達の世界の法則に照らし合わせると、酸素の供給を断てば炎は消える。
このもえている炎自体、何かのガスが周りを覆っていて、そこから酸素が供給されるとも考えられるがそれは炎自体が俺を攻撃する前に風で吹き飛ばし、俺に影響がない程度の……大きいホッカイロにするという手もある。
「試してみるか」
俺は小さく呟いて、わざとつまずきかけたように見せかける。
背後を見ると悪人が笑い、空高く槌を振りかぶり、俺に向かって降ろそうとするのが見える。
「ヒロ!」
フィリが焦ったように俺の名前を呼ぶ。
桜は黙って何かの準備をしているようだが、実の所、手出しはしないでほしかった。
目の前に槌が迫った所で俺は、そこから重力を軽く操作して体を軽くして跳ね飛ぶ。
がしゅっ
鈍い音がしてその槌が地面にのめりこむ。
その槌自体が大きな金属の塊で、そこそこの高さから降り下ろされた……と考えると。
「めり込み具合から、アレがほぼ丸っと金属に見えるな。そして振り回せるのは魔法の力か」
となると炎の効果プラス金属の塊での攻撃になる。
さすがは魔王の武器といえそうな凶悪さだ。
いざとなったらあらゆる攻撃手段でこの武器を徹底的に破壊つくす程度の攻撃を食らわせれば、力によるごり押しで何とかなるだろう。
ただ周りへの被害がどの程度になるか分からないのが、俺の躊躇する原因だ。
そこで目の前の悪人が、
「く、こうなったなら、この技を使わざる負えないようだな」
などといっていたので、どうやら必殺技のようなものを使う気らしい。
そこで悪人は俺の方に向かって槌を差し出してからにやりと笑い、
「我が奥義“火炎槌”」
そう悪人が言うと悪人自体がぐるぐると回り始める。
同時にその回転の反動で周りに敵味方関係なく炎の塊が飛ばされる。
俺は風を使って受け流したが、周りにいる敵は別として、普通の奴隷の人達を怪我させるわけにはいかない。
だから俺は桜たちに、
「桜、フィリ、一般の人を守ってくれ」
返事は風の音と炎の音に紛れて聞こえない。
だがその炎がやんだ時に敵は全滅していたが、桜やフィリ、奴隷の人達は無事だったので声は届いたのだろう。
そこで悪人が、
「まだ生きていたか」
「……他の人を巻きも無用な技を使うなよ。一応はお前の味方らしき人達も巻き込まれているぞ」
「関係ないね。あいつらが弱いから悪いんだ」
嗤う悪人らしい答え。
だから俺も、俺なりの信念を持ってきめたのだった。
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